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死の馬

 通りかかったその村は、名をルルブラと言った。家の数も少なく、土地がやせているのか、畑の作物も、今一つ精彩がない──葉の繁り具合も小ぶりで、葉そのものも小さく、つややかではないようだった。


(……ひょっとして、こういう種類の野菜、なんだろうか?)


 思わずそう思ってしまうほど、貧弱な実り。実をつけているところを見ても、他の場所で見たのとは大きさも違うし、色つやも違う──ありていに言えば、美味しそうには見えない、のだった。

 野菜だけではない。季節がら、今は春播きの麦の収穫時期のはずだが、麦の穂に実りは少なく、畑に出ている人の様子も、物憂げで、何やら苛立っているようにすら見えた。


 (作物の出来が悪いから、みんなの機嫌が悪いのか、こんな人たちが作るから、麦や野菜が育たないのか……なんて、そんなことはないはずだよね?)


 あまり、長居はしたくないな、と思いつつ、それでも見つけた宿屋で泊ることにする。

 幸い、マーヤーの(ほか)に客はなく、他の旅人と相部屋にならずに済む。


 これからどうしようか、とマーヤーは考えていた。

 ファービュアスの予言――ファービュアスの記憶は正しかった。

 シュタイナー商会のこと。

 ラルシャのこと。

 思い返せば、それらはいずれも、ファービュアスの語ったとおりのことだった。

 そして、聖騎士の長ザザロ・フォーレイトンは、マーヤーの父は帝国の大貴族だと告げた。これもファービュアスの言葉通りだ。

 予言の通りなら、マーヤーは、平凡な生活を望むことはできない。――これは、ラルシャと別れるときに、もう覚悟したことだ。マーヤーは魔法使いとして生きるのだ。

 しかし、だからと言って、冒険者として生きようとも、思っていなかった。それはマーヤーの望みではない。――もっとも、そうせざるを得ない未来を、ファービュアスは告げていた。それはわかっている。

 長い旅を続ける未来。それをファービュアスは宣言したのだ。マーヤーの知る限り、それは冒険者としての生活だ。商人や僧、あるいは芸人のような旅に生きる人々も知らないわけではないが、それはマーヤーには縁のない世界だから。

 もし、どこかの土地に落ち着こうとしても、それは破られるのだろう。――ラルシャの村の時のように。


(ねえ、未来、って、そんなガチガチに決まってるものなの…?)


 もし、すべてのものの一生がすべて決まっているなら、未来が全部決まっているのなら。


(いつか、それは終わるの? ……もう、終わっちゃってるの?)


 だとしたら、今生きている自分は何なのだろうか。

 誰かの過去。

 生まれ変わった先の、その誰かも、また別の誰かの過去。

 一番最後の誰かは、今、どこで――いつ、どうしている?

 考えても答えの出ない問いに、マーヤーは、それ以上頭を悩ませるのをやめた。


(とりあえず、どこか大きな町へ行こう、か…)


 自分の両親のことを知ろう、と思う。

 平凡な暮らしのために、これまで避けようとしていたこと。

 それを、知って――確かめておこうと思う。

 この先、ずっと避け続けるにしても、いつか近づくにしても、相手のことは知る必要がある。

 そして、もしかしたら、それが未来の手がかりになるかも知れないから。その思いに根拠はないけれど、他に何か当てがあるわけでもない。

 どうせ、当てのない旅を続けるのなら、思いついたことから始めるのも悪くない。

 そう思ったのだ。


 そろそろ、辺りは薄暗くなりかけている。

 窓に付けられた木板(きいた)を押し上げて外を見ると、井戸から汲んできたのだろう、大きな水桶を抱えた少女がやってくるのが見えた。

 年の頃はマーヤーよりも2つか3つ、下だろうか。やせた身体に、途中で見かけた村人よりも粗末な服装。桶を抱えて、1軒の農家へと入っていくのが見えた。


(家の手伝いかな?)


