邂逅
最後の言葉はごめんなさいだった。
気がつくと、暑い日差しが照りつけるコンクリートの上に立っていた。暑さのせいか何も考えられず、ひたすらに謝罪の言葉を口にしながら
前へ前へと行進していたのだ。
「あ、あの!ええと、大丈夫ですか?」
不意にかけられたこの言葉で叩き起こされた私は、ゆっくりと頭をあげた。高校生くらいであろう少女が不安そうに顔を覗きこんできた。
「何をしていたんだろう。ハハハ」
と笑うと、頬を紅潮させながら頭をかいた。
「そんなことしていると不審者だと間違われますよ。」
そう言うと2人で目を合わせて笑った。笑っているうちに彼女の姿が蜃気楼のように歪む。不安になる。心臓の鼓動が、蒸気機関車のようにドクン、ドクンと、鳴り響く。
「本当に大丈夫ですか?なんかフラフラしていません?」
水と一言つぶやくと、
「私の実家がすぐそこなので頑張ってください。」
長い道のりに感じた。何とかして彼女の家に着いたらしい。
彼女の母親だろうか、取り敢えず飲みなさい!と言われ水をいっぱいくれた。それを一気にからにすると、段々ではあるが、気が楽になった。陽炎のようだった視界が、形を帯びたものに戻る。
「ありがとうございます。とても美味しかったです。」
そうすると嬉しそうに笑い手を振りながら、
「やぁねぇ、ただの水道水なんだけども。」
「それでも、とても美味しかったです。」
心からの言葉だった、砂漠の中にオアシスを見つけたのと同じくらいの嬉しさだった。
「ところで、娘さん?にもお礼がしたいのですが、」
「そうね、いまよんでくるわ。」
しおりー、と声が響く。いい名前だ。
ドタドタギシギシと、階段がなる。
「あ、もう元気になったんですか?」
「だいぶね、ありがとう。助かったよ。」
「気をつけてくださいよ?」
「そうだね、このお礼はなにか別の時にするよ。」
「お礼なんてそんなこと……」
口では遠慮していても、嬉しげな様子だった。
「命を助けて貰ったんだもん、そのくらいは当然だよ。」
照れながらそう言うと
「まあそれもそうですね!すごいの期待してますから!」
あんまり負担させすぎちゃダメよーと母親の声が聞こえる。また私は頭をかきながら照れていた。