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それは・・・よくある話のオンライン  作者: としょいいん
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第2話 思い上がり

「おい! いつまでオレを前面に立たせておく気だ? 弓士と魔法使いは後ろからガンガン攻撃してくれないとダメだろ?」


 リアルどころかネットでも知り合いが居ないオレなので、クエストはもっぱら一人ぼっちか野良募集でのパーティでの参加となる。


 お互いが見知らぬ野良パーティの場合にはコイツらの様にネトゲ初心者がかなりの数で混じっていて足を引っ張られるのだが、正直なところイヤでたまらない気持ちになる。


「ほらそこ! 一人で前に出過ぎると敵が回り込んで来た時にフォローしきれないんだよ、もっと考えて行動してくれ!」


 正面に現れた三匹のオークが、先走ったバカの後ろに出来たスキから後衛に居る魔法使いたちへと迫って行くのが見えた。


 まだ呪文の詠唱中で身動きの出来ない魔法使い某氏に対して、血糊の付着した戦斧を構えたオークが筋肉を躍動させて大上段から襲いかかる。


「誰かたす… へぶっ!!」


 名も知らぬ魔法使い某氏がバタリ! と音を立てて倒れると、地面に広がった彼のローブが真っ赤な血飛沫を吸って黒濁色に染められていく。




 大体「誰か!」なんて叫んでるヒマがあったのなら、呪文の詠唱を途中でキャンセルしてでも逃げるべきだったのに”誰か”の援護を期待して、受けなくても良い敵の攻撃に身を晒したのは彼の判断ミスだと言えるだろう。


 他のヤツラだってたまたま同じ野良パーティに居合わせた程度の相手なんだから、そこの所を勘違いされたら困るんだよなぁ。

 むしろ必ず助けに来てくれる”誰か”が居るなんて、そう考える方が間違っているんだから。


 この世界での”死”はリアルでの”死”とイコールなのに、一体ドコのどいつが自分の身を犠牲にしてまで赤の他人を助けてくれるだろうか?

 死にたくなければ、そんな妄想は今スグ捨て去ってしまうべきだろう。

 何よりたった一つしか無い自分の生命を最優先に考えるのが、ここで生き延びる為の条件だと覚えておくと良い。


 先程の魔法使い某氏に戦斧で一撃を与えたオークの攻撃モーションが終わらないタイミングを狙ってその背後から手痛い一撃を浴びせてやる。

 オレの片手剣が敵の右肩付け根部分に喰い込んだ時、オークが耳障りな叫び声を上げた。


――グルァァァァァ!!


「は、早く魔法使いさんに回復魔法を!!」


 オレの後ろで弓を持ったヤツが同じパーティの皆に声をかける。


「まだ死んでないから大丈夫だ、そんな事より先にあっちのオークたちを何とかしろ!」


 しかし、オレはそんな事より先に向こうから迫りくる、二匹のオークたちに対して先制攻撃を仕掛けるべきだと主張する。


「そんな! 仲間だろ?! 敵よりも味方の回復が先じゃないのか?!」


 手に持った剣ごと手前に引っ張られてオレの体勢が崩されてそうになったが、そのまま倒れる訳にも行かず両足を踏ん張り身勢を整えると、右手の剣をもう一度握り直して今度はオークの延髄あたりを目掛けて斜め上から斬撃を叩き込む。


――グルッ!!


 さすがにオークの首を斬り飛ばすまでには至らなかったが、それでも最後のHPを削り切る事には成功したようだった。

 死に際にひときわ大きな耳障りな呻き声を上げてからオークがそのまま動かなくなると、その身体が淡い光に包まれて消滅して行く。


(これで、とりあえず一匹か…)


 しかし敵にトドメを刺している僅かなスキに、残り二匹のオークがオレに照準を合わせて駆け寄って来る。


(そら見ろ! 早くしないから、あっちのオークがオレを殺しに来たぞ!)


 味方のパーティよりも先に進み過ぎてしまったファイター某氏が更に別の敵とエンカウントしてしまい、こちらへ戻って来る事は出来そうにない状況だ。

 ここは何とか上手く立ち回ってあのオークたちを切り抜けないと、今度はオレが地面を舐める番になる。


 急接近して来る二匹のオークから目を離せずにいると、右側のオークが手に持っていた戦斧をオレに向けて投げつけて来る。


――シュッ!!


「ぐふぅっ!?」


 咄嗟に身体ごと横転して、飛来するオークの戦斧をギリギリのタイミングで回避する。


 すると、その直後にさっきから”小うるさいな”と感じていた弓使い某氏の胸に、オレが躱した戦斧が深々と刺さり、そのまま血しぶきを上げて吹き飛ばされて行くのが見えた。


(この下手くそがっ! でもこれで少しは静かになるな)


 得物を投げて終えて武器を失ってしまったオークを、もう一方のオークに対して盾になるように考えながら自分の立ち位置を決める。

 そして、それと同時にオレの背後側に居るはずのファイター某氏をチラ見して探すが、何故か何処にもその姿が見えない事に気付く。


(もしかして先に逃げられたか?!)


 このまま下手くそで未熟なパーティ・メンバーたちと一緒にクエストを継続したとしても、はやりオレの足手纏いにしかならないだろう。

 そして経験値稼ぎの邪魔になりそうだと考えたオレは、早々と一つの結論へと思い至る。


「こんなパーティじゃやってられないな、オレも抜けさせて貰う」


 パーティ・メンバー達が信じられないモノを見るような眼でオレを見るが、そんな視線には全く気付かない振りをして、一人でこの戦闘エリアからの脱出を図った。


「死んだら元も子も無いからな、悪く思わないでくれ」


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