9
前回のあらすじ:街に到着しました。護衛の仕事を受けて街道を進むとモンスターや野盗に襲われたので返り討ちにしました。
今回予告:港町まで着きます。船が出るまで一日空くので鍛錬します。
「申し訳ない」
デクスさんに頭を下げられている。非常に困る。なんと言えばいいのか、わからない。
気にするなとも言い難い。私の失敗も水に流せと言ってるようで。大丈夫だったから問題ない。という方向性も駄目だ。私も私の失敗を、終わりよければ全て良し、とでも言ってる聞こえになる。どうしよう。
「幸い、ハンスさんたちとも揉めずに話が出来ている。僕を含め、反省はそれぞれでするとして、今はもう休もう」
レニーにフォローしてもらった。
結局一度、ダフネンの街まで戻ってきた。あのあと小火を消してから馬車に腰掛けて待っていると、まずレニーたちが街道を戻ってきた。あのトカゲ、でかいだけで魔法は使えなかったらしい。それでもバカみたいにタフなので、殺しきるのに時間がかかったそうだ。コトレーさんがトカゲを炎で包もうと、全く気にさえしない様子で立ち向かってくる。時間をかけて何度も攻撃し、四足を潰して動けなくなってから脳天を滅多刺しにしたにも関わらず、一時間は息があったらしい。正真正銘の化物ではあったようだ。図体だけで、トカゲらしい俊敏さの欠片もなく弱かったそうだが。ともかく怪我をする人さえいなかったのは良いことだ。
問題はトカゲを動けなくしたあとに、近くの林で動いていたから捕まえたという男だ。
聞き出したところ、そいつがトカゲを操っていたらしい。曰く、さる貴族が趣味でペットのトカゲをあの手この手で大きくした。が、でかくなりすぎたので権力を利用し、無理矢理売り払った。
凶暴で、殺しても得るものがない。買い取らざるを得なくなった商人は困って、試しに地下闘技上に出してみると良い人食いショーになったので、そのまま利用することに。そしてトカゲは人の味を覚えてしまった。ただ暴れるだけだったトカゲは、檻を破壊し、手当たり次第に人を食うようになった。そこで自分が呼ばれたと。
本人曰く、いつか竜の里を発見してともに暮らすべく、爬虫類と交信する魔法を開発していたのだ。竜は人の言葉を喋れるらしいが、彼は自分が竜の方に合わせたかったらしい。ドラゴンフェチ……。それはともかく、その魔法を体得する過程でトカゲを操ることができるようになっていたので、彼はトカゲと一緒に海を渡った。元いた国では大事になっていたので、トカゲはそのままそこにいることができなくなってしまったのだ。
海を渡った男とトカゲは、セット商品として売られることになった。しかし、男は自分が商品にされるなんて聞いていないし許していない。ただトカゲの世話を頼まれただけだ。訴えは虚しく退けられて、いつの間にか自分も奴隷のように売り買いされる立場になった。そして海を渡った先のオークションであの野盗たちと出会ったのだ。それから彼らに買われ、なんやかんやあって逃げずに野盗をやるにいたる。……波乱万丈の人生だな。
私たちを雇うように進言したのは、やはり獲物を増やそうとしただけのことだった。先の戦争で大儲けしたやつがいるらしい。これはたくさん持ってそうだな、と。その結果がトカゲ男を残して全滅なのだから、もはや世話はない。
ともかく、みんなは焦った。冒険者たちが野盗で、他にも大勢の仲間が待ち構えているということを聞き出し、自分たちの置かれた状況を正しく認識したのだ。特に我が夫や、私を送り出すことにしたデクスさんは全力で駆けつけてきた。……すでに全ては終わっていたが。駆けつけた中でもエリスはとても嬉しそうな顔をして抱きついてきた。よくわからないけど、あれは仲間の無事を喜ぶようなものだけではない感じだ。よくわからないけど。
今、トカゲ男は失われてしまった相棒のトカゲを想い、一人ダフネンの拘置所でめそめそと泣いているそうだ。なお、野盗たちへの情はないらしい。
翌日の夜、港町へたどり着いた。今日は霧もなく、地面もある程度ましになっていて、旅は問題のない行程となった。
「本当に、あなたたちにはお世話になりました」
ハンスさんのしみじみとした、感嘆のような感謝。仲間を二人失ったものの、見舞われた厄災を思えば、馬車も荷も残ったことを幸運に思うべきだろうということのようだ。
「特にお嬢さんには、感謝の念がたえません」
