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戦場のヒッチハイク【後編】


 死んだとばかり思っていた兵士たちが、次々と立ち上がった。

 馬に乗って奇襲してきた騎士団側の犠牲者たちも同じだった。むくりと上半身を起こし、立ち上がり始めている。

 真っ赤な色に染まった顔、胸などを押さえながら動き始める様子は、さながらゾンビ映画のようにも思えた。


「ど、どういうこと?」

「死んでいない……ということでござるか?」

 けれど兵士や騎士たちは確かに「生きている」みたいだった。撃ち当てられた胸や頭を押さえつつ、顔についた赤い血のような液体を拭い去る。


「くそー、やられたな」

「今日も死んだわ」

「俺は一人倒したぜ! まぁ……その後集中砲火を浴びちまったけどな」

「それなら階級は特進だ」

 お互いに血まみれ(?)の顔を見て笑ったり、戦果を自慢しあったりしている。


「あの赤いのは血では無いようじゃな」

「ペイント弾とかいうやつかなぁ」

「ペイント……どういう意味じゃ?」

「中に絵の具が入ってる弾丸、かな」

「なるほどのぅ」

 キュンは納得した様子だった。「ペイント弾」は咄嗟に出た言葉だけれど、なんとなくイメージできた。


「あの……大丈夫ですか?」


 僕は一番近くで倒れていた三人組の兵士に近づいて声をかけた。こちらに向かってきた時に騎士に撃たれて倒されたひとたちだ。


「おや? 君は先程の一般人……けれどよく見ると『旅人』かね?」


 対応してくれたのは隊長らしき人だった。40歳ぐらいのおじさんで、階級章が左胸に輝いている。

 顔の右半分が真っ赤に染まっている。頭を撃たれて「死んだ」設定なのだろう。


「はい、旅をしています」

「これは天佑か……! 血なまぐさい戦場にも花が咲く……か」

 なんだか名言っぽく語ると胸を張って、屍(?)だった部下たちを眺めた。


「あの、これはいったい何なんですか?」

 単刀直入に訊いてみる。


「見ての通り、戦争だな」

「戦争……」

 隊長さんはゲームとかお祭りとかではなく「戦争」と言い切った。普通、戦争ってバタバタ人が死ぬんじゃなかったかな。見たところ死者はおろかけが人も居ない。

 訂正、口に赤い汁が入って、えづきながら苦しんでいるひとが数名見える。


「祖国防衛戦争と我々は呼んでいる」

 誇らしげにそう言うと、大きな東の街エディンに視線を向ける。お城と高い塔が中心にある城塞都市だ。


「我々はエディンメリモア王国の祖国防衛隊である。襲撃してきた騎士どもは懐古趣味のテロリスト。旧女王派のロマチスト教団の連中だ」

 そう言い放つと、気勢をあげて去っていく騎士団に憎々しげな視線を投げつけた。


 よくわからないけれど、国王様と女王様は仲が悪いのかな? 仲良くしてほしいなぁと思う。


「赤いのは血じゃないんですね」

「あたりまえだろう。野蛮人だった過去とは違うのだ。今は命中すると赤く染まる果実弾で勝敗を決している」

「果実弾……」


 部下の一人がクロスボウみたいな武器に装填していた赤い弾丸を見せてくれた。それは近くの森に沢山なっていた赤い果実だった。

「これはプティトマトの果実弾。この弓砲や騎士の使うランスショットは、形は違いますが果実弾を撃ち出すための武装です。潰さないように風魔法を使った空気の圧力で発射する武器なのです」


「へぇ……」


 弾丸のように発射して命中すると弾けて血のような果汁を散らす。当たった方は死んだことにする。ということらしい。

 不味くて食べられなかったけれど、こんな使いみちがあったとは。


「今回は奇襲により我が方が甚大な被害を受けた。悔しいが我が隊は当面は休暇だな」


「休みになるのかの?」

「昔の言い方なら戦死(・・)ということになるからな。まぁ、ルールだからしかたない」


 戦いは騎士団の勝利、ということなのだろう。

 死傷者あつかいの被弾者が一定の割合を越えると、勝敗が決するのだと教えてくれた。


 人も死なないならゲームと何も変わらない。それどころか祭りみたいに楽しそうにも見える。

 戦争という言葉の意味は形骸化しているのかもしれない。


「同じ国のなかで争っておるのかえ?」

 フェルトさんに抱き上げられたキュンが質問した。すると隊長が概ねの流れを説明してくれた。

 まとめると、元女王であったポゾムリア女王陛下が邪悪な魔法使いにそそのかされ、妙な宗教にハマってしまった。良い女王様だったけれど国を治められないと弾劾され、弟である王弟殿下が新国王に即位なされた。

 それを快く思わないポゾムリア女王陛下を支持する近衛騎士派を中心に、現国王派と内戦状態となった……ということらしい。


「ところで旅人さん、これからどちらへ?」


「あ、僕たちはあの街に行きたいと思っています」


「それなら丁度いい! あれに乗ってみないか?」


 隊長が指差したのは、例の魔導機関を搭載した自走する車両だった。


「いいんですか?」

「中隊長殿には私から話す。旅人(・・)を乗せることに反対する理由もない」


 僕はキュンとフェルトさんと顔を見合わせた。戦争だけど人が死なない戦場なら、こちらも断る理由もない。二人は静かに頷いた。

「お願いします」


「しかし、再びの襲撃が無いとも言い切れません。ここは危険な戦場……! 最前線であることをお忘れなく」


「は、はい……」


<つづく>


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