ヒッチハイク、思わぬ誤算
◇
次の目的地もひたすら東、大陸で最大といわれる街だ。
魔女の森へと運んでもらったお陰で、僕たちはかなりの距離を東へと移動できた。ただ場所的にはやや北側よりの山脈の懐にいる。
東西を貫く街道まではここから南東へ移動していく必要がある。そこまでは川の東側を南下していくことにした。
馬車や乗り物が行き交う街道にでれば、またヒッチハイクができるはず。まずは街道を目指し、徒歩で移動する。
「お恥ずかしながら拙者、里の外にはじめて出たでござる」
頼もしい旅の仲間も増えた。
狼犬族の戦士であるフェルトさん。大きな身体に黒い鎧、腰には剣をぶら下げている。見た目が格好いいし頼もしい。
「そうなんだ? けど僕も初めてみる景色ばかりだよ」
「ミヨ殿もでござるか? 旅慣れたご様子ですが」
「そうでもないよ……。旅を続けないとダメな気がして続けているんだ」
「なぜでござる?」
フェルトさんは不思議そうな表情を向けた。
「自分が自分でなくなっちゃう気がして」
「自分が、でござるか」
「うん」
旅をしていないと、自分はきっとこの世界の人間になる。
歩くのをやめてしまえば、過去の自分を見つけられない。
旅を諦めるということは、どこかの町や村で仕事を見つけて定住することだ。そこで普通に暮らす人生が始まる。ただそれだけのことなのだ。けれど、残っている記憶が「進め」と背中を押している気がする。
「ワシは、ミヨが旅をする気があるうちは共におるぞ」
「キュン……」
「面白いものがいろいろ見れそうじゃからの」
「もう」
しばらく進むと、左手に見えている川幅が広がってきた。
すこし高い堤防のような道をさらに歩くと、見晴らしの良い草原地帯へと出た。
魔女のホウキで移動中、眼下に見えていた風景だった。小さな農村や集落、そしてパッチワークのような畑が見える。
「でも、馬車も牛車もあまり通らないね」
ヒッチハイクしようにも、肝心の馬車がいないんじゃしようがない。
「このあたりは農村地帯でござるか? 広い場所でござるな。身を隠すところがないと少々不安でござる」
「えぇい、また空を飛ぶ魔女はおらぬかの」
口々にそんな事を言いながら、三人でさらに歩き続けた。
疲れたというキュンを肩車する。すると狼犬族の戦士フェルトさんが、重そうだと言って、代わりに荷物を持ってくれた。
「あ、ありがとう」
「このぐらい余裕でござる」
やっぱり頼りになるお兄さんだなぁ。それに一緒にいると安心感が違う。なんたって見た目はいかにも強そうな戦士なんだから。
と、馬車が向こうからやって来た。
幌の無い平積みタイプの荷台を、一頭の馬が牽いている。御者はおじいさんが一人。荷台には干し草のようなものを積んでいる。
「ミヨ、出番じゃぞい」
「わかってるよ」
早速、スケッチブックを取り出して、『東の方へ』と書き込んで掲げて見せる。
50メートルほど手前で僕たちに気がついた馬車は、ゆっくりと減速しはじめた。
ここで、おもいきり笑顔でスケッチブックを掲げ、乗せてくださいアピールだ。
「おねがいしまぁす」
と、馬車は急に加速して通りすぎてしまった。
あっという間の出来事だった。
「ミヨよ、誠意が足りんかったのかのぅ?」
「えぇ? それなりに頑張ったのに」
仕方ないのでまた歩く。30分ほど歩くと今度は牛が牽く乗り物がやって来た。
スカーフを被った若い女のひとが御者だ。牛の背中を棒でつつきながら、野菜を平積みした荷台を運んでいる。
再びヒッチハイクにチャレンジだ。
「おねがいしまーす、乗せてくださいー」
女の人はすぐに僕たちに気がついた。口許に笑みを浮かべて「まぁ?」とでもいうような柔和な表情で近づいてくる。
よし、今度こそうまくいった。
そう思ったのもつかの間、みるみる女の人の表情が固くなり、凍りついた。そして僕たちの前を、やや速度をあげながら通りすぎるときには目も合わせない。あっという間に通りすぎてしまった。
「え……?」
「なんでじゃ?」
けれど女の人は、怯えたような視線を向けた気がした。僕たちの背後へ、ほんの一瞬だけ向けて、すぐに顔を背けた。そして牛の尻をぺしぺしと叩いて行ってしまった。
「……」
「……」
僕とキュンはゆっくりと後ろを振り返った。
そこにいるのは、狼犬族の戦士フェルト。犬のような顔に大きな体躯。そして黒光りする鎧を身にまとい、腰には剣をぶら下げている。
「…………えっ? 拙者?」
「おぬしか」
「気にしないで……」
「せ、拙者のせいでござる!?」
「ち、違うと思うよ、失敗することは良くあるし。うん」
「どどど、どうすればよいでござる?」
「物陰にとりあえず隠れておればよかろうか?」
「キュン、それだとますます怪しいよ!?」
僕たちだけの時と違う反応の原因。それはおそらく、この暗黒戦士がいるからかもしれない。
どうしよう……?
<つづく>