しかし本心はわからない。冒険者もどきがデクスさんたちを演技で騙しきったように、商人である彼らも、その気であれば得にならないような憤慨は見せずに演じきるだろう。ほんの半日しか彼らを知らない。商人たちがどんな関係だったかにもよるが、人質にとられてもまったく助ける気がないところを見せている。恨まれていてもおかしくない。とはいえ。
「ありがとうございます。……しかし、私が殺されたお二方を見殺しにしたのは確かです。恨んでくれても構いません」
これくらいは言っておく。言っておくなんていうと、まるでまったく堪えていないようだが、確かにそんなに堪えてはいない。あの人形と比べれば人間らしいが、それは私がまっとうな人間であることを示すわけではない。
迷惑料、ということも鑑みて、二人の商人を守れなかったにも関わらず、ハンスさんは元々の依頼料である五千をそのまま払ってくれた。こうして、この件は幕を閉じる。
これで信用を取り戻せた。なんて思うことはできない。今回のことはたまたまだし、これでまた調子に乗るかも、なんて思われていても不思議はない。精進すべきだ。
「明後日に出る船が取れました。約二十日間かけて東の大陸の港まで行き、そこから南の大陸へ十日ほどかけて行く航海になるそうです。そういうわけで、明後日の朝までは解散。なお船は待ってくれませんので、遅れると置いていくことになります」
相変わらずこうした手続きはデクスさんが行っている。
今は夜中、宿の隣の酒場に集まっているが、旅路に慣れているグループとそうでないグループではっきり様子が違っている。ウィーさんを筆頭に、レニー、デクスさんはこれから飲む気満々で、アルヴェドさんもそれに付き合うよう。それ以外の面々はすぐにでも寝たそう。エリスだけは平気だけど飲む気がないようだが。昨日のエリスの異様な喜びようを目にしてから、なんとなく彼女のことが気になる。警戒しなければいけないような、そうでもないような。
「はあ……。あなたたち、よくそんなに元気がありますね」
コトレーさんはまさに疲れきったという様子で、酒場の椅子に座ってから、動作が鈍く手先も少し震えている。これは明日は動けないな。
「子供ん頃から草原を駆け回って生きてきたからな、そりゃ都会育ちのあんたらと比べりゃ体つきからして違うぜ」
遊牧民族の生き方はよく知らないが、ウィーさんは体が丈夫なよう。育つ環境は重要だ。
「んじゃあ俺はもう寝ますわ」
マフス君やメルディメル、コトレーさんが酒場を出て行く。
「私は一杯だけ飲んでいきます。海辺のワインは美味いと師匠が言っていたので」
「……どういう理屈ですか?」
ジェニーラウラさんの師匠って、デクスさんのお知り合いだっけ。ちょっと気になったので聞いてみた。
「何年も前に聞いた話なのでよくは覚えていませんが、確か潮風がどうとか聞いたような気がします」
聞いてもよくわからなかった。しかし、ジェニーラウラさんからは狼狩りから少し敬遠され気味だったけど、今はそのような険がない。ちょっと嬉しい。
「俺も初めて聞いたな。でも、あいつが言ったことなら理屈のある話じゃないだろうな。あいつはロマンチストで妄想家だ。……夢想家じゃないぞ。そんな上等なものじゃない。……きっと脳内で作り上げた物語に酔って適当なことを喋ったんだろう」
デクスさんが話に乗ってくる。ジェニーラウラさんの師匠は以前にも、吸血鬼のお姫様と一夜を過ごし、別れ際にこの世にはそのたった一輪しか咲かないという花を貰ったとデクスさんに語ったことがあるそうだ。ちなみにそんな花は存在しない。聞くだに、かなりの変人っぷり。元貴族のお嬢さんに新興の傭兵団を勧めるだけのことはある。
エリスも話題の師匠を想像してみたのか、「うへー」と嫌そうな顔をしていた。私はレニーに付き合うつもりで残っているけど、彼女は飲み食いする気がないようなのに、なぜ残っているんだろう。
「そういう癖があることは知っていますが、そんな感じではなかったような気がするんですよね」
「試してみればわかるじゃねえか。さっさと注文しようぜ」
ウィーさんに発破をかけられて。
試したのがジェニーラウラさん、デクスさん、案外興味を持っていたらしいレニーの三人。特別良いと感じた人はいなかった。
「そういえば手持ちの武器が全部駄目になったんだっけ。何か良いものがないか探しに行ってみる?」
翌日の朝、何もすることがないね、なんて朝食後に言ってみれば。
「どうしようか。武器って手に馴染ませないといけないからいつも同じの携帯してたけど、一昨日の戦いでは魔法で作った即席の短剣でも問題なさそうだったのよね。……まあ、他にやることがなければ見て回る?」
