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戦場のヒッチハイク【前編】

 ◇


「楽しかったよ旅人さんたち。幸運があらんことを」


「お世話になりました」

「とっても感謝しておるのじゃ」

「乗せて頂き、恐悦至極にござる」

 親切な馬車の主さんに感謝の意を伝え、遠ざかってゆく後ろ姿に手を振リ続けた。


 僕たち三人は何度かヒッチハイクを繰り返し、草原地帯と農地の間に点在する小さな村々を渡り歩いた。


「三人でのヒッチハイクに慣れてきたね」

「肩車をするのが効果的でござるな」

「最上段は流石に怖いのじゃが」

 三人組になった旅人(・・)が編み出したのは、三段重ねの肩車だった。

 僕がキュンを肩車して、僕らをフェルトさんが肩車する。

 トーテムポールのような旅人タワー(・・・・・)を目にした馬車は止まらずにはいられない。この方法を編み出してからのヒッチハイク成功率は飛躍的に向上した。

 一番高い位置になるキュンは怖いと言って、ぐいぐい太ももで首を締め付けてくる。けれど、こうすることで遠くからでも目立つし、アピール度は抜群だ。


 こうしてたどり着いたのは、背の高い木と灌木に覆われた里山のような場所だった。

 灌木には赤いミニトマトみたいな果実が沢山実っている。丸くて艶々でなんだか美味しそう。気になっているとフェルトさんが一粒つまんで口に放り込んだ。

「……ヴッ!? ま、まずいでござる」

 ぺっぺ! と吐き出す。

「毒では無さそうじゃが、食べられぬようじゃのう」

「こんなにあるのに残念だなぁ」

 食べられるなら食料になるのに。

 試しにかじってみると、中から真っ赤な果汁が滴った。けれど血のような鉄のサビのような味がした。甘くも酸っぱくもない、ひたすらマズい。

「うぉぇ……」

「マズいといったのに、ミヨはまるで腹ペコな子供じゃな」

「うぅ、キュンに子供呼ばわりされるなんて」


 しばらく赤い果実の森の間の道を進んでゆくと、開けた場所から遙か東、大きな街らしきシルエットが見えてきた。

「みて、大きな街がある……!」

「あれが、東の街エディンじゃな」

「あと一息でござるな」


 目を凝らすと、城を中心に発展した大都市が広がっている様子がわかった。今まで見てきた村や街とは桁違いに大きい。


 と、ピカピカと光る一団が進んでいるのが見えた。


 ずっと向こうの丘陵の間を隠れるように、馬に跨った騎兵隊が街に向かって進んでいる。

 馬も騎士も金属の鎧を着込んでいた。長い槍かライフルみたいな武器を抱えている。


「あれ、騎兵だよね! かっこいい……!」

「まるで戦に向かうような重装備じゃのぅ」

「うむ、拙者も初めて見たでござるが……、あれが武士(もののふ)の群れでござるか?」


 僕らはなんとなく不穏な気配を感じ、灌木の間に身を隠しつつ、様子を見ながら街に近づくことにした。


 すると騎兵隊の進む先に、別の集団が居ることに気がついた。


 百メートルほど先、見晴らしのいい草原地帯を貫く道を、隊列を組んで進んでいる一団が見えた。

 それは兵隊たちだった。さっきの騎士団とは違い、緑色の制服を着た集団だ。

 徒歩で移動する30人ぐらいの兵士たちは、手に手にクロスボウのような武器を持っている。

 兵士たちは大きな一台の車両に随伴していた。兵士の後ろをゆっくりと進む大型の車両は、馬が牽いているわけではなかった。エンジンでもついているのか自走している。


「あの大きな車、馬が牽いていないよ?」

「魔法の駆動機関を搭載しているようじゃ。噂には聞いておったが、おそらくあの都市で造られた最新装備じゃな」

 四角い箱のようなシルエットの車両は、黒い金属の板で装甲されていた。

