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山賊退治(4)

 次の朝。

 早起きして外へ出た村人は、中央の広場に1人の男を見つけた。両手両足を縛られたまま眠っているその男は、山賊たちの1人だった。

 知らせを聞いて、たちまち村人たちが集まってくる。


 あたりのざわめきに、異変を感じた男が目を覚ます。周囲を村人たちが取り囲んでいるのがわかる。一瞬、血の気が引くが、それでも虚勢を張って見せるだけの意地は残っていた。

 「な、なんだお前ら、一体、これは、ど、どうなってんだ」

 村人たちの視線が男に注がれる。

 「俺様に、こんなことしやがって、只で済むと思ってるのかよ」

 その言葉に、村のリーダー格らしい男が反応する。男の期待していたのとは真逆(まぎゃく)の反応だ。

 「ああ、只じゃ済まねえよな…さんざん、村を荒らしまわっておいてな」

 その目には、凶暴な光がある。それを見た村人たちが、彼をたしなめようとする。

 「お、おい、そんなこと言ってていいのかよ、仕返しが怖いぞ」

 1人が言ったのを好機と、山賊がその尻馬に乗る。

 「そうとも、さっさと縄を解かねえと、ひどい目に合わせるぜ」

 しかし、それは逆効果のようだった。

 「縄を解いても、仕返しに来るんだろう?」

 そう言いながら、リーダー格の男が山賊の方へ、ずい、と詰め寄る。

 「い、いや、そんな、ま、待て、待てったら」

 リーダーが、男の鼻っ柱をいやというほど殴りつけて黙らせる

 「一体何があったのか知らないが、こうなった以上、もう、ぶつかるしかない。奴らが来るのを待ってても、やられるだけだ」

 「だ、だったらどうする、ってんだ」

 リーダーの言葉に、ひるんだ様子の別の男が言った。それをじっと見据えてリーダーが言う。

 「こっちから行くしかないだろう」

 「行く、ったって、奴らの居場所は山の中だ。どこに隠れているかわからないんだぞ」

 「こいつに案内させるんだ。こうなった以上、もう他に道はない」

 強い口調で言った声が、反対の声を黙らせる。


 リーダーに説得され、村の若者たちを中心に、男たちが、総出で山へと向かう。その数52人。山刀や、手斧、長柄の鎌──刃が前方へ向かって伸びた、武器にもなる鎌、棍棒などを持って。何人かは長剣を佩いている──少し離れたほかの村にでも旅するときに護身用に持つものだ。当然、業物(わざもの)などではないし、それを持つ者の腕前も、武器に見合った程度の練度(レベル)だ。

 先頭には広場で捕まった男が、首に草刈鎌を当てられて歩かされている。脅され、小突かれながら、無理やり道案内をさせられているのだった。気が立って興奮しているからか、あるいは緊張を隠そうとしているのか、村人たちの、男に対する態度は猛々しく荒々しい。男の顔の何カ所からか血が滲み、小突かれて転びそうになるたびに、村人たちの残忍な笑い声が上がる――もしかしたら、そうやって恐怖を隠そうとしているのかも知れなかった。


 そのころ、山賊たちの隠れ家では、仲間が1人いなくなっているのに気づいて、捜索が始まっていた。

 夜中に抜け出したのではないか、熊にでも襲われたのではないか、なにか魔物(モンスター)の仕業なのではないか、と、口々に、半ば冗談めかし、半ば本気で言いながら。

 そうして、仲間を探しに出ていた山賊の1人が、村人達に連れられてやって来る仲間の姿を見つけたのだった。

 「村の奴らだ。ジムめ、どうして奴らにつかまってるんだ」

 異常を感じた山賊は、慌てて仲間に知らせに走った。そのまま隠れ家に戻り、天井から吊り下げられた木の板を、槌で3連打する。至急集合の合図だ。コーン、コーンという軽い音があたりに響き、聞きつけた山賊たちが隠れ家に戻ってくる。

