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それは・・・よくある話のオンライン  作者: としょいいん
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第3話 リアライズ

 ゲーム開始から最初のうちは一人でも十分に戦えていたオレだった。


 しかし、先のエリアへ進むにつれて徐々に敵の攻撃が強く厳しいものになって行く事に対して、オレは焦りを募らせて行く。

 それに何より戦いにくいと感じるのは、敵の同時出現数が確実に増えている事がその要因だと判ってはいるのだが、これと言った解決策を見いだせずに居る。


 これまでのように敵が単体とか少数なら、まだ何とか戦い続ける事は可能だろう。

 それでも同時に十体以上もの敵に囲まれた時は、さすがに生命の危険をヒシヒシと感じる事になる。

 一概にザコとは言ってもサイクロプスやグリフォンそれにキメラなどのような中型モンスターたちも混ざっている場合も多く、一人では思わぬダメージを負ってしまい回復薬に頼る事も度々だ。


 そして一人で敵と対峙し続ける時に、何よりも警戒しなければならないのはやはり状態異常攻撃の類だと言える。


 例えば、毒を受ければ体力が減り続ける他に筋力低下などペナルティが発生するが、麻痺や睡眠なんて食らった場合には一切の身動きが出来ない状態となり、そんな状態で敵の攻撃をまともに受ければ最悪のケースとして一撃死もあり得る。


(どこかに条件の良いパーティ募集があれば…)


 最近になってからクエストの合間に冒険者ギルドの募集掲示板の内容を見て回るようになったが、なかなかこれといった募集は貼られていない。


(出来れば一回こっきりのクエスト募集では無くて、固定メンバーのパーティ欠員募集が良いよなぁ…)


 ゲーム開始からこれまでの間に多くのプレイヤーたちはパーティを組んだりクランを組織するなどして、クエスト攻略をより安全で効率の良いものにする為に相互扶助の人間関係を構築している。


 しかし、その頃のオレはと言えば……。


 他のメンバーたちを使い捨てのNPCノンプレイヤーキャラクターのように扱っていた事が災いして、心を許せるような仲間には今も恵まれていない。


(頭では判っていたんだ、頭では、このままではダメなんだと……)


 他人と話すのが苦手だったオレは、相手にそれを悟られる事に対して極度のコンプレックスを持っており、それが原因で自分より少しでもゲームが下手な者たちをコケにする事によってその安物のプライドを必死で守っていた愚者だった。


 そんなオレだったから一緒に固定でパーティを組んでくれる様なメンバーたちと知り合うチャンスも無く……いや、オレの方からそのチャンスを潰していたからこそ、今もこうして一人で野良募集を探しているのだろう。




 だからと言っては何だが、今さら野良ばかりが集ったパーティなんて、これまでのオレみたいな自己中プレイしかやった事が無いような連中の集まりだ。

 言ってみれば多少は腕が立ったとしてもバカばっかりの集まりなので、プレイヤー同士の連携による高度な生残り戦術なんて望むべくも無い。


 お互いが助け合わず、仲間を味方とも思わず、他のプレイヤーたちを肉の盾程度にしか考えていない。

 ましてや、スキルと力技によるゴリ押しプレイばかりが唯一の攻略方だとカンチガイして居れば、いつかは多数の死者が出てしまうだろう。


 はたして、その死者が自分では無いと言い切れるだろうか?。




 どうしてこうなった?。


 何故あの時に困っていたメンバーたちを見捨てても自分だけは大丈夫だなんて、そんなに都合良く思い込む事が出来たんだろう。


 よく考えてみれば、きっと気が付いたはずなんだ……。


 だって、オレたちが閉じ込められたこの世界はMMO(多人数同時参加型)のロール(役割を演じる・分担する)プレイング・ゲームだったのだから。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 そんなある日の午後、その日も朝から灰色狼の群れを狩って手に入れた毛皮を売る為に、冒険者ギルドへと足を運ぶと、一枚のメンバー募集が貼られているのに気が付いた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

募集日 :紫魚の月・十二の日

ギルド名:所属なし

クラン名:シエルドラク(5名)

リーダー:ソラ(ファイター・男・LV30)

募集条件:前衛職1名(出来れば大盾希望)LV25以上・性別問わず

――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 このゲームでのクランと言うのは、元々とは少し違った意味で使われており、言って見れば固定メンバー同士のチーム名として呼ばれる事が多い。


 募集条件の中に”出来れば大盾希望”とはあるが”前衛職”とも記載があるので、ファイターのオレでもシールドを装備した壁役としてなら参加出来るかも知れない。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ライアと言います、ジョブはファイターですが、ラウンド・シールドを装備してタンク役を引き受ける事は出来ると思います」


 リーダーのソラに向かって自己紹介を済ませる。


 今までほとんど一人でクエストに出ていたので、パーティ内でタンク役としての経験は皆無と言っても良いが、同じ前衛職であるファイターとして盾を装備して戦っているのでそこをアピールしてみる。


 これでダメだと言われたら仕方がない、ここは素直に諦めよう。




「そうですか、でも壁役としての経験は無いのですね?」


 リーダーは少し心配そうに何かを考えて他のメンバーたちに意見を求める。


「ただの壁役に多くは期待していないからこの際、誰でもいいじゃないか」


「壁役、下手、アタシ、死ぬ」


「でもフリーのシールダーさんで本職の人なんて、募集では集まらない事が多いし…」


 最初に不愛想な感じのファイター職の男が答えると、次に白いローブのフードを深々と被り顔が良く見えないクレリカの女性と、弓を担いだ背の高い女性の二人も何やら話し始める。


「次のクエストはキメラが相手じゃから、そこでコイツの実力を見るって手もあるじゃろ?」


 彼らの話を聞いていて、どうも見込みが薄そうだなと考えていると、一番後ろの椅子に腰かけていたメイジがお試し期間ではどうかと提案してくれた。


「なら、とりあえずメンバーを紹介しておこうか、私と同じもう一人の前衛担当がそこに居るリュウセイだ」


 すると、さっきの不愛想な男が面倒くさそうにこちらに片手を上げる。


「ちゃんと役に立てよ、新入り」


「アタシ、リリィ、回復魔法、得意」


「私の名はレイラよ、アーチャーをやってるわ」


「ヨ、宜しくお願いしまス、です」


 このパーティには女性が二人も居るのか……。


 リアルでも女の子と話した経験は無いが、とりあえず挨拶をしようとしていると、何故か緊張してかんでしまう。


「ワシはアバンじゃ、魔法使いをやっとる、よろしくな新入り君」




 これで、とりあえず最初のクエストには同行させて貰える事になったが、不愛想なファイター君とか、カタコトで話すクレリカとか、気難しい人じゃなければ良いのだが。


 ……と言うか、リーダーと弓使い以外のメンバーたちとは、ぶっちゃけ性格が合わないような気がするが、そんな事ばかり考えて今まで他者を排除してきたから今の苦しい状況がある訳で……。


 正直なところを言えば、このシエルドラクのメンバー達の第一印象は微妙だった。

 だけど、彼らに固定メンバーとして認められれば相手からの扱いも変わると信じて努力を続けるべきだろう。


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