第一話:一人目の仲間
二週間ほどで王都にたどり着いた。
めちゃくちゃ早いけれど、これには訳がある。
「それじゃあ、俺がしてやれるのはここまでだ。 達者でな」
王都の入り口から伸びる入場待ちの列へ向かう俺に、メイリンの父親は言った。
村から出たあと、すぐに馬車に乗ったメイリン父がやってきて乗せてもらったのだ。
正直、一人で歩いたら食料も水も尽きて野垂れ死んでいただろう。
「いえ、こちらこそお世話になりました」
「いや、ユーリには本当に悪いことをした。 少ないが使ってくれ」
メイリン父はそう言って小さな袋を投げて寄越した。
チャリン。 音からして金だろう。
「ありがとうございます」
俺は素直に受け取って、背を向ける。
金はいくらあっても損はないし、いつか返せばいい。
ーーーー
王都は当然ながらトーゴ村とは違い、人に溢れていた。
まず人種が様々だ。
亜人種と呼ばれるエルフ、ドワーフ、獣人と人が入り乱れている。
村と比べると小綺麗な格好が多く、鎧を纏ったいかにもな騎士や、ローブ姿の魔法使いらしい姿見かけた。
冒険者ギルドに着くと、俺はさっさと受け付けに向かった。
「登録はここでいいですか?」
「はい、大丈夫ですよ。 それではこちらにサインと登録料銀貨一枚いただきます」
サインしたのは何があっても自己責任ということを承諾する書類だった。
「ギルドの信用に関わるような振る舞いは、場合により強制的に会員を除籍になりますのでご了承ください」
ギルドのテンプレな説明をさらっと聞き流して、俺はさっそく依頼を受注する。
「Fランクで受けられる討伐依頼はあります?」
「えーとゴブリンかコボルトがEランク依頼であるので受けられますけれど……大丈夫ですか?」
受付の女性は俺を上から下まで見て言った。
「はい、大丈夫です」
「まあそれならいいんですけどね。 危なかったら逃げてくださいね? 違約金は発生しますけれど命大事に、です」
受付の女性は渋々といった様子で依頼を受注すると、真剣な面持ちで忠告した。
俺は笑みを返して、ギルドを後にした。
ゴブリンはよく東の森で見られるらしいと受付の女性が教えてくれた。
しかしそこへ向かう前に、俺は行っておきたい場所があった。
ーーーー
馬車で王都へ来るまでに色々考えた。
大抵テンプレだと、序盤に盗賊退治で商人と仲良しになったり、もしくは普通にソロ冒険者として無双したりという展開がよくある。
しかし、俺は盗賊に出会わなかったし、ソロで活躍できるほど強くない。 というかむしろ雑魚。 ゴブリンにすら勝てないだろう。
武器はナイフしかないし。
だから思ったーーそうだ、貧民街へ行こう。
貧民街は想像通り、据えた臭いが漂いそこら辺にボロ布を纏った人が何人も座り込んでいた。
俺は『鑑定』を使い、目ぼしいスキルを探して歩く。
そして暗い路地を曲がり、ゴミがうずたかく積もれている場所から生えている足を見つけた。
「あー臭い臭い、でもなんだか癖になるー」
くぐもった声に一瞬目反らしたくなったけれど、一応スキルを視る。
『魔法(火)』
目の前に浮かんできた文字に、俺はため息を吐いた。
「おーい」
「はい?! ここはミーの陣地です! ゴミ漁りなら他を当たってくださいね!」
「違うわ!」
どこか偉そうな声を俺は訂正して、足を引っ張った。
「おおおお、なんと強引なー横暴ですー」
じたばたとした抵抗を無視して、俺はマグロみたいにゴミに突っ込んでいた少女を逆さに吊るした。
「君を雇いたい」
俺の言葉に少女は目を丸くした。 そして俺たちはしばらく見つめあった。
「それは性奴隷ですか?」
沈黙を破ったのは少女だった。
「違うわ! 俺はロリコンじゃない!」
「えぇ、そこはいたいけな少女の弱味に漬け込むなんて俺にはできないぜ、みたいな理由じゃないんですか……」
呆れた様子の少女に、俺はにやりと笑ってみせる。
「タイプなら問答無用で漬け込むね。 一生離してやらない」
「悪どい! 憲兵さんど畜生がここにいますよー」
「おいおい、いいのか? 憲兵は小汚ない貧民と冒険者の俺、どっちの言葉信じるかな?」
「悪役のセリフですよ! 絶対この人悪です! 冒険者ってことは私を肉盾として使い捨てる気ですよ」
自分の体を抱いて震える少女を無視して、俺は懐から銅貨二枚を取り出した。
「いや、戦うのは俺だ。 君は側にいてくれるだけでいい」
「それは愛の告白?!」
「これは俺のスキルに関係してくるんだけど、具体的にいえば君のスキルを『拝借』したい」
「無視は辛い、辛いです」
話が進まないので、嘘泣きする少女を無視して俺は銅貨を差し出した。
「君を雇いたい」