 「どうした、何があった」

 「ジムの奴、村の連中につかまってやがる」

 「なにぃ?」

 たちまち、蜂の巣をつついたような騒ぎになる。村人達の反抗。ここしばらくの様子からは、想像もできなかったことだ。

 「首に鎌を突き付けられてな。どうやら、ここまで案内させられてきやがったな」

 「ち、どしょうもねえ奴だ」

 「だからって、放ってはおけねえぜ」

 「そうだ、ここへやって来ようなんて奴らを、許しちぇおけねえ」

 散っていた仲間たちが集まると、一団となって村人たちのやってくる道へ飛び出し、村人達の前に立ちはだかる。思い切り凄味をきかせ、声を張り上げる。

 「やいやいやいやい、そこで止まりやがれ!」

 「貴様たち、のこのこやってくるとはいい度胸だ、生きて帰れると思うな」

 不意に現れた山賊たちに村人たちは一瞬驚き、怯みもしたが、しかし、すぐさま気を取り直して戦いに臨もうとしていた。

 「出てきたな、今日こそは終わりにして見せる。これ以上お前たちの好き勝手にはさせない」

 リーダー格の男が言えば、山賊達も黙ってはいない。

 「ぬかしやがれ、終わりは、貴様たちの命の方だ」

 剣を抜いて進み出てきた山賊達に、村人達の表情が変わる――しかし、決して恐怖のためではない。

 長柄の鎌を持った男たちが前衛に出る。戦い慣れていない村人とはいえ、手にした武器の剣呑さだけは、一目見れば十分に伝わってくる。しかも、槍ほどもある長柄の鎌だ。山賊たちの持つ剣よりもリーチでまさっている。さしもの山賊たちも近寄りあぐね、少しずつ村人たちが山道を上り、やがて開けた平地にたどり着いた。

 山道では、先頭の2、3人しか武器をふるえないが、開けたところでは一気に数の差が現れる。後ろにいた男たちも前に進み出て、それを迎え撃とうとした山賊たちと、たちまち乱戦になった。

 その様子を見て、山賊たちの後ろに控えていた魔法使いが参戦しようとした。

 武器を使い慣れない村人たちと、これも、あまり武芸の心得のない──とはいえ、それなりに荒事に慣れ、場数を踏んだ山賊たち。村人たちは数の優位に助けられて、そこそこに拮抗した戦いをしていたが、魔法使いが介入すればたちまちバランスが崩れる。戦いの経験のない村人たちを蹴散らすなど、何の造作もないことだ。そう魔法使いが確信した時だった。

 「だめよ、あなたは、わたしが相手」

 後ろから響いたマーヤーの声に、魔法使いが振り返る。マーヤーの顔を見て、目を見開く。

 「お前は…いつかの?」

 「あ、覚えてくれてたんだ」

 にっこりと笑ってみせるマーヤーに、魔法使いが憎々しげに言う。

 「お前もあいつらの仲間か」

 「ん、違うかな。只の通りすがり」

 怒気を込めて叫んだ彼の言葉を、マーヤーは軽くいなした。

 「ふざけるなよ、この!」

 魔法使いがいきなり杖を振ると、その先から火が噴き出し、マーヤーに襲い掛かる。が、炎が触れたと思った瞬間、マーヤーの姿が掻き消すように見えなくなる

 「くそ、また、まやかしの術か。出てこい!」

 「やだ」

 どこかから、マーヤーの声だけが聞こえる。辺りを見回すが、どこにも姿が見えない。その代わり、乱戦の中、数の差だけはどうにもならないまま、村人たちに取り囲まれる形となっていく仲間たちの様子が目に入る。

 「くそ、あいつになどかまっておれん!」

 そう言って、魔法使いが仲間の方へ向かおうとすると、その瞬間、目の前の地面から、火柱が上がる。驚いて、一歩下がると、火柱は左右へ広がって、炎の壁になって彼の行く手を塞ぐ。

 「なん、だと…」

 凄まじい熱気が顔に当たる。炎は彼の頭上にまで広がり、上からのしかかるようにして迫ってくる。火傷しそうなほどの熱さを感じ、思わず後ろに下がって、火から逃れる。

 「まやかし…などではない、この熱気は本物か!」


 その隙に、マーヤーは別の魔法を山賊達に掛けていた。ウィンプ、とマーヤーが名付けた魔法。掛けられた相手に、自分の力が弱くなったと錯覚させ、いつも通りの行動がとれなくなる魔法。相手を気後れさせ、気を滅入らせて実力の半分も出せなくなる魔法だ。

