ゆまり -ゆまり譚-
とある町に1人の小さな女の子が住んでいた。その子は台所で以って料理をする母親に憧れた。母親に憧れたと言うよりは、母親が料理を作る事そのものが魔法に見えた。大きな野菜等が薄くなったり小さくなったりと色々な形に変化する様が魔法に見えた。小さい頃には「危ないから」と直接の手伝いはさせて貰う事が出来なかった。だが年齢を重ね包丁を持たせても大丈夫な年齢になると、その憧れと言う熱からは冷め、その子が台所に立つ事は無かった。そしてそのまま成人となり社会人となり、一人暮らしを始めると共に経済的な理由からも自炊を始めた。
慣れない手つきではあっても過去に見た母親の見様見真似で以って野菜等を切り、味を整え器へと盛って行く。
「ちょっと見た目がおかしいかな? まあいいか」
始まりはそんな些細な事だった。見た事の無い食べ物となってしまってはいたが直ぐに見慣れた。
「ちょっと匂いがおかしいかな? まあいいか」
初めて嗅ぐその匂いにも直ぐ慣れた。
「ちょっと味がおかしいかな? まあいいか」
おかしな見た目におかしな香り。それらはそのままに、おかしな味にも直ぐ慣れた。
人は順応する能力を持ち合わせる。否、人だけでは無く、あらゆる動物、植物は環境に順応し免疫を高め耐性を養っていく。成長すると言うのはそういう事であるのだろう。その子も自分の料理の味に匂いに見た目に順応すると共に、毎日の味の変化や匂いに耐性と免疫ができ、その小さなおかしさは積み上げられていく。
1つ1つのおかしさは小さい物であった。だがそれが修正される事無く10年以上も累積され続ければ、その子の手料理を食べられる者は誰も居なかった。自分の手料理で体調を崩す事もあった。だがその子はそれが原因であると気付く事は無い。自分の手料理が原因で体調を崩したとは露程にも思わない。その自分の料理が原因で男がこの世を去り続ける事に全く気付かない。
その子は不思議な魅力を纏っていた。その魅力に惹かれる男が現れては消え、消えては現れる。そんな状況を経験する事でその子の不思議な魅力は増していく。
彼女の名前は『村田ゆまり』。男に尽くそうとするとこの世から去られてしまう女性。彼女は不思議な魅力を持ったままに、これからも生き続けて行く。
2019年12月31日 初版