何度も転生した男
ある高校生が事故で死んでしまった。顔も頭も性格も良いともいえず、いつも人と自分を比べ、根拠も無く人を下に見る少年が死んだ。
「うう……」
「気が付いたようだね」
「!!誰?ここはどこ?」
辺りには見まわす限り、白く朧げな空間が広がっていた。
「ボクは人間の神。ここは精神の世界。キミ達の言葉ならあの世かな。」
「何を言ってんだ。死んだ!?嘘だ!そんなはずは無い」
「まあ、落ち着けよ。キミは確かに死んだ。だけどチャンスも貰ったんだ」
「チャンス?」
「そう、別の世界に生まれ変わるチャンスだよ。貰うだろ?サービスで顔も良くするし、記憶もそのままにする。君の好きな転生でチートだ。ただし、貰うかどうかは今決めて」
「貰う!貰うよ」
考えるまもなく答える高校生。その口元には、歪んだ笑みが浮かんでいた。
「よかった。じゃあいくよ……」
人間の神が、高校生に手をかざすとあたりは光に包まれていった。
「ああ!旦那さま。かわいい男の子が生まれましたよ」
それから月日が流れ……高校生は新しい名前『サルテ』を貰い新しい人生を謳歌していた。
「おはようございます。サルテ様」「おはようございます」
いつも通り、目を輝かせ挨拶をしてくる女子達。
「……おはよう」
慕われて当然という尊大な返事。それでも幼い彼女たちには、自信にあふれた魅力的な姿にみえた。
(こんな子供を相手にしても無意味だな。だが、ゆくゆくは俺が遊んでやるから安心しろ。それまで必死でオレ好みになるよう努力しろ)
自信に満ちた少年期が終わり、青年期が始まる。それは、彼の想定する完璧の崩れ始めだった。
ある日、サルテが街へ買い物をしていると、サルテについて話している女子を見つけた。
「サルテってさー目つき怖すぎない?」「わかる、わかるいつもにらんでるよね」「いつも女子の方見てブツブツいってるし」「あれ、怖いし気持ち悪い」「昔は顔も頭も運動も良かったのにね」「ねー」
彼女たちの話を、とっさに隠れた物陰でサルテ本人は聞いていた。
(俺もお前たちの様な下らない女に興味など無い。俺の魅力が分からずかわいそうな奴等だ。大体人気があればアンチも多くなるのは当たり前だ。そんな簡単なことも分からないお前らの頭は不良品だ。)
胸中で吐き捨て、彼はその場を離れた。
陰口を聞いた少し後、サルテは1人の少女を見つけた。昔彼のことを好きだった少女だ。
(あれでいいか、俺が話しかけてやるんだ光栄に思え)
ちっぽけなプライドを取り戻すためだけの虚しい行為だが、サルテは気づいてはいない。
「やあ、こんにちは」
「こっこんにちは。失礼します」
そう返すと少女は急いで走り去り、近くの店で飲み物を買っていた少年の傍に寄っていった。
(クソが、何でテメェごときを口説いてると勘違いしてんだブスが)
またも胸中で吐き捨て、早足で街からはなれていった。
「クソッ、低能どもがなんで俺の思ったとおりにしねぇ。クソが」
怒りに任せて地面を殴り続けていると、次第にあたりが白く朧げに変化していった。
「随分と怒ってるね」
「あっ!神様!何で?俺はまた死んだのか?」
「違うよ、困ってるようだから、また来たんだ。君は選ばれた人だからね。よかったらまた違う世界に行くかい?」
「行きます。こんな所、選ばれた者の価値が分からない世界なんて捨ててやる」
「わかった。行くよ」
しかし、次の世界でも次の次の次の次の次の世界でもサルテの思ったとおりの結果にはならなかった。
「なかなか上手くいかないね」
「あたりまえだ。どいつもこいつも俺のすごさを理解しようとしねぇ。選ばれた人間なんだぞ俺は」
「うーん、あんまりオススメできないけど、君が絶対に人類で一番になれる世界があるけど行くかい?」
「何で今まで黙ってたんだよ。そんな所があるならとっとと送れよ」
「いいの。じゃあ行くね」
慣れた光がサルテを包む。
「じゃあ、がんばってね。バイバイ」
光が収まりサルテが見た光景は溢れる緑であった。
「今回は体が大きいし、貴族の生まれでもないんだな。場所はジャングルかめんどくせぇ」
文句を言いつつも、人がいそうな場所を目指し歩きだす。
「動いていれば、集落が見つかるだろう。集落が見つかればこんな未開地簡単に支配してやる」
しかし、サルテの予想と違い何日経っても集落どころか人一人見つけられなかった。
「クソが、なんだこの世界何にも無えじゃねえか。オイ、神聞いてんだろ世界を変えろ。選ばれた人間なんだろ聞けよ。返事しろよオイ」
いつもなら呼びかければすぐに現れる神が今回はまったく出てこない。理由は簡単である。本来人のいない世界に「人間の神」は干渉できないからだ。
当然そんなことを知らないサルテは、あらん限りの罵倒を神に叫び続けた。
転生して環境がよくなっても性根が変わるとは思いません。