 ぼんやりと眺めていると、少女は、(から)の桶を抱えて家から出て来た。今来た道を、また戻っていく。


(ああ、水汲みか、あれ、結構つらいよね……)


 自分の修行時代を思い出し、感慨にふける。小さな子供が水汲みにやられるのは珍しいことではない。小さな村の中のこと、広場にある共同井戸までの往復なら、特段の危険があるわけでもないし、慣れた日々の仕事であれば、さほどの困難でもない。

 森の中で暮らしていたマーヤーが、毎日、何度も泉まで往復していたことを思えば、楽なものだ、とも思う。魔法を覚えるまでは、マーヤーも、自分の体ほどもある水瓶を、重い思いをして運んだものだった。物を浮かべる魔法を習ったときは、だから、これで重労働から解放される、と喜びに震えたものだった。もっとも、それからは、魔法の修行のために、一度にもっとたくさんの水を、それも魔法だけで運ぶよう言いつけられ、かえって厳しい思いをしたのだが。

 他にすることもなく、マーヤーが見ていると、日暮れまでに少女は5回も水を汲んで、運んできていた。そして、5回目の水桶を運び込むと、その後、少女は瓶を持たずに家から出て来て、近くに生えている木の根本に座り込んだのだった。手に、両の(こぶし)を合わせたくらいのパンを1つ持っているのがわかる。


(え? あんなところで、何?)


 すでに日は落ち、あたりは暗くなりかけている。夕闇の中で、少女はパンを食べ、そして、座り込んだまま、そこでうたたねを始めたのだった。


(どうして、家に入らないの? ……え、何か違う?)


 わけが分からなくなって、マーヤーは混乱した。

 少女は、なにかの咎で追い出されたわけでもないようだ。殴られたりした様子もないし、泣いている様子もない。寂しげではあるものの、むしろ、穏やかな表情を浮かべたその様子は、これが日常の情景であると感じさせる。


(え? まさか、あんなところで寝るのが好き……、なんて、いくら何でも違うよね?)


 今は、10月も半ばを過ぎ、秋は深まってこようという時期だ。昼間こそ、多少汗ばむほどにはあるとはいえ、日が落ち、時がたてば夜気は冷たくなってくる。


(あの子、あんなに薄着なんだよ? あれで一晩、外にいるつもり?)


 さすがに半そでではないものの、薄物の上下はこの季節、夜を過ごすには不十分に見える。


(いっそ、あの家に行って、親に意見する……? いやいや、それは駄目かな。この辺の風習、わたしは知らないし)


 あるいは、何かの通過儀礼かもしれない。もしそうなら、邪魔をすればとんでもないことになる。実際、他の土地の者には異常としか思えない風習のある邦には記憶がある。納得できたわけではないが、確かめもしないで、うっかりしたことをするわけにはいかない。

 窓の戸板(といた)()ろすと、マーヤーは、宿屋の食堂へ向かった。

 食事を注文しながら、宿の主人に、外にいるあの少女のことを訊いてみる。

「向こうの家の、あの子は何なの?」

「あの子?」

「家の(そば)にある、木の下にうずくまってる子。あんな薄着で、寝かけてる子」

 それを聞くと、主人は、ああ、と大きく頷いた。

「ジャミラだな、お前さんの言ってるのは」

「ジャミラ? それが、あの子の名前?」

「そうさ、親なしジャミラ、家なしジャミラ、って、みんなが呼んでるさ」

「親なし……、って、身寄りがないの?」

「家族もいないし、家もない。金もなければ、何かできることがあるわけでもない」

 不機嫌そうな顔で主人が言う。あまり、彼女のことを話したくない、といった様子だ。それには構わず、マーヤーは質問を続けた。

「何もできないの?」

「ああ、家のことだって、満足にできないくらいさ。まあ、無理もないがね。あんな細い体じゃ、一人前の働きなんか、できようもないさ」

 それはそうだろう、とマーヤーは思う。あの年頃なら、まだ、親の手伝いをしながら仕事を覚えていく時分(じぶん)だ。親がいなければ、仕事のコツも習っていないだろう。

「それで、あんなところで、いつも寝てるの?」

「今日は、マシューの家の手伝いだったっけな。1日、誰かの家の手伝いをして、その日のパンにありつくのさ」

「パンだけなの」

 マーヤーの視線を受け、主人は訊かれたことに思いが及んだようだ。渋々、といった感じで彼が答える。

「ああ? ……ああ、家の中に入れてもらえないのか、って話かい? それは、相手によりけりだな。マシューのところは、あれで結構大所帯だ。ジャミラまで一緒に寝かす余裕がないのさ」

