力の差
担当:寝蛇
「......それは、できません」
「どうして?」
少し泣きそうな目で、イアクロを見つめる。しかし、何か事情があるのだと察した母は、それを止める。
「駄目でしょう、フェル。イアクロさんには、私たちと入れない事情があるのよ。そうでしょう?」
「いえ、特にはありません」
「「無いの!!」」
その同じ言葉だが、全く違う意味のこもった言葉を同時に発する親子。そして、その微妙な空気の中、イアクロが口を開く。
「分かるでしょう。特に何もなくてもあなたたちとは一緒にいられない理由が.....本当ならあなたたちも石化させるつもりだった。しかし、できなかったのですよ。そこで私は確信したのです、吸血鬼には、勝てないと。そして、先ほど助けたのはあなたたちを守るためではありません。追い込まれ、本気を出されるのが怖かった。ただそれだけですよ」
母は考える。もし自分が、娘が殺されそうになった時、どうしていたかを.....
そして、その答えは簡単だった。殺していた。1人残らず。
「そう」
メデゥーサも十分化け物だったが、吸血鬼はそれ以上だった。ただそれだけである。しかし、その単純な力の差は絶対に勝てないと思わせるほど大きかった。
「.....イアクロ.....」
「.....子どもはいいですね。まだ殺せそうです」
そんな言葉を口にした瞬間イアクロの背筋は凍り付き、体は動かなくなる。
「娘に手を出したら殺すよ」
先ほど娘が殺されそうになった時は、少し力を出せば瞬殺することができたので特に何もしなかったが、メデゥーサでは少し力を出さなければ娘を守ることはできない。そう感じ、母はイアクロの首筋に爪を当てた。
「.....冗談ですよ。どうせ殺せたとしても、あなたに殺されますからね。死にたくないんですよ、まだ」
「死にたい人なんていないでしょう.....例え人じゃなくても」
「そう...ですね。それではこれで私は失礼します」
そう言って離れていこうとするイアクロを名残惜しそうに見つめるフェル。しかし、イアクロの歩くスピードは少しずつ遅くなっていた。
張り詰めた過ぎた意識は、気を抜いた瞬間にすぐ切れてしまう。つまりはそういうことである。