「僕も自分の物を見てみたいし、行こうか」
出かけることになった。
かと思えば。
「団長、奥さん借りてっていいですか?」
メルディメルとジェニーラウラさんが宿の入口で声をかけてきた。
「えっと、何か御用?」
何も覚えはないが。
「いやね、この前の狼狩りは慣れなのかなー、と思ってたんだけど、一昨日のあれはどう考えてもただ者の仕業じゃない。ちょっと鍛錬に付き合ってもらいたいな、ってね」
「私も団の中では弱い方に入っていますので、ご指導願いたいです」
二人のお願い。
「僕は構わないけど、エーナはいいのか? 多分君、そういうの苦手だろ?」
苦手だと言ったことはない。なぜそう思われているんだろう。当たってるけど。
「確かに指導とかは苦手なんだけど……。せっかく誘われたんだからついていくよ。レニーはどうする? やっぱり武器を見に行く?」
武器屋めぐりは他にすることがないから浮き上がった話だ。
「よければ僕も見学させてもらうよ」
街のすぐ外でやることになった。まずはメルディメルの希望で私と模擬戦をすることに。
メルディメルは普段からステゴロ。開始の合図が出る前から、すぐにでも飛んできそうなくらいに低い姿勢で足先から十分なタメをつくり、こちらを眼光鋭く睨めつける。対して私は魔法で短い木の枝を作り出して佇む。私の技術はどんな状況でも目標を仕留めるべく、なるべく自然体でいて一撃入れることを主眼としている。一応打ち合うこともできなくはないが、滅多にしない。そもそも正面からことを構えないからだ。
「……構えないのですか?」
ジェニーラウラさんが開始の合図を出せずにいる。
「はい。そういう戦い方です」
「そういえば狼の群れに突っ込んだ時もただ走っていっただけだったよね」
覚えてるんだ、メルディメル。案外見られてるんだな。
「では始めますよ? ……呼吸を合わせる必要はないですよね?」
「なにそれ? 知んないし、いらない」
私もそういう作法は知らない。
「……では、始め!」
当然の如くフライング気味で突っ込んできた。5mは離れていたのがほんの一瞬で拳を避けなければいけない事態に。彼女は真正面より少し右にずれたところに来て、右のストレートを顔面めがけて放ってきた。大きくステップして避ける。すぐさま足の追撃がきそうだったから。彼女を見て、しごく自然に、かつ素早く体にタメをつくるな、と感心した。避けた攻撃は連撃の割に、全てに重みが感じられた。魔法での補助がなくともそれなりに破壊力がありそうだ。基本がある動き。
しかしやりづらい。殺さない戦いというものにほとんど経験がないせいで、仕留められそうな攻撃の筋は見いだせても、寸止めの技術がないので実行はできない。そして中途半端な攻撃はこちらの命取りにしかならない。意外と詰んでいるのかも。
何度か攻撃を躱したところで彼女の動きが止まった。
「やる気ある?」
「あるけど、手を出しづらくて。仕方がないから息が乱れるまで待とうかと」
確実にこちらが先に息切れするだろうけど。実はそんなに体力はない。狩りで自然と身についたものだけなのだ。八百長とは言え、スラムの賭け試合でこうした戦いに慣れている彼女の方が何倍ももつだろう。
「舐められてんのかな」
「そういうつもりじゃないけど、私は殺し方しか知らないから」
「やっぱり舐めてんのか。……それでいいよ。じゃなきゃ相手を頼んだ意味がないから」
ちょっと言い方を間違えてしまった。しかし、言われたからには応えなければいけない。少し気が重たくなる。
「それじゃあ、いきます」
行くとは言ったが、先にメルディメルが突っ込んできた。マフス君が言っていた通り、やる前にやられそうだと思わせる勢いだ。なおこの模擬戦は、模擬戦にあるまじき何でも有りの実戦重視。だから、先程まで荒々しくともキレイに戦っていたメルディメルが足元を蹴り上げて土砂を飛ばし、視界を潰しにくるのも何もおかしくはない。……私にはあまり意味がないが。
あの人形は戦闘技術に特に優れていたわけではなかった。体つき、肉つきが悪くあの施設の中では貧弱なほう。それがなぜずっと生き残っていたか、一番戦績が良かったかというと、異様なほどに勘が優れていたからだ。これをすれば殺せる。これをしなければ殺されるといったようなことがどんな時でも自然と頭に浮かび実行されるオートマータ。その超常的な勘は例えば朝起きた時に、今日の朝御飯には毒が盛られる、などといったことが予兆がなくともわかってしまうほど不可思議だった。戦いの最中にしてもそう。死に直結しなくとも、危険と安全のラインがわかる。回避不可能な攻撃でなければ絶対に当たらないし、全く殺せる筋がない状況などそうそうありはしないので、いつも一瞬でやるべきことを済ませる。あるいは勘とは、経験からくる無意識の判断だと言えるのかもしれないが、それでは最初からそうした勘が働いていたあの人形を説明できない。まあ、その人形と比べて勘も大分衰えてはいるのだけど。