「誰か、雇ってあげたりはしないの?」

「雇う? おいおい、こんな村だぜ。人を雇うようなところがあるわけないだろう。そんなゆとりもなければ、必要もないんだ。交替で、家の手伝いをさせてもらえるだけ、御の字さ」

「そうなの」

「ああ、俺達だって、家族を食わせていくのが精一杯なんだ。とても、他人(ひと)の面倒なんて見てられないのさ」


(そうなんだ……。冷たいように見えて、これが精一杯の善意なんだ)


「わたしが、あの子をここに泊めたら、いけない?」

「お前さんが……? それは、つまり、ジャミラの宿代を出す、ってことか?」

「そう。だめ?」

 マーヤーの問いに、主人が顔をしかめる。

「そりゃあ、ここは宿屋だからな、金さえ払うなら、俺から文句は言えねえだろうさ。だが、悪いことはいわねえ、やめといた方がいいぜ」

「なぜ?」

 不思議に思って聞き返したマーヤーに、人差し指を立てて主人が言う。

「一度だって誰かがそんなことをして見ろ。ジャミラは、次を期待するようになる。そうなれば、今の扱いに不平を覚えるに違いないんだ。ギリギリのところでやりくりして、ジャミラに手を差し伸べている俺達に不満を抱いて、今の感謝を忘れっちまう。そうなりゃ、ジャミラも不幸だ。村の奴らだって、いい気はしねえ」

「ふうん……」

「だからな、ここにはここのやり方があるんだ。他所(よそ)の者にはわからないだろうが、そういうもんだと割り切ってもらいてえな」


(そういうものなの? ……何か、違わない?)


 言いようのない違和感を感じるが、しかし、主人の言うことに言い返すことはできない。所詮、自分は通りすがり。いずれ、ここからいなくなってしまう身だ。その後のことには関われない。いくら不満に思えても、責任の取れないことをするわけにはいかない。

 食事を終えると、マーヤーはそのまま部屋に戻った。


 窓の戸板を押し上げ、暗がりをすかしてみる。

 ジャミラは、木の幹に寄りかかって眠っているのが見えた。

 宿の主人の言ったことは、全部が本当なのだろうか。


(ううん、違うと思う)


 そう思ったことに根拠はない。もしかしたら、無理にそう思い込もうとしたのかも知れない。

 窓から、そっと部屋を抜け出すと、マーヤーは眠っているジャミラの側へ歩み寄った。

 マーヤーが近づいても、ジャミラは動こうとしない。微かな寝息が聞こえる。


(もう、寝ちゃってるんだ……)


