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太陽

作者: 織田よしみ

 夏休み。

 まだ7時だというのに、ムッとした部屋の暑さに起こされ、額に汗をじんわり滲ませている私、織田じゅんこ16歳は、段々戻って来る意識により今日あるビッグイベントの緊張から更に汗が出る。


 終業式の時にスラッとした細マッチョで、アイドルになれる位に整った顔立ちをしている中学時代から知っているクラスメイトの長谷部たかし君に8月7日にある花火大会に誘われたのだ。


 長谷部君の事は、ずっと大好きだった、花火大会に誘われた時は凄く嬉しかったし、高揚感で頭がどうにかなりそうだったのだが、あのイケメンの長谷部君と花火大会に行くって事は、通う高校の女子達の妬みを受けると思うと気が重くなってきた。


「はぁ。そもそも何故私なのだろう?」 


 私は、どちらかというと根暗な陰キャオタクで、見た目も黒髪を目が隠れるほど伸ばしたおかっぱ頭……なのに誘われたのだ。不思議に思わない方が、どうかしている。


 最悪罰ゲームの可能性だってある。


 その時スマホにコミュニケーションアプリから通知が来た。

 手に取り確認してみると長谷部君からで、花火大会に行く前に今から会いたい、大手チェーンの喫茶店ですぐに話は済むとの事。


 花火大会に行く前に会いたい? 花火大会の誘いのキャンセル……なわけないか、だったら今これで言えば済むし、考えても仕方がない、待ち合わせ時間は10時。

 すぐに朝食を済ませ、シャワーを浴びて化粧をして精一杯のお洒落をして、しばらくリビングでそわそわしながら時間を潰し、待ち合わせ場所の喫茶店に心臓の高鳴りを必死に落ち着かせながら向かった。


「織田さーん! 暑い中呼んじゃってごめん! でも、どうしても言っておきたい事があったから! 」


 喫茶店に着くと長谷部君が店の前で待っていてくれて思いっきり腕を上げ、横に振り私の名前を呼んでいる。


 嬉しいけど恥ずかしいし、長谷部君の笑顔が眩しいのか夏の太陽が眩しいのか、自分でも何を考えているのかわからない位に混乱している。


 まさか自分にこういう青春ドラマみたいな事が起きるなんて思っていなかったから尚更だ。


「入ろうか? 」


 私が暑い中長谷部君を待たせてしまっていた事を謝る前に店内に入るように促され、謝罪のタイミングを失う。


 お店に入ると、スーツ姿のサラリーマンとご老人が店の大半を占めていて、高校生の私達は完全に浮いているが、そのままテーブル席に通された。


 メニューを渡され、注文を済ませたら訪れた沈黙。


 長谷部君も何か話さないとという態度をしているものの、話題が見つからないのかコップの水をちびちびと口にしている。


「あ、あの……今日は花火大会で会うのに、なんでその前に呼んだんですか? もしかして罰ゲームとかで私を誘ったものの勘違いさせたくないから前もって、釘刺す意味で…」


「違う! それは違うよ織田さん! 」


 我ながら、なんでこういう嫌みな言い方しか出来ないんだろう? ひねくれているんだろう? 長谷部君はそんな私の言葉を遮り否定してくれた。


 なんか嬉しい···。


 長谷部君はまっすぐ私を見て、花火大会に行く前に会いたいと言った理由を話だしてくれた。


「織田さんを呼んだ理由は…花火大会に行く前に俺が織田さんを好きで、ちゃんと告白してOKをもらって手を繋いで歩きたかったから」


「···っ!?」


 人は驚くと言葉にならないというが、本当だ。私を好きで、て、て、手を繋いで花火大会に行きたいとこの人は言うのか、大量の汗が噴き出しせっかくの化粧も落ちてしまうじゃないか。


「あの···突然告白してごめんだったけど、自分の気持ちを抑えられなくて、自分勝手でごめん。 織田さんを好きって気持ち本当だから」


「う、うん。驚いたけど、私ずっと長谷部君が好きだったし、嬉しい。こんな私で良ければお願いします」


 花火大会に行く前に言われたら、ずっと緊張して花火や屋台の食べ物どころじゃない。大好きだからこそそうなるというのに、そこを考えてくれないなんて本当に自分勝手。

 女の子の気持ち考えてよ。そういう所が大嫌いになりそうだよ。


「ばか」


「え?」


 太陽を一番眩しく感じた1日になった。

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