ともかく、たとえ目を守るために腕で視界を遮ろうと彼女の攻撃は勘で躱せるし、一撃入れることもできるだろう。
目を覆ったまま、繰り出された回転蹴りをかいくぐり、もう守る必要がなくなった目を覆う腕をそのまま彼女の首元に伸ばす。焦った表情を見せつつも、彼女はそれを遮るのではなく、回転蹴りの勢いも使って体を後方に倒しつつ胴を横に捻り、こちらの後頭部にフックを入れようとする。受ければ死ぬとわかった。模擬戦ってなんだっけ。
しかし、もう遅い。作り出した木の枝を捨て、首根っこを捕まえたまま体を限界まで密着させ、倒れかけの彼女を一度下から押し上げるようにしてから倒してしまう。彼女の喉が何か音を出そうと震えるが、押しつぶすように一緒に倒れ込む。これでおしまいかと思って顔を上げた。……危ない。これでも諦めなかったメルディメルは向き合った私の目を狙って唾を飛ばしてきたのだ。諦めが悪すぎる。咄嗟に目を瞑ったが、引き剥がされてしまった。そしてお互い離れて立ち上がる。仕切り直しだ。……模擬戦ってなんだったっけ。
「これは……」
「あっはっは」
ジェニーラウラさんは明らかに腰が引けているし、レニーなんかメルディメルが唾を飛ばしたあたりから笑いが止まっていない。
「これ、決着つくの?」
ちょっとどうすればいいのかわからない。
「終わったと思って隙を見せたのが悪いよ。スラムの試合だってこのくらいは心得てる」
咳をして喉の調子を戻した彼女の言い分は、どうなのだろう。それはむしろスラムの八百長試合だからこそじゃないだろうか。
「決着つけたかったらジャッジが終わらせるまでやんな。……頼むよ? ジャッジ」
結局、勝つには勝ったが心身ともにボロボロだ。メルディメルの攻撃自体は受けなかったが、お互い揉みくちゃにはなった。正直言って、一昨日の野盗を殲滅した時より疲れた。
「はあ……。まさか一回も当てられないなんて思わなかった。ちょっと自信なくすね」
すっきりした表情で軽やかに笑う。メルディメルは先日の旅路で話した時にも感じていたが、最初の印象よりはさっぱりした性格のようだ。戦い方は非常に粘り強く狡猾で荒々しいが。
「どうしましょうか……。私は流石に今のような戦いはできません」
「する必要はないと思うよ。それぞれに合った技術で戦えばいい。……死なないようにね」
ジェニーラウラさんはレニーの言葉にかぶりを振る。
「私、魔法で攻撃してからでないと攻めの筋を立てられないんです。前衛として致命的なのはわかっています。お二人のようには出来ないと言いましたが、出来るようにはなりたいです」
「ちょっと疲れたから、もう模擬戦はしたくないんだけど……」
顔も洗いたい。それに、殺してはいけない戦いがこれほどまでに神経を使うとは思わなかった。
「じゃあ、僕が代わりを務めようか? あの二人のような戦い方と違って僕は守備に重きを置いてるんだけど、それでもよければ」
「お願いします!」
「またすぐ始めるの? ちょっと顔洗ってきてからでいい?」
ジャッジをしなければいけないけど、少し待ってもらった。
「あ、ごめん」
ずっと倒れたままのメルディメルから謝罪された。
そもそもジェニーラウラさんの初撃には敵を倒そうという意思が見受けられない。鍛錬したいと言っていた通り、待ち受けるレニーに対し魔法を使わずに攻撃を開始する。が、遠すぎる間合いからの突きや、受けに来る相手の得物や振るう腕を狙うような、……悪く言えば腰の引けた攻撃しかしていないのだ。一応戦略として見られなくもないが、少なくとも対峙しているレニーを崩せていない以上駄目だ。おそらくこれは心の問題なのだろう。
「このままじゃ訓練にもならないね。一回魔法から使って攻めてみてよ」
踏み込みが足りん! などと言うこともできるのだろうが、レニーは問題点を正確に洗い出そうとしているのかもしれない。
「……すみません」
悄気込んでしまった。あはは、とレニーが困ったように少し笑い、すぐに表情を引き締めた。
仕切り直して再度ジェニーラウラさんが攻める。歩いて近づきながら三つの火球を同時に飛ばす。至近距離からの魔法で三点攻撃は殺意があると言ってもよい。まあ、こっちは相手を信頼してのことと言えるかもしれないけど。