 少しためらいつつも、マーヤーは声をかけた。名を呼ばれたジャミラが目を覚まし、うっすらと目を開く。

「あなたは……ジャミラ?」

 マーヤーの問いに、ジャミラはこくりとうなずく。

「ここで、あなたはどうやって暮らしてるの」

 黙ったまま答えないのは、マーヤーの言った意味がわからないからだろうか。そんなことなど考えたこともない、という感じで、ジャミラはマーヤーを見つめていた。

(つら)いと思わない?」

 今度も返事はなく、表情のない瞳が見返すだけだ。そんな様子を見て、マーヤーは思い切って訊いてみた。

「わたしと一緒に、遠くへ行かない?」

 ううん、とジャミラは首を振る。

「いつか、迎えに来るの」

 小さな声だが、はっきりとした、確信に満ちた口調。

「誰が?」

「白い馬」

 間髪を入れず、迷いのない声が答える。

「馬?」

「そう。だから待っていなくちゃいけないの」

「馬はあなたを連れて行ってくれるの?」

「そう。幸せに暮らせるところへ」

「だれが、そう言ったの?」

「ママ」

「そう、あなたのママなのね」

 ジャミラは、じっとマーヤーの目を見つめる。

「あなたの目、ママと違う」

「わたしの、目?」

「うん。ママの目はわたしを優しく包んでくれた。あなたの目は、何か、軽く(こす)ったり、叩かれたりしてるみたい。……冷たい感じ」


(え、わたし、そんな目、してる……?)


「村の人とも、違う目。乾いた、(そば)を、さっさと素通りしてくみたいな目」

「村の人は、どんな目」

「わたしに触れるみたいな目。ママみたく優しくないけど、冷たくもない」

「ママは、どうしたの?」

「死んだ」

「……いつ?」

「知らない」

 そう言って、いやいやをするように首を振ると、それきり、ジャミラは何も言わなくなった。


 翌朝、マーヤーは宿の主人に話してみた。

「白い馬、って聞いたことがある?」

「白い……首のない馬かね」

「首のない……馬?」

 思いかけない答に、マーヤーが聞き返す。

「ジャミラがいつも言ってることさ。白い馬が迎えに来てくれる、ってな」

「迎えに来るの、馬が?」

「は、ばかばかしい。人を迎えに来るのは、首のない馬さ。昔から、そういい伝わってる」

 吐き捨てるような主人の言葉に、マーヤーは違和感を感じた。じゃミラの言うことを信じていない、とかそういった感じではない。

「首のない馬が、迎えにくる……?」

「ああ、そうさ。人の命が尽きる時にな」

「人が……死ぬとき?」

「首のない馬は死神の使いだ。誰でもいつかは、迎えに来るだろう。そんなものが迎えに来た日にゃ、あいつもおしまいさ」


(そういう言い伝え、……かな。この村の伝承なのかな)


 死者を連れて行く者、死の近づいた者を迎えに来る者、と言う伝承はめずらしくない。この村では、それが馬の形を取っているのだ、とマーヤーは思った。


 予定を変えて、もう少し、村にいてみようと思う。

 ジャミラのことが気にかかったから。彼女の言う、馬の話に興味を引かれたから。

 そう考えて外を見ると、もう、木の下にジャミラの姿はなかった。

 そんなマーヤーの様子を見て、鼻を鳴らしながら主人が言う。

「今日は、ジョンの家の手伝いさ。東のはずれだな」

「そう。ありがと」


 言われた通り、村の東の方へ行ってみる。果たして、そこに、麦の穂束を運ぶジャミラの姿があった。

 おそらくは彼がジョンなのだろう、小太りの、ずんぐりとした体つきの男と、その妻らしい女の刈り取る麦を、集めて束にしてジャミラが運んでいる。

 物陰から様子を見ていると、ジョンが、マーヤーに気づいたらしかった。じろり、と睨んでくるのを、マーヤーは素知らぬ顔で目をそらす。

 ジョンは露骨に無視されておもしろくなさそうだったが、それ以上絡んでこようとはしなかった。

 1日が終わると、ジャミラは、ジョンの家に招き入れられた。そして、日が沈んだ頃、また、ジャミラは家から出てきて、麦畑の脇に腰を下ろした。


(今日も、外で寝るんだ……)


 ジャミラに話しかけようと思うが、思いとどまる。マーヤーは宿に戻ると、遅めの夕食を取った。


 (あんなところで、寒くないんだろうか…)


 薄着でうずくまる彼女の姿を思い浮かべ、心は引かれる。だが、施しをしよう、とは思わない。それは、マーヤーの心から出た行為ではあっても、結局は傲慢の表れでしかない。何かを与えて、それでいい気になるつもりはなかった。