 本来なら、(いくさ)慣れしていない村人達など、まともに戦えば鎧袖一触の筈だが、山賊達には村人達が実際以上に強そうに見え、逆に自分たちが彼等より、ずっと弱く感じられていた。勢い、士気が下がり、村人達に押され、逃げ腰になる。

 少しずつ押され、隠れ家に戻ろうとする山賊達。だが、隠れ家の前には、数匹の狼の姿があった。洞窟の入り口の前に(たむろ)し、山賊達に向かって牙を剥く姿を見て、山賊達の心に恐怖が芽生える。それは本来、この山にいないはずの猛獣だったが、冷静にそう判断できるだけの余裕は残っていなかった。


 一方、炎の壁から距離を取ることに成功した魔法使いは、杖を大きくかざすと炎に向けて振り下ろした。杖の先端から水が噴き出し、勢いよく炎にぶつけられる。炎の根元、炎が噴き出している地面が水流の勢いでえぐれ、土が吹き飛ばされる。しかし…

 「き、消えない…?」

これほど激しい水流を吹き付けられながら、火は消えるどころか、ほんの少しも弱まる様子を見せない。それどころか、一層勢いを増して、魔法使いの方に押し寄せてくる。1歩、また1歩と炎に押されて後ずさりする魔法使いは、下生えに足を取られ、その場に倒れ込んだ。そして、周りを完全に炎に包み込まれたときになって、彼は、ようやく、辺りの木々も草も、焼けたり燃えたりしていないことに気づいた。

 「木が、燃え上がらない…草も焦げない? これはどうしたことだ」

 そう疑問に思ったときには既に遅かった。次に襲ってきたのは、恐ろしいほどの倦怠感だった。地面に倒れた自分の体が重い。手も足も、思うように上がらない。体を起こすことができない。身動きできないまま、彼の意識は次第に遠のき、闇に落ちていった。

 「よっし、いっちょあがり~、なあんて、ね」

 マーヤーの楽しげな声が響く。と、同時にあれほど燃え盛っていた炎が一瞬のうちに消え失せたのだった。

 もちろん、魔法使いの前に広がっていた炎の壁は、マーヤーの作り出した幻影だった。ただし、目に見えるだけの単純な幻ではない。炎の燃え盛る音もすれば、焼けてはじける木々の音も聞こえ、草木の焦げるにおいや、そして、何よりも本物の炎に勝るとも劣らない猛烈な熱気。それらを伴った、本物と見分けのつかないほどの幻影だった。

 眠りに落ちた魔法使いを縛り上げると、マーヤーは、村人たちの戦っている方に目を向けた。マーヤーの魔法で士気が落ち、数でも押された山賊たちは、隠れ家に戻ることもできず、死に物狂いで抵抗を続けていた。隠れ家の前で唸り声をあげている狼たちが、マーヤーの作り出した幻であることなど、気づくべくもない。


 (じゃあ、仕上げと行きますか)


 逃げ場を求めて必死の抵抗を続ける山賊たちの耳に、仲間の魔法使いの声が響く。

 「みんな、こっちだ!」

 その声に振り返ると、そこには杖を振りかざして彼らを呼ぶ魔法使いの姿があった。その背後には、茂みの向こうへ続く平坦な道が見える。

 「逃げるんだ、早くこっちへ来い。急げ!」

 それを聞いて、山賊たちは、最後の力を振り絞って村人たちの囲みを破り、魔法使いの方へと駈け出した。文字通り後ろも見ず、ただひたすらに魔法使いの姿だけを頼りに。魔法使いの示す、茂みの中の逃げ道だけを見つめて。そんなところに道などあったのか、と、疑うことも忘れて。

 そして、茂みの中へ駆け込んだ山賊たちは、その瞬間、足元に見えていた道が消え失せるのを見た。驚愕と、それに続く戦慄はほんの一瞬だった。次の瞬間、彼等は崖から勢いよく飛び出し、谷底へと落ちていったのだった。


 その様子を見ていた村人たちは、一体何が起きたのか測りかねていた。彼らには、マーヤーの作り出した幻の道は見えていなかったからだ。慣れない戦いに夢中で、目の前の山賊たちしか見えていなかった彼らには、マーヤーの幻影を見るゆとりすらなかったのだ。そして、ただ、魔法使いの呼ぶ声に引かれ、山賊たちが崖から飛び降りていく姿だけが、村人たちには見えていたのだった。

