一章 凶報の知らせ
「それにしても、本当に大丈夫か。九重のやつ?」
大和が不安そうに言う。
「大丈夫だって!ちゃんと約束したから」
そう私は力強く大和にいう。
「九重君は約束を絶対に破らない。私はそう信じてるから」
そんな私の言葉に、大和がため息を付く。
「なに?」
「いや、お前さ、本当はめちゃくちゃ心配してるだろ」
そんなことを言ってくる大和。・・・心配はしている。さっきから何故か胸騒ぎが治まらないのも、私の心を不安にさせる。
「まあ、信じるなら最後まで信じてやれ」
「分かってる。・・・けど」
「けど?」
「何かさっきから胸騒ぎが止まらない。」
何か恐ろしいことが起こる前兆の様な感じもする。何か良くないこと。とっても良くないことが起きそうな気がするのだ。
そして、次の瞬間私たちのいる訓練場の扉が勢いよく開いた。
「勇者の方々!緊急事態です!」
衛兵が大声でそんなことを言った。
「なんだ?」
大和が衛兵に聞くも、
「ともかく、速く!」
私たちは玉座の間に急いだ。
「皆さん・・・」
アリスが力無く、呟く。
「何があったんだ?」
アリスちゃんがしばらく言葉を発するのを迷った後、
「実は、九重さんが・・・。魔王軍幹部、暴虐龍 アスマディに襲われました」
アリスちゃんがそう言った。
「因みにこの情報は、九重さんが私たちを案じて逃がした御者の者から得た情報です」
「九重は死んだのか!!??」
大和が声を荒げアリスちゃんに問う。
「現在騎士団が周辺の捜査をしていますが、現場には九重さんのものと思われる、血のあと以外はありません」
「じゃあ、なんだ?あいつは死んだのか?」
大和が再び問う。
「っ!分かりません!ですが、生存は絶望的かと・・・」
皆から、驚きの声が上がる。
「そのアスマディは何処にいる!!!」
大和が激昂しながら声を上げた。手に持った剣の柄を力強く握っている。
「魔大陸に飛んで行く姿が確認されました・・・」
「その、魔大陸は何処にある・・・?」
「今の私達では辿り着けません」
無慈悲な現実。現状で復讐は不可能だということ。それに、ステータスの恩恵もない彼が魔王軍幹部に勝てる道理もない。
「クッソ!!!」
大和は部屋を飛び出して行った。
「状況から見て彼は死んだのだと思います。なので、カタルゴ王国への使者は代理を立てます。」
その、落ち着い態度で淡々と告げるアリスちゃんに、日野さんが近付き胸ぐらを掴んだ。
「何であんたはそんなに落ち着いてるの!?九重くんが死んだのよ!なんにも思わないの!?」
その言葉にアリスちゃんは、
「何も思わないわけ無いじゃないですか!!!」
大声で訴えた。
「私に初めて普通に接してくれた人で、そして、誰よりも優しかった、彼が死んで悲しくないわけ無いじゃないですか!でも、それでも・・・」
言葉の途中でアリスちゃんは下を向き、涙を流した。続いて日野さんも涙を流し始めた。
私の頭の中で彼との思い出が流れてきた。
一緒に喋って笑いあったこと。彼の鈍感さに少し腹を立てたこと。そして、彼は多分覚えてないけど、彼が私を助けてくれた時のこと。色々な思い出が頭の中に流れてきた。
そして、その記憶の中で彼が私に言ってくれた言葉を思い出した。
『俺は約束を絶対守る。だから、安心しろ』
彼が私を助けた時に言ってくれた言葉だ。
その言葉のお陰か何故か胸騒ぎは治まった。
皆が絶望するなか、私だけは彼の言葉を信じ、彼の帰還を待つことにした。
「絶対に待ってるから・・・!」
私は涙を堪え、ほかの人には聞こえない声でそう呟いた。