襲撃、ヒャッハー強盗団(後編)
目の前にいるのは五人組の盗賊団だ。
馬に跨がり、手には武器。おまけに凶悪そうな見た目に怖い顔がズラリ。
「俺たちはヒャッハー義勇団!」
「この辺りは極悪な盗賊が出るからよぅ」
「俺たちが通行税をちょーっともらう代わりに、安全を約束するぜぇ?」
「とりあえず金目のもの出しなぁ!」
「心配すんな、金さえもらえれば何もしやしねえっス」
僕はキュンの手をつかんだまま、どうすることもできず荷台で硬直していた。
「何が義勇団じゃ、単なるケチな盗賊じゃ」
「しーっ、聞こえたらマズいから」
「ま、イザとなれば、少々寿命は縮むが……」
「えぇ……?」
キュンがニッと凶悪な顔をする。一体イザとなればなんなのさ?
考えてみれば今までが順調過ぎたのかもしれない。ここは妖精や亜人がいる異世界。まだ遭遇していないだけで魔物や怖いモンスターがいてもおかしくない。
ましてや人気の無い荒野。追い剥ぎや強盗に出遭わなかったのが不思議なくらいだ。
「すまないが金は無い。みての通り貧乏な商人でね。現金は荷物に全て変えてしまった」
馬車に乗せてくれたおじさんは、相手を刺激しないよう、丁寧に対応している。
「いいから荷物をよこしな!」
「中身はなんだ? 金塊か、宝石か!?」
「兄貴ぃ、どうみてもそういう大きさじゃありやせんぜ、貧乏商人っていってるし……」
「じゃ、じゃぁ食い物か!? 肉とか、酒とか!」
「酒や肉ならあんな木箱にゃいれませんぜ。酒なら大きな壺、乾燥肉なら麻袋でさぁ」
「そ、そんなこたぁ……わかってる。あぁ、わかっているともさ! 中身はなんだろうなぁと思ってな!?」
強盗団はあまり頭が良くないのか、とんちんかんな会話をしている。
「中身は陶器、皿やカップ。日用的な普通の品ですよ。嘘だと思うなら開けて見せましょうか」
おじさんの言葉に強盗団は顔を見合わせた。そして車座に馬を移動させ、顔を付き合わせて会議を始めた。
「こんな辺鄙な場所を一台で走る馬車なんて、どうせ大したもん乗せてないって言ったじゃないっスか………」
「そ、そんなこと言ったっててめぇ、東へ向かうメインの商用公益路は王国の直轄だぞ! 護衛つきでキャラバン隊を組んでて手だしできねぇじゃねぇか」
「だから南側の裏街道にしましょうって」
「ばかてめぇ、亜人のギャング団の縄張りじゃねぇか、オレらが狩られるわ!」
「だからって皿はねぇよ。売れねぇ、食えねぇ、運べねぇ品物奪っても困るじゃねぇか。あのオッサンも困る、オレらも困る。こんなバカな話あるかよ」
「う、うっ………!?」
強盗団の頭目らしい髭を生やした男は、手下たちに責められているみたいだ。リーダーシップと責任を問われている。
と、頭目が困り顔のまま荷台にいる僕を見て、やがて目を邪に輝かせた。
「な、なら……! あの娘らを頂くってのはどうだ!?」
やっぱり。
そう来ると思った。でもキュンは渡さない。殺されるかもしれないけど……。僕はキュンを背中に隠す。って「娘ら」って僕もカウントに入ってんの?