うちの国で騎士になるのにはいくつか条件がある。そのうちの一つが火球を放つ魔法を回避せず防げるようになることだ。盾で防ぐ、魔法で相殺する。主にそのどちらかで対処することになる。個人差はあるものの、戦場に出てくる者の火球はだいたい直径50cmはあると言っていい。それが魔法を使わず全速力で走る大人よりは速く迫る。訓練をしていなければ上手くは往なせない。そしてレニーはできるそうだ。やっているのを見たことはないけど。
レニーが半身になり、左手に持つ盾で上手いこと自分の体を守った。同時に三つも放たれれば盾を壁として使用するしかない。セオリーでは殴りつけて防ぐそうだが、それでは盾の面積が足りないからだ。私なら回避するしかないが、レニーは防御、相殺、回避のどれもできるのだろう。彼の師匠は全部できるように仕込んだそうだから。
魔法を放つと同時に一気に踏み込んだジェニーラウラさんは爆炎に紛れてレニーの構える盾の真横に剣を突き入れる。宣言通り、魔法からならきちんと攻められるようだ。ちゃんと仕留めようとしている。しかしレニーも盾と剣でその突きを押しのけながら踏み込み、彼女にシールドバッシュを見舞う。レニーはメルディメルと比べてタメをつくるのが下手だが、それを補えるほど魔法での動作補助が上手い。彼女は後ろに下がって避けようとするも、喰らってよろけ、剣を向けられて終了。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました。……ううん。近接戦闘が苦手なんじゃなくて近接攻撃から入るのだけが苦手なのか? 言ってた通りだけど、なんでだろう? 自分で理由はわかってるのかい?」
「負けてしまいましたが、得意なんです。魔法からのコンビネーションが。昔師匠に褒められて、それでずっとこだわってきたので他のやり方に自信が持てなくて……」
負けようが、失敗しようが得意だと言えてしまうのはすごい。心の持ちようとしては有りなのかもしれないけど、口に出すのには勇気がいるだろう。
「それは慣れの問題? 技術的な問題? それともこだわりが邪魔しているだけかい? ……全部が相互作用しているのかな」
「……そうですね。全てそうだと感じています」
「はっきり言うと、僕は今のままでもいいと思うよ。……方向性はね。いろんな戦い方ができても、一度に全てを実行することはできないからね。それなら得意な戦法を磨き上げた方が勝てるし、結果として生き残れる。……これは師匠の受け売りだけど。それよりはそれぞれの行動の精度が問題に感じたかな」
求めているものとはちょっと違った意見が返ってきて、彼女はどう思うだろう。
「そうですか。魔法だよりになると魔力切れで危なくなるから、と注意されてきたのですが……」
「それはそうなんだけど、どんな戦法にも弱点はあるから。それは隠すんじゃなくて補わなくちゃいけない。扱う戦法を増やせば、対策しなくてはいけないことも増えるよ? 上手く組み合わせることができるなら話は別だけどね」
「もっとよく考えてみます……」
これは凹ませただけじゃないだろうか。レニーも少し焦ったようだ。
「まあね、うちは傭兵団なんだし、足りない部分は仲間に頼ればいいさ!」
なんという本末転倒か。彼女は今のままでは力不足だと思って不安だから強くなりたいと言っているのに。
「そもそもさ、まずは自分の役割を自覚しなよ」
じっと眺めていたメルディメルが持論を語ろうとする。
「うちは今のところ、デクスがきちんと陣形を組ませてまとまった戦い方をしてるけどさ、そういうことができないときは必ず来るよ。そんでもって、そういう時に役立つのは大体が尖ったやつさ。あたしみたいな攻撃的な奴がいれば切り込み役として充分だろ? あんたは自分から切り込まなきゃいけないのかい? ……あたしがいなかったり一人で行動しなきゃならない時は確かに必要なんだけどさ」
持論を自分から崩した。
「あんまり無責任なことは言えないよ。命が懸かってるから。だから、実戦でも訓練でも私が必要な時は呼んでね」
このくらいでいいのだろうと思う。
「……みなさん、ありがとうございます」
少なくとも笑顔は戻っていた。
作者は高校生の頃に授業で少林寺拳法をやってたくらいしか武道について知りません。専門的な知識があるわけではないので、当然ですが作品内でキャラクターが語っていることは適当です。いい加減という意味で。