 あるいは何かの罠か、と用心しながら山賊たちの消えていった崖へ近づいてみると、そこには縛り上げられた魔法使いが正体もなく眠りこけているだけだった。

 「いったい、これは…何があったんだ?」

 魔法使いと、山賊たちの消えていった崖を代わる代わる見つめながら、村人たちは答えの得られない質問を繰り返すだけだった。


 その間に、マーヤーは、山賊たちの隠れ家に入っていた。これまでに何度も中に入っていて、隠れ家の様子は十分頭に入っている。捕らえられていた女たちのいるところへ行き、そっと彼女たちに声をかける。

 だが、突然現れたマーヤーに、女たちは、驚きと恐怖を隠さなかった。初めて見るマーヤーを、山賊の仲間か、あるいは、自分たちを脅かしに来た別の誰かとしか思わなかったのだ。

 「だ、誰!」

 「わたしたちは何もしない、だから、手を出さないで!」

 怯えた声が口々にこぼれる。


 (あー、これ、駄目なやつだ。わたし、味方だと思われてない!)


 無理に説得して信用してもらうこともない。そう思いなおして、マーヤーは女たちのもとを立ち去ることにした。どうせ、助けが来ているのだ、後は彼らに任せればいい。

 洞窟から出ようとして、村人たちのやってくる気配を感じたマーヤーは、魔法で姿を消した。それとほぼ同時に、村人たちが洞窟の中へ入ってくる。それと入れ替わるようにして、マーヤーはさっさと外に出た。


 数人の村人たちが、魔法使いを小突き回している。顔は腫れ上がり、口が切れて血が流れている。何度も蹴り倒されては引き起こされ、また殴り倒される。縛られたままの足が奇妙に曲がっているのは、骨が折れたのだろうか。

 「散々好き勝手してくれやがって」

 「どうだ、思い知ったか」

 「俺たちの痛みは、こんなもんじゃねえんだ」


 (あー、見たくない! 恨みが積もってるのはわかるけど、でも、痛そう…)


 自分たちが強くないと知っているからこその、この仕打ちなのだろうか。ひと思いに命を奪おうとしないのは、慈悲ではあるまい。


 (あの魔法使い、自分たちでやっつけたわけじゃないのに…)


 何か釈然としない思いが残る。ただ、そうは思っても、さすがに助けようとまでは思わなかった。戦って負ければ、どんな残酷な運命が待っているか、は承知の上での山賊暮らしだったはずだ。


 (悪いけど、わたしの出る幕じゃ、ありませんよー、っと)


 そのうち、洞窟の中から、明るい笑い声が響いてくる。捕まっていた女たちを救い出して、村の男たちが外に出てくる。山賊たちの蓄えていた財宝──というには、少しばかり小さめの金袋をいくつか抱え、おそらくは村から持ち去られたのらしい酒や食料品など、それに、山賊たちの持ち物らしい衣服や武器の類を持って。その武器が何に使われるのか、マーヤーは暗い気分で見当をつけていた。


 洞窟から持ち出した酒と食べもので、その場で祝宴が始まる。火を起こして肉が焼かれ、女たちが酒を注いで回る。楽しげな声が響き、山賊たちと戦っていた男たちの自慢話に花が咲く。焚火の周りに車座になって村人たちは座り、そして、火の脇には、あの魔法使いが転がされていた。

 時が移って次第に酔いが回ると、再び、魔法使いは村人たちのうっぷん晴らしの的にされていた。今度は、助け出された女たちがその主役だった。男たちは、口々にはやし立てながら、女たちをけしかける。縛られたまま抵抗できない魔法使いは、石を投げられ、蹴られ、火のそばに転がされて炙られ、顔にいくつもの火ぶくれができる。


 やがて、日が中天から傾き始めたころ、宴を終えた村人たちは、ゆっくりと山を()り始めた。血みどろになり、息絶えた魔法使いの体だけが後に残されていた。


 (ああいうのが、普通の暮らしをしている人のすることなんだ…)


 それとも、あれが人というものなのだろうか。そんなマーヤーの思いだけが、行き場をなくしたように、心に引っかかっていた。


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