最早作業の如き現状把握。
生まれたからには、生を全うする。
こんな偉そうなことを言う私だが、現在、産声を上げているところだ。
私には、前世というものがある。
科学の世界や、魔法の世界に。人間、エルフやドワーフなどの王道ファンタジー種族や魔族、動物、妖怪。男、女。奴隷、平民、貴族、王族。色々と経験した。死因も様々だ。
この、雑多とも言える前世群のおかげで、転生回数が二桁の後半に差し掛かる頃には、私は幼少から何でも熟せるようになっていた。
そして同時に、恋愛感情を持ちにくくなっている。特に、今世のように、貴族以上の身分に生まれた場合、結婚は義務的なものでしかないという前提が生まれる。時には、婚約者と相思相愛になったこともあるが。
さて、過去紹介はこの辺りで切り上げて、現状の把握に努めねば。
現在、生後一ヶ月。そろそろ、自身とその周りのことくらいは、理解できた。
今世の私は、アーカード侯爵家現当主ロクサス・ヴァルトと、その妻シェイラ・エレニアの、次女ベルリーナ・ルキアンとして生まれた。兄は2人、次女であるからには姉は1人。弟妹もまだまだ生まれることも想像に難くない程、両親の仲は良い。
長男はドラグニル・ウェルト、6歳。次男はマリウス・ジノ、4歳。長女はカノン・リナリー、マリウス兄様と双子。
お父様は侯爵だから、普通ならもう数人の奥様がいるところなのだが、うちの両親はどうやら、馴れ初めこそ政略的な婚約だったものの、気が合って、相思相愛になったらしく、更にはお母様が健康な男の子を2人産んだことで、周りも黙った、という状態だ。まあ、まだちらほらと、自分の妹や娘を、と言ってくる者もいるようだが。
ドラグ兄様は、現在王都の学園に通われているので交流がないが、どうやらとても優秀らしい。マリウス兄様とカノン姉様も、各教育は順調なようだ。
お父様は、少々愛妻と子煩悩に過ぎるきらいはあるものの、領主として、王の臣として、とても素晴らしい手腕であるそうだ。お母様も、今はシーズンではないし、ひとつ前のシーズンは身重であったから、参加はしていなかったようだが、通常時は社交界の重要人物のようだ。
そもそも、お母様の出自は国王陛下の姪、公爵令嬢であるらしい。王弟の第二子で長女、それがお母様。
…ああ、早く皆とお話したいな。
数日前、2歳になった。貴族の子どもは、この頃からマナーなどの教育が始まるそうで、私も、少し早めとなる先々月から家庭教師をつけてもらっている。
お陰で、この世界のことや、国のシステムなどがわかってきた。
暦だが、一年は12ヶ月、一ヶ月は4週間、一週間は7日で、一年=336日。
ここは、魔法のある世界だ。全ての人が魔力を持つが、魔力量の限界値はピンキリで、その限界値まで魔力量を上げられるか、効率よく魔力を使えるか、何処まで大きな魔法を使い、複雑な魔法陣を編めるか、またその魔法陣の展開の速さや、如何に小さく展開させられるかは、努力次第。魔力量の限界値に比例して、寿命が変わるらしい。正確には、限界値が高い程、全盛期が長くなる。この場合の全盛期というのは身体的なもので、成長が完了してから老化が始まるまでのことだ。
魔法というものは、同じ『魔法のある世界』でも、その魔法の根源たる魔力が世界によって違うので、魔法も違ってくる。まあ、どう違うのか、というのは、大抵が感覚的なものなので、説明が難しいのだが。それに、発動してしまえば大した違いはなくなる。簡単に、レギュラーとハイオクみたいなものだと思ってほしい。
魔力の回復も、湧き水方式の魔力と、除湿器方式の魔力があり、湧き水方式の場合、鍛錬で回復速度を上げることができる魔力と、できない魔力がある。除湿器方式の場合は、その方法上、鍛錬で回復速度の上昇を図ることができる。除湿器方式の亜種といえばいいのか、魔法を使う時に、必要な分だけ体外魔力を取り込み、体内魔力を使って発動、というものもある。体外魔力がガソリンで、体内魔力がキー、というところか。
今回の世界のような、魔力は持っている上で量などに個人差のある世界や、魔力を持つかどうかは生まれなければわからない世界、親の片方でも魔力持ちであれば、子どももほぼ魔力持ちとして生まれる世界。魔法使いが重宝される世界や、悪魔憑きなどといわれ迫害される世界や、魔法使いの一族とそうでない一族が断絶されている世界。様々だ。
また、世界によって、精霊魔法の有無も違うし、あっても、使える者の条件も違う。
私は、魔法のある世界に転生する度に、その世界の魔力を手に入れている。除湿器方式で回復する魔力や、亜種の方式では、体外魔力が同じ、あるいは同じものが入っているような世界でなければ使えない。湧き水方式で回復する魔力は、体外魔力に左右されないので、どの世界でも使える。
この国は、タルクーザ王国。海と山と『魔の森』に囲まれているために、他国との争いとは無縁の、平和な国だ。
王都トピアスにある主な建物は、王族の住居と王の執務室、謁見の間がある『タナザイト城』と、王族や貴族の子が入学する『アモーリト学園』だ。
アモーリト学園は、初等科、中等科、高等科から成り、全寮制である。
各地方に無料の学校があり、ここは初等科相当の教育しかしない。この学校で優秀な成績を修めると、学園の中等科に無料で進める。