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襲撃、ヒャッハー強盗団(前編)


 ちゅん、ちゅちゅん……という小鳥の声で目が覚めた。


 朝日が閉め切った雨戸の隙間から差し込んでいる。

「ん……」

 そういえばここは宿屋。野宿とは違って、暖かいベッドは心地よくて、もう一眠りできそうだ。っていうかもうずっと寝ていたい。

 抱き枕は暖かくて、ふわふわと心地良いし、いい香りがする。

 あれ? 抱き枕なんてあったっけ?


「……良いのじゃー……」

 僕の腕の中で『抱き枕』が寝返りを打った。長くて柔らかい赤毛から、ちいさな顔が出てきた。

「って、キュンかよ!?」

「うーん、うるさいのー。まだ早かろう……」

 抱き枕になっていたのはキュンだった。羽なし妖精の小さな女の子。もぞもぞと寝ぼけまなこで僕のシャツに顔をこすりつける。そしてダンゴムシみたいに丸くなった。


また(・・)入ってきてるし!? 自分のベッドがあるでしょ」

「んー? 良いではないか、まったく()いやつじゃのぅ……」

()いっていうか、毎朝毎朝びっくりするんだけど」

「じゃが心地よかろうー? うりうり」

「やめろよくすぐったい」

「照れんでもよい……。それとも、愛らしいワシに劣情を抱いたかのぅ……?」

「何だよレツジョーって」

 意味がわからない。

「朝は冷えるでのぅ。こうしていると楽に起きられるんじゃー」

 すりすりと僕の身体に手足をこすりつけてくる。


 手足が冷えると眠れない、朝も手足が冷たいと起きれない。

 キュンは何かと言ってはベッドに潜り込んでくる。


 でも、それって更年期とかお年寄りのセリフのような……。


「冷え性ってさ、おばあちゃんみた――痛ってぇ!?」

「さーて、そろそろ起きるとするかのー」

 キュンは僕をつねると、おもむろに立ち上がって隣のベッドへとジャンプ。その先の窓を両手で押し開けた。


 途端に明るい朝の光が部屋の中を照らす。

 塵がキラキラと輝いている。くしゃくしゃの長い赤色の髪をキュンは整えはじめた。


「まぶしい……」

「いつまで寝てるのじゃ、まったく若いのにだらしないのう。ほれ起きて出発の準備じゃ」

「もう、勝手なんだから」


 仕方なく僕もベッドから起き上がった。


 ◇


 身支度を整えて、出発の準備を整えた。


 宿の向かいの屋台で携帯用の固いパン、それとチーズやジャーキーみたいな干し肉、アーモンドみたいな木の実を二人分、数日分として購入する。

「二人分で銀貨2枚……」

「そろそろ路銀も尽きてきたのう」

「どうしよう」

「ま、なんとかなるじゃろ。次の町で考えるとしようぞ」

「そんなお気楽な……」


 元々、このお金は最初に立ち寄った村で、荷物を売り払ったお金だ。キュンの所持金は銀貨6枚だけだったし、もう使い道の無い品物を村の雑貨屋で売って得たのが、この世界ではじめての収入だった。

 売ると言っても、流石にスマートフォンを売る気にはなれなかった。想い出の品だし、かつて暮らしていた世界の証拠品なんだもの。

 何の役にもたたなくなったスマホの電源を切ってリュックの底へ。

 他に売れそうな品物は、小型の懐中電灯、あるいは着替えなんかもいいかもしれない。けれど実用品を売ると後で困るかもしれないから、簡単には手放せない。


 色々考えたあげく、リュックの中にゴミ袋がわりの、半透明なビニール袋がいくつかあった。ためしにこれを見せてみたら、店主は大興奮。

「絹じゃない!? 薄くて、軽い。こんなの見たことがない! ど、どこで手にいれたんだ? 魔法の国、ファーデンブリアか?」

「聞いて驚くでないぞ、これはモエティール山脈の奥深くに生息する、火竜! その卵の殻の内側にある膜じゃ。貴重な品じゃからのぅ。頭に被って竜の加護を得るもよし」


 とかなんとか。キュンが実に適当なことを言って納得させてくれた。

 ついでに空になったペットボトルの容器も見せてみたところ、全部で金貨7枚、いや10枚で買い取ると言う。


 どれくらいの価値かキュンに聞いたら、「二人でたらふく食べてよい宿に泊まってちょうど金貨1枚じゃ」と教えてくれた。


 金貨一枚は日本円なら1万円、いや2万円ぐらいかな?

