羊竜(シープドラゴン)の町(前編)
◇
岩だらけの荒れ地を進むこと半日――。
荷馬車と5人の元・盗賊たちは意気揚々と進んでゆく。
ヒャッハー義勇団たちは、レアな存在である『旅人』と出会ったことを機会に、家業から足を洗うと言い出した。
「ていうかお頭ぁ、そもそも今まで強奪に成功したことなんて無ぇわけだし……」
「先日も『子供が病気だ』って泣かれて、逆に持ち金あげちまうしよ」
顔にタトゥの強面男がため息混じりに言う。
「俺らに向いて無かったんですって……」
「う、うるせぇ! だから商売替えだ!」
他人から金品を奪う――というか全て未遂らしいけれど――は辞め、今後は旅人の護衛をする仕事に鞍替えするつもりらしい。
「なら、見た目に少し気を遣ったほうがいいのぅ」
「……そ、そうなのか?」
キュンの言葉に、頭目が目を白黒させる。
「のう、ミヨ」
「う、うん。それと、笑顔が大事かなーと思います」
話をちょっとはぐらかしたけれど、モヒカンと入れ墨、それとトゲトゲ付きの装備は確かにやめたほうが良いと思う。
「野郎ども! 笑顔だ、笑え!」
「「「「ニカァァア!」」」」
「ぎょっ」
「怖い……」
むしろその笑顔で迫ったほうが、強盗が成功していたかもしれないね。
そんなこんなでしばらく進むこと1日。
大騒ぎの野宿での宴会を経て、翌朝にまた出発。
やがて道端に背の低い草が目立ち始めた。
気がつくと岩と砂だらけの荒涼とした大地は終わりを告げ、なだらかな緑の丘陵が続く、草原のような場所になっていた。
折り重なった丘陵地帯は、淡い緑色の草に覆われている。
「風景が変わってきたね」
「気がついたかの? 西の荒れ地は寂しいものじゃったが、ここから先は少しマシになるじゃろうよ」
「ところで僕たちは今、どのあたりにいるの?」
そもそもここは国のどこかなのか、だとすればどこなのか? 特徴のない丘陵地帯が続くけれど特定できるかな。
今まで生きることに必死で、場所や位置をあまり考えていなかった。
「ここははエフタリア大陸の中央地帯さ。西には砂漠と人食い妖精のいる荒れ地……。俺たちが進んでいるのは東で、この草原地帯をちょいといけば、チチズーラの町がある」
「エフタリア……」
聞いたことのない場所だった。まぁ異世界なのだから当然だけど。
「遥か北の彼方に横たわっているのが、メリレイシア山脈。さらに東にすすめばヒーペルポリアの大森林地帯があるのじゃ。その先は……」
「なんだキュンは知ってたんだね。教えてよ」
「聞かれなかったからのぅ」
ピンク色の髪をポニーテールに結いながら、キュンが何食わぬ顔でいった。
僕の目的地は「東の果て」だ。
東の地に何があるかわからない。けれどあの夜、流星は東の果てへと落ちたという。そこへ向かえばもしかして……僕のような存在に逢えるかもしれない。
僅かな希望を感じつつ、やがて町が見えてきた。
「あれがチチズーラの町でさぁ」
義勇団あらため、護衛団の頭目が言った。
「あ、建物が全部テント……?」
「遊牧民が町の周囲にテントを張っておるんじゃ。季節ごとに移動する羊竜を追う民の町じゃからのぅ」
「へぇ……?」
草原の向こうに四足の生き物が無数に群れているのが見えた。
白くてモコモコの毛に覆われた、ドラゴンというよりトカゲみたいな謎の生き物だ。
「あれが羊竜……」
どうもピンとこない。ゲームやファンタジーの知識は少し思い出してきたけれど、あんな変なモンスター、見覚えがない。
チチズーラの町の入口をくぐったところで、僕たちは降ろしてもらうことにした。
「ミヨくん、キュンちゃん、きみたちのおかげで楽しい旅になったよ、ありがとうな」
商人のおじさんが御者席からお礼を言った。乗せてくれたんだから、お礼をいいたいのはこっちのほうなのに。
「おじさん……! こちらこそありがとうございました」
「世話になったのぅ……。感謝じゃ」
僕とキュンは丁寧にお礼を言った。
もちろん、護衛してくれた元・義勇団の5人組にも。
「おぅ! がんばれよ旅人さん!」
「「「「元気でなー!」」」」
「うん、ありがとう!」
皆との旅はここで終わりみたいだ。
去っていく荷馬車と5人が見えなくなるまで、僕とキュンはいつまでも手を振っていた。
「さて……と」
「チチズーラの町を見て歩くとするかのぅ!」
<つづく>