「へぇ! まるで戦車みたい」

「せんしゃ? 戦う車……で戦車か。うまいことを言うのうミヨは」

「むしろ元の世界では馬が牽くほうが珍しかったから」

「ほぅ?」


 その時だった。


 突然、「敵襲!」と兵士たちが騒ぎだした。

 慌ただしく叫びながら走り回り、兵隊たちが武器を手に身構える。

 土煙があがり、丘陵を越えてさっきの騎士たちが兵隊たちに向かって突撃して行くのが見えた。


「騎士が、兵士たちに攻撃を仕掛けたでござる!」

 フェルトさんがそう叫ぶと「隠れるでござる」と言って僕とキュンの頭を押さえて、身を低くした。

 三人で這うように近くの灌木の陰へと隠れた。


 どうやら騎士たちが丘に隠れて、一気に奇襲を仕掛けたみたいだった。

 騎士たちは丘の上に綺麗な鶴翼陣形で展開しながら、長大なランスのような武器を水平に構えた。

 そして狙いをつけると、号令とともに一斉に何かを放った。


 パシュ! ドシュッ! というような音が耳に届いたと同時に、黒い装甲車両の周りの兵士たちが次々と倒れてゆく。


 赤い血を胸から飛び散らせているのが見えた。


「せ、戦争!?」

「とんでもないところに出くわしたようじゃのぅ」


 ヤバくない!?

 ここまで血なまぐさいことは一切なくて、平和な旅が続いていたのに。


 兵士の何人かが側面に回りこもうとしている。身を低くして灌木に隠れながらこちらへ近づいてきた。


「こっちに来た!」

「イザとなれば拙者がお守り申す!」

 さすがフェルトさん、こういう時は頼りになるなぁ。でも武器は剣、相手は銃かクロスボウみたいな武器。大丈夫だろうか。


 騎兵が二騎、兵士の動きに気がついたらしく追いかけてくる。ランスで狙いを定める。

 兵士たちは背後から迫る騎兵に気がついていない。


「あ、あぶない!」

 僕は思わず叫んでいた。

 けれど次の瞬間、兵士の被ったヘルメットが真っ赤な花を咲かせた。

 バシュッという音がしてその場に倒れ込む。


 騎兵は残った兵士に攻撃し、兵士たちは次々と倒れていく。


 信じられない光景だった。

 けれど僕はキュンにおもいきり口を塞がれていた。それ以上叫ぶこともできないまま地面に引き倒された。

 フェルトさんも杖がわりにしていた剣を手に、身を低くしてイザというときに備えている。けれど相手の武器は飛び道具だ。勝てっこない。


「……もが、もが」

「こらえるのじゃ……!」


 やがて騎兵たちは去っていった。


 残されたのは兵士たちの死体。

 真っ赤に染まったヘルメットや、制服が凄惨さを物語っていた。

 僕はキュンが手を放してからもなにも言葉がでなかった。


 騎兵隊と兵士たちの戦いは、ほとんどワンサイドゲームだった。騎士も馬から落ちて少し減っていたけれど、兵士たちはほとんどが地面に倒れている。

 そして狙われているのは黒い装甲車両だった。


 ランスのような武器で狙い撃ちにされ、車体からは真っ赤な血が……。


「って、あれ?」


 なんで赤い血が、装甲から流れているの?

 

 いや、違う。

 騎兵隊の放つ武器が、赤いペイント弾のように炸裂して、赤い液体を散らしているのだ。

 装甲車両は真っ赤に染まっている。


「……やれやれ、死んだわ」

「ダメだこりゃ」


 声がして僕は思わず振り返った。声は倒れていた兵士たちから聞こえてきた。

 むくりと起き上がると、真っ赤なヘルメットを脱いで「即死だぜ」とか言っている。


「え、えぇええええ?」


 これ、どういうこと?


<つづく>


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