 それから数日、隠れてマーヤーはジャミラの様子を窺っていた。

 ある日は、井戸端での洗濯や水汲み、といった家事の手伝い。

 別の日には、畑仕事の手伝い。

 近くの山へ薪を取りに行かされた日もある。夕暮れまでに何度も往復し、そのたびに、自分の体ほどもある薪の束を背負って戻ってきていた。

 豚を屠って、解体をする、その作業の手伝いをさせられるのを見た日もある。

 小さな身体ではできないほどの仕事こそさせられていなかったが、決して楽なことではない。

 手伝いをした家で眠った日もあった。しかし、外に出されて眠る日も。マーヤーの数えた中では、外で休む日の方が遥かに多く、そんな日、ジャミラは、いつも同じ薄手の服で眠る。そう気づいて思い返せば、ジャミラはいつも同じ服を着ていた。


 何日かして、また、マーヤーはジャミラに話しかけてみた。既に夕闇は濃紺の夜の闇へと深まりかけている。

 マーヤーの声を聞いて顔を上げたジャミラの目に、暗い光が宿る。

「また、来たの」

「うん、嫌だった……?」

「……別に」

「もう、寒くなるね」

「そうね。でも、もうじき迎えに来るんだよ」

「誰が?」

「白い馬」

 そういうと、ジャミラは、やおら立ち上がった。

 そして、そのままマーヤーに背を向けると、広場の方へと歩き去って行く。


(嫌われちゃった……かな)


 そう言って、見やった後姿(うしろすがた)が、宵闇に溶けるようにして見えなくなる。

 消えていった後姿を負うように、闇を透かして遠くを見つめていたマーヤーの目に、ぼんやりと白いものが映る。


(え? ……なに、あれ)


 それは次第に大きくなってくる。最初は、白っぽい綿埃(わたぼこり)のような、()みのように見えていたものが、次第に、何かの形をとり、輪郭がはっきりとしてくる。始め、鳥のように見えていたそれが、徐々に近づいてくるにつれ、4本の足を持った大型の動物であるとわかってくる。


(馬だ、翼の生えた馬が飛んでくる……!)


 4本の足の動きは、まさしく馬のギャロップだった。次第に全身の形がはっきりしてくると、それが正しかったことがわかる。そして。


(頭が……ない!)


 馬の首の先端は、ずんぐりと丸くなっていて、その先にあるべき頭部がなかった。


(首の……ない馬!)


 馬は、ジャミラの去っていった先、広場の方へと降りてきている。


(ジャミラ! ……いけない)


 考えるより先に体が動いていた。気が付くと、マーヤーは、広場に向かって駆け出していた。

 広場に着くと、ジャミラの前で、馬は、翼をたたみ、体をかがめて背を差し出していた。その首に両手を回し、ジャミラは馬の首に頬ずりをしている。

「ジャミラ!」

 マーヤーの声が、ジャミラに届いている様子はない。聞こえていないのか、それとも、無視しているのか。やがて、ジャミラは、馬の背に手をかけると、翼をステップ代わりにし、その背中に上っていった。


(だめ、馬に乗ったら……)


 ジャミラを迎えに来た馬。

 ジャミラを連れて行こうとしている馬。

 馬に連れていかれるジャミラ。

 馬と一緒に行こうとしているジャミラ。

 馬と行くことを望んでいるジャミラ。

「待ちなさい、ジャミラ!」

 マーヤーの声が、夜の闇に空しく谺した。


 背にまたがったジャミラを乗せ、馬は翼を広げると、大きく羽ばたいて空中へ舞い上がった。そして、夜空高く上ると、そのまま銀河の中へ姿を消していくのが見えた。


(ジャミラ……)


 なすすべもなく宿へ戻ったマーヤーは、翌朝、ジャミラが死んだと宿の主人から聞かされた。

 村人の声を聞いて広場に赴いたマーヤーは、そこに横たわるジャミラの姿を見た。

 ジャミラの死顔は、まるで眠っているようにやすらかで、ほんのりと赤味が差しているようにも見え、その口元にはかすかな笑みさえ浮かんで見えたのだった。


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