「お頭ぁ……」
「最低ッスね」
「あーぁ、言っちゃったよこの人」
「……え?」
けれど盗賊の手下たちの反応は意外なものだった。リーダーに対して呆れ果てた様子で、更に冷たい視線を向ける。
「俺ら、義勇団って女子供に手を出さねぇ、ってんじゃなかったですかい?」
「いけすかねぇ金持ちから金だけ奪って、貧しい村の連中に分け与えるっていうからよぅ……」
「ホントだぜ、がっかりしちまうぜ」
ちっ、と舌打ちする始末。
「いっ、いやいや!? ち、違うんだ! 例えばの話よ、冗談だよ、なぁ!?」
「何が違うんスか……? あの娘ら、お頭のせいですっかり怯えちまってるじゃねえっスか」
曲がった錆だらけの剣をこちらに向けるガラの悪い入れ墨男。むしろ貴方の姿に怯えているんですけどね……。
「あーもう! 謝る。な、このとおり」
「お頭、謝る相手が違うんじゃ?」
「う……! そ、そうだよな!?」
馬を下りると、頭目の髭男は両ひざを地面について、僕たちに向かって深々と頭をさげた。
「すまなかった! 妙なこと言って、怖がらせたな。謝る。このとおり」
「えぇ……?」
「なんじゃこの状況……」
人気の無い岩場で強盗団の謝罪を受けるという状況。もう、ワケがわからない。馬車のおじさんは唖然。僕とキュンも目を白黒させて固まるばかりだ。
「さすがお頭だぜ……!」
「あぁ、男前ってのはこの事だ」
「だから好きなんだよ、お頭ぁ」
「これからもしっかりしてくれよ」
「お、おまえたち……」
強盗団の絆もより深く、強固になったみたいだった。
「めでたし、めでたし?」
「時間の無駄じゃぅ……」
「ところで、お嬢ちゃんたち、みたところ親子じゃさなそうだが、商人か芸人かい?」
モヒカン頭の男が話しかけてきた。
トゲつきのこん棒を肩に担いで、気さくな笑顔。
「あ、いえ。僕たちは、旅をしていて……」
「旅ぃ?」
「商売でもなく、旅をかい?」
「どこへいくんスか?」
何故か他の盗賊たちも食いついてきた。
なにか不味いこと言ったかな? キュンに視線を向けると、小さく肩をすくめるばかり。特にヤバイ状況じゃ無さそうだけど。
「はい、旅人というか、東を目指していて」
「旅人……!」
「嘘だろ……本物の『旅人』だってのか!?」
「何にも属さねぇ、何にも縛られねぇ、職業不詳、住所不定の、あの旅人さんかい!?」
住所不定無職って、テレビで罪を犯した人につく枕詞だよね。
「え、えぇ、まぁ」
「「「すげぇええええ!?」」」
どぉおおおお……! と強盗団が両手をあげて歓喜する。
何がそんなに嬉しいのか。もしかして旅人ってすごい希少な存在だったりするわけ?
「私が街で乗せたのさ。この子たちこそ『幸運』だよ」
今まで黙っていた馬車のおじさんが、鼻高々といった顔で僕たちを振り返った。ニッと白い歯を見せて微笑む。
「すげぇぜ親父さんよ! アンタ超ラッキー」
「まじかよ、今度おごらせてくれよ!?」
「はは、まいったな」
御者席のおじさんに肩を組んで、親しげに話しかける始末。
「あの、キュン、これって……?」
「この世界ではのう、ミヨのような『旅人』とは『存在しないほど幸運』なものと言われておっての……。出会ったり、共に旅をすると一生分の幸運が舞い込むとも言われておるのじゃ」
「へ、へぇ……? そうなんだ」
「職業も持たず、何処かへ行くことだけを目的としている人間などおらぬのが世の常じゃ。誰しもが何かに属し、働き、暮らすために地に足をつけて日々生活しておるからのぅ」
「なんだかすっごく、突き刺さる言われようなんですけど……」
「まぁよいではないか。事実なのじゃから」
だけど仕方ない。僕の世界は無くなっちゃったんだから。
いつか定住できるような場所でもあればいいけれど。
「ミヨは無職で働きもせず、ぶらぶらと旅をしておるじゃろう? ありえんのじゃ。この世界では。だから純粋な旅人は、時に聖人のように崇められたりもするのじゃよ。だから皆はミヨにシビれ、憧れを抱くのじゃな」
「えぇ……!?」
聖人て。そんなばかな。
腕組みをして得々と説明をしてくれたキュンは、にっと笑いながらこう言った。
「ま、最初に見つけて旅を始めたのは、このワシなんじゃがの」
「うん、そうだね」
僕はキュンの小さな手を握る。ここまで来れたのはキュンのおかげだと、感謝の気持ちを込めて。
「というわけでよ! 俺らに隣町まで護衛させてくんねぇか?」
「『旅人』を護衛したとなりゃ、他の連中にも自慢できるしな!」
「まかせときなって! 危ねぇ連中はオレらがいる限り、蹴散らしてやるぜ」
「は、はは……。ありがとう、みんな」
「「「おおぅ!」」」
「なんだかのぅ」
キュンは僕の横で頬づえをついている。
長い赤毛が風に揺れると、馬車は再び動き出した。
今度は、怖い面構えの護衛つきで。
<つづく>