 だったらゴミ袋3枚と空のペットボトル1本で、金貨10枚は破格の高値かもしれない。

 これで取引成立。


 なんとかこの世界で暮らしていく日銭を得ることができた。

 でも僕の荷物を切り売りして、全部売り払ったらいよいよ一文無し。それに強盗だか盗賊だかに襲われた、なんて話も宿屋の食堂で耳にしたし気をつけないと。


 節約のため、飲み物は空いたペットボトルの容器に、広場で水を汲む。元々ペットボトルは三つあったのでこれは残りの二つ。キュンと僕とで使うことにする。

 この世界にも水筒はあるけれど、大きくて重い。

 ペットボトルは軽くて丈夫。しかも透明。本当はものすごいハイテクでチートな素材なんだなぁと、今更ながらに気がついた。もう、遅いけどね。


「さて、東に進むなら商人の馬車にのせてもらうのが一番じゃが……って、おいミヨ?」

 

 街の出入り口付近には、必ず駐馬場というか、馬車を止めて荷物を商人同士がやりとりする場所がある。小さな村でも、大きな町でも、かならずだ。

 狙うならそこが一番いい。


「荷運びを手伝います。その代わりとなり町まで乗せてもらえますか?」

 大きくて重そうな荷物を別の荷馬車から、自分の馬車へと運んでいる、人の良さそうなおじさんを狙う。

 笑顔で愛想よく、低姿勢でいくのがコツ。


「おぉ、いいとも! 助かるよ」

「こちらこそ。連れの()と二人なんですが、構いませんか?」

「もちろんだとも。荷の積み降ろしが一番堪えるからねぇ」

 おじさんは木箱をもって運んでいる。ずいぶん重そうだ。


「手伝います」

「これは陶器入りの木箱だからね、お姉ちゃんにはちと重いかもしれんが……」

「僕、男なんで」

「あれま、そうかい。じゃぁ頼むよ、気をつけてな」

「はいっ」

 これで取引成立。

 旅をはじめてからいままで、4ヵ所ほど町や村を渡ってきたけれど、だんだんコツが掴めてきた。


 荷物を運ぶのは重労働。でもお金をくださいと言って近づく「プロの荷運び屋」は敬遠されるみたい。けれど運ぶのを手伝うから乗せてほしいと言うと、大抵は成功する。

 どうも荷物運びの労働力だけじゃなく、旅の退屈を紛らわせる意味もあるみたい。


「ずいぶん、手慣れてきたのぅ」

「感心してないで手伝ったら……」

「いたいけな幼女に荷運びをさせる気かの?」


「もう。いいよキュンは。リュックを見張ってて」

「これも立派な仕事じゃー」


 荷物は30箱ほどあった。ずしりと重くて大変だったけど、無事に運び終えた。

 陶器を買い付けに来たというおじさんは商人だった。ほら、お食べと言って果物をふたつくれた。

 見たことの無いオレンジ色の果物は、かじるとシャリっとしていて、薄味のバナナみたいな不思議な味だった。


 僕とキュンを乗せて馬車は走り出した。


 以前乗せてもらった蜥蜴ではなく、普通の馬の馬車。御者席にはおじさんが一人。すぐ後ろの荷台に僕とキュンが座る。

 荷台は幌のおかげで日差しもきつくない。荷物が崩れないように、時々押さえるのも大事な仕事だ。


 街を出て振り返ると、砂漠の中のオアシス都市がどんどん遠ざかって行く。


 馬車は荒涼とした場所を進んでいく。


 しばらく進むと建物の2階ほどの高さのある岩山が林立する場所にさしかかった。

 おじさんは僕たちに身の上話をずっとしていた。奥さんが厳しいこと、子供が言うことを聞かないなどなどだ。

 僕は相づちをうちながら、話を聞いていた。


「君、ミヨくんだっけか。まさか……旅人(・・)かい?」


「え? あ、はい。旅人といえば……旅人かな」

 どうして「まさか」なんだろう?


「ミヨよ、この世界では『旅人』というのはのぅ……」

 キュンはそこまで言いかけて、ぎゅっと僕の袖をつかんだ。


「う、うわっ!?」

 突然、おじさんが叫んで手綱を引いた。馬が(いなな)いて、馬脚を乱す。


「キュン危ない!」

「きゃぅ」

 突然、馬車が急減速。


 キュンを抱き寄せながら縁に掴まる。荷物が激しく揺れたので、咄嗟に足で押さえつける。


「ふぅ……あぶなかっ……」

「す、すまぬのうミヨ」

「怪我はない?」

「大丈夫じゃ」

 よかった、とほっとしたのもつかの間。


「なんてことだ。旅人と一緒で運が良いと思っていたのに……。すまないね君たち、面倒ごとに巻き込んでしまったみたいだ」

 おじさんが御者席で呻いた。


「え……?」

 

 目の前に五頭の馬がいた。

 馬上では「いかにも」ガラの悪そうな面構えの男たちが手綱を握っている。

 上半身に袖無しの革ジャンパー。モヒカン頭やスキンヘッドで頭に入れ墨をしているものもいた。

 コンビニの前にウンコ座りしているヤンキーとは違う、本物のドキュンだ。本能が危険だと警告を発している。

 ていうか異世界でも怖い人は革ジャンにモヒカンなんだね。

 でも実際に目の前にいると怖い。心臓がバクバクいいはじめている。


「よーし、無駄な抵抗はするなぁ!」

 手に持ったトゲのついた棍棒や、湾曲した剣を振りかざした。

「俺たちは、荒野の支配者!」

「ヒャッハー義勇団!」

「「ヒャッハー!」」


「ぎ、義勇団て?」

「盗賊じゃい」

「えぇ……!?」


 これって大ピンチなんじゃ?


<つづく>


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