私は、無力だ
担当:書込監視保安委員長
目覚めたのは、いつもの天井ではなかった。
徐々に意識が覚醒してきて、何があったか思い出した。見ず知らずの少女と母親を助けた。その二人は吸血鬼だった。怖かった。そして自分は、、、
帰ろうとしたんだったか。じゃあここは?
慌ててベッドから身を起こそうとするが、思ったように体が動かない。昨日の一件で能力を全力で使ったからだろうか。何とか上体だけは起こせたが、動ける気はまったくしない。
そうしてベッドに腰掛けていると、ドアが開いた。
「おはようございます、イアクロさん?でいいんですかね。お体は大丈夫でしょうか。」
助けた吸血鬼の母親のほうだった。名前は、そういえばなんだったか。聞いていないような気がするな。
「ええ。体の方は大丈夫です。まだ、動けるような状態ではないですが。それより、お名前をお聞きしていなかった気が。」
そう言うと、笑顔でこちらに話しかけてきた。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私の名前は、ノインです。あと、娘の名前はフェルです。」
ノインさんは、寝ていたベッドの私の隣に腰掛けてくる。
見た目は柔和で優しそうな気がするが、中身は吸血鬼である。
人も亜人も関係なく、誰かの血を吸うことで強くなる吸血鬼。
母がメドゥーサだが、半分しか血が流れていない半端なメドゥーサ。
ただでさえ、吸血鬼の方が強いのに、半分しかメドゥーサではないから、圧倒的な強さの違いがある。
時折、私は母の逃げろと叫ぶ姿を思い出す。幼いときに、私を守ろうとして死んでいった。私を逃がそうとして、殺された母のことを。
母が殺されたのも、同じような状況だった。私が人間に見つかった。あわてて駆けつけた母が、私を逃がそうとして戦った。だが、誰も助けにはあらわれない。そのまま殺された。
父は物心ついたときからいなかった。私のたったひとりだった肉親。それが、目の前で殺された。そのショックでそこからはあまり記憶にない。
気づいたら、自分は亜人というだけで捕まっていた。まだ子供だったから、殺さなくてもいいと考えたのだろう。人間のために働かされた。
ある日、逃げた。メドゥーサだが、脱兎のごとく。同じように捕らわれていた、大勢の亜人たちとともに。
半分は殺された。人間の手によって。だから、人間とたたかわないといけない。
人間に殺されてしまった、大勢の亜人たちのために。
いまだ捕らわれている、亜人たちのために。
隠れてすんでいる、フェルやノインのような亜人たちのために。
そして、私のために死んでいった母のために。
でも、私は、無力だ。
吸血鬼のように、強くはなれない。
ノインには、こんな見た目をしていても奥底には得体の知れない何かがある気がする。
居心地が悪い訳ではないが、やはり隣にいられると恐怖があるな。笑っているのはいいんだが、笑顔の奥に何が潜んでいるかわからない。はやく部屋を出て行ってくれないものか。人間とはまた違った恐怖を感じる。いうなれば、強者にかんじる、畏怖のようなものか。
この二人なら、人間を倒せるかもしれない。
この裏では、壮絶な争いが繰り広げられています('ω')
作者同士の(笑)