桜ヶ丘
俺は、桜ヶ丘駅で星村を待っていた。
手には、コンビニの袋を提げて。
星村まだかなーなんて思っていた。
そんな時、俺の前に一人の女の子が立つ。
『橘さん、遅くなってすみません。』
よく見ると、星村だった。
スーツ姿の時は、綺麗が似合っているが、私服姿は可愛いが似合う。
花柄のワンピースに、髪は結んでいなくストレート。
口紅は、桜と同じ色。
可愛いすぎたろ…。
あっ、やばい。星村がこっちを不思議そうに見ている。
何か、言わなくちゃ。
「…あっ、星村。俺も、今来た所。」
いかにも、今来ましたという風に言った。
内心焦っているけど、平静を装った。
『あっ、そうだったんですか。』
「うん。早く、桜ヶ丘に行こうぜ。」
『はい。』
二人で目的の場所まで、歩いた。
その間、お互いに何も話していないので沈黙が続いていた。
何か話さなければ…と思っていたけど、何も思い浮かばない。
沈黙をやぶったのは、星村だった。
『橘さん。』
「うん、どうした…?』
『いきなりなんですけど、私とても大切な事を忘れている気がするんです。』
「えっ、何を?」
俺は、何も知らないというように聞いてみた。
『昔、桜ヶ丘で友達と遊んでいた…って話はこの間しましたよね?』
「うん。」
『その時、もう一人いたような気がして…。』
「そうなんだ。いつから、そう思うようになったんだ?」
『橘さんとお花見のお話をした時からです。』
「そっか。だけど、無理して思い出す必要はないと思う。きっと、思い出せる日が来る。」
俺は、今まで思っていた事を言った。
早く思い出してほしいとも思っていたけど、星村が自然に思い出してくれた方が良いと思う。
『ありがとうございます。あっ、着きましたよ。』
「久し振りだな、ここに来るのは…。」
『桜、きれいですね。』
「きれいだな。」
俺は、そう言いながら隣に立っている星村を見ていた。
桜もきれいだけど、お前もきれいだよ…と思いながら。