第二話:初めての依頼
というわけで、ゴブリンの出る森へと少女を連れてやってきた。
「よし、行くぞー貧民」
「貧民言わないでください! 私はミミです!」
「おーけい。 ミミね」
貧民少女はミミというらしい。
ミミのじと目を無視して森の中を進むと、木の影から「ぎゃぎゃ」と奇声を上げてゴブリンが一体現れた。
「よし、じゃあ行くぞ雑魚野郎」
ゴブリンにそう言って、俺はミミに対してスキルを発動した。
『拝借』
ユーリ:冒険者:転生人
レベル:5
スキル:耕作/鑑定/拝借/魔法(火)
ミミ:貧民
レベル:1
スキル:ゴミ漁り/魔法(火)
拝借スキルを使うことによって、ミミの魔法スキルが自分のスキル欄に追加されていることを確認した。
『魔法(火)』
俺は魔法スキルを発動し、感覚の赴くまま右手をゴブリンに向けて伸ばした。 すると右の手のひらから、ボッと拳大くらいの炎が射出された。
「わあ、魔法です」
ミミが驚きの声に続いて、炎が直撃したゴブリンは「ぐぎー」と気味の悪い断末魔を上げて、倒れた。
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それから魔法が打てる限り、ひたすらゴブリンを狩りまくった。 日が傾く頃には、ゴブリンの討伐証明であるゴブリンのキバで巾着袋がいっぱいになっていた。
「ほら、約束の報酬だよ」
お婆ちゃんがお年玉を渡すような口調で、俺はミミに銅貨二枚を渡した。
ゴブリン一体討伐で銅貨二枚になる。 よって銅貨二十枚(ゴブリン×十体)-銅貨二枚=銅貨十八枚の儲けだ。
ミミは両手で受け取った銅貨を、キラキラした瞳で見つめる。
「おお、これで美味しいご飯が食べ放題です!」
銅貨二枚でパンとスープが飲めるくらいの価値だ。 しかしそんな野暮なことを言う気にはなれず、俺は苦笑いしながらギルドに向かった。
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冒険者ギルドで依頼達成を報告した後、俺はミミと安飯屋に来ていた。
「ところで、どうしてミーに声をかけたんですか?」
ミミはスープを舐めるように飲みながら言った。 ミミは自分のことをミーと呼んでいる。
俺は周りに聞こえないように、前のめりになっ声を密めた。
「ミミが魔法スキルを持ってるからだよ。 俺は鑑定魔法が使えるからさ」
「ええ!? ミーは魔法使いだったんですか?!」
前のめりになりすぎてくっつくミミの顔を押し退けて、俺は苦笑いした。
スキルというのは、言い換えれば才能だ。
自分のスキルは、自分でも何があるか分かることはない。
大抵は教会で鑑定してもらう。 しかしそれをするには身分を証明することが必要なので、身寄りのない貧民たちには利用できないサービスだった。
誰か知り合いに鑑定してもらう、という方法もある。 しかし鑑定スキル持ちは意外と少ないので難しい。
つまりどんなに強力なスキルがあろうと、それを知らなければ無いことと同じである。
自分に魔法スキルがあると知ったミミの人生は、きっと大きく変わることだろう。
「じゃあミーは今日から魔法使いです!」
「そうだな、ミミは魔法使いだ。 冒険者になれば期待の新人魔法使いなんて言われちゃうかもな?」
意気込むミミをさらに持ち上げると「ですかねえ?」と言ってミミは鼻の穴を膨らませた。
「だけどな、ミミよく考えてもみろよ。 冒険者になって稼ぐとなったら、今度は自分で戦わなくちゃならないんだぜ?」
今日一日、一緒にいてミミがアホだとよく分かった。 だから適当に言いくるめることができる、俺には自信があった。
ミミが冒険者になって、パーティーを組むとしたら報酬は等分だ。
けれどそんなのは嫌だった。
驚いた様子でミミは固まる。
「え、でも今日みたいに」
「それで分け前等分じゃ、割りに合わないだろ?」
唸りながら「たしかにー」と言ってミミは眉間にシワを寄せる。
「だからな、しばらくはこのままでいいと思うんだ」
「このままですか?」
俺は出来る限り優しげな笑みを作る。 胡散臭くはない、はずだ。
「ミミは美味しいご飯と身の安全を、そして俺はこの分の利益を得る。 二人とも幸せで、誰も損はしない。 そうは思わないか?」
ミミはうなり声を上げながら考えているが、次第に混乱し始めたのか目を泳がせ始めた。
「じゃ、明日朝にギルド前な」
俺はそう言って、飯代を置いて店を後にした。
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□スキル
ミミ:貧民
レベル:1
スキル:ゴミ漁り/魔法(火)
ゴミ漁り……ゴミの中から良質なゴミを見つけることができる。
魔法(火)……魔力を使って火魔法を発動する。
ユーリ:冒険者:転生人
レベル:5
スキル:耕作/鑑定/拝借
耕作……畑を上手に耕せる。
鑑定……レベル・スキル・名前・職業を読み取ることが出来る。
拝借……半径二十メートル内のスキルを一時的に使用できる。