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前回のあらすじ:悪いことをして情報を手に入れてきました。

今回予告:今回は傭兵団の一人をピックアップします。

「ラントさんはそんなことになってたんだ」

 くたくたになって帰ってきたレニーと今日のことについて話をした。本当のことを正直に言ったわけではなく、ラントさんの事情以外は創作話であるが。


「上手くいくといいよね」

 本当に。ややこしい災難を逃れて幸せになってほしいところ。


「こっちは目的を果たせなかったからなあ」

 彼らが確保しようとした少々珍しい狼の毛皮。通常より毛に多くの水分を含んだものなのだが、五十匹近く屠っておいて手に入らなかったそうだ。まあ、通常の毛皮と比べて千倍近い値がつくそうだから、五十匹足らずでは厳しいか。他にもこの依頼を受けている人たちはいるそうだけど、まだ誰も達成できていない。期限まではまだ時間があるので、明日も狩りに行くらしい。


「手が足りないなら手伝うけど」

「……エーナにやりたいことがあるなら邪魔しないように、と思ってたんだけど、今朝の話を聞いた後だと何かさせた方がいい気がしてきたな」

 顎に手を当てて考え始めた。


「はい、これ」

 仕事帰りに見つけて買ったお茶の葉を淹れたカップを差し出す。水出しでもそれなりに香りが出るものらしく、旅先では便利ではないかと思った。今はお湯で淹れたのだが。


「これ、何かの果物? なんだか甘い香りがするね」

「なんて言ったかな。南の大陸の……、ああ、糖黍って野菜? を使ってるんだって」

 自分に淹れたものを一口。……香り以上に甘ったるい。まあ、旅路にはいいだろう。


「ふう……。じゃあ、明日はエーナにも手伝ってもらおうかな」

「うん。ところで今日はどんなふうに狩ってたの?」


 コトレーさんやエリスが火や音を使っておびき寄せたり追い込んだりした狼を、落とし穴を使って捕まえようとしたらしい。昼頃までは上手く誘導できずに、はぐれた数匹を狩ったにすぎず、本格的に獲物を捕らえることができたのはやり方を変えてからなのだそうだ。やり方を変えたといっても追い込みと落とし穴作戦をやめて、単純に気合ではぐれた個体を囲み、殺して捕らえるようにしただけらしいが。


「それって森を燃やさないようにしてたから上手く誘導できなかったんじゃない?」

「うん。コトレーもやりにくくて仕様がないって言ってたよ」

 じゃあ。

「松明でも使えば? 狼の誘導に火が有効なのは確かだし、気をつければ設置してもいい」


 しかし、もし油断して森を全焼させるようなことになれば……。考えたくもない。






 私はある兄妹の近親相姦の結果生まれた子だ。

 祖母が祖父の家庭内暴力から逃げるために、まだ幼かった母を連れて行方を眩ませた。その時、父は祖父の商売に付いて隣国に出かけていたらしく、兄妹が離れ離れとなることに。

 隠れた先では、もともと祖父の秘書をやっていた祖母がその経験とコネを生かして別の商会で在庫管理を手伝っていたそうだ。責任者ではなく、姿を眩ますことを意図したお手伝いさんという立場だったので賃金も仕事ぶりに対して安かった。それでもかくまってもらうのに多大な迷惑をかけたのだと思うし、祖母はかの商会に並ならぬ恩義を感じていて屋敷に戻った後年には必要がなくとも援助をすることがしばしばあった。

 隠れ潜んでいた祖母と母が祖父の元を離れてから五年、夫が死んだことを知った祖母は家に帰った。父や家の使用人たちは二人の帰還を喜んで迎え、家族は元の形に戻ったと思われた。だが、自分だけ取り残されたような思いを抱えて五年間を過ごした父は変質していた。どう変質していたのか。それは彼の行動から推測することしかできないのだが私は興味ない。


 事の起こりは二人が屋敷に戻って一年ほど経った頃、母が失踪したことからだ。まだ十一歳になったばかりの女の子が家でおとなしくしていたはずなのにいつの間にかいなくなっていた。家中をひっくり返す勢いで探し、警邏隊に捜索を頼み、冒険者の宿に依頼を出し、闇ギルドに依頼金まで払って探した。それらは全て父が手配したそうだ。いざという時に頼りがいのある青年に成長した。その時は祖母も騙されていた。

 父の計画が崩れたのは、自らダメ押しのように利用した闇ギルドからの報告書が本人のいない時に届いたせいだった。報告書を受け取った執事が祖母に内容を確認してもらい、祖母は狂乱に飲まれた。意味があるようで無い甲高い叫びが屋敷中をこだまする。あまりの剣幕、騒ぎ、収まらず暴れた時間の長さにより警邏隊が駆けつけて祖母を押さえ込む羽目になったと聞いたくらいだそうだ。それは相当な暴れようだったのだろう。

 祖母を押さえつけたあと、仕方なく執事がその報告書を読み、これまたひっくり返るほどに驚いたと本人は話していた。とにかく一刻も早く報告書の内容の真偽を確かめねばならぬと急いだ。主人である私の父には内緒で。

 執事が使用人数人と警邏隊を連れて、ある高級娼館に押し入ると客が入れない奥の部屋で私の母を見つけた。父は娼婦に会う振りをして母を抱いていたのだ。つまり、自分の妹を。

 報告書に書かれていたことは本当だった。父の大胆で杜撰な手口による家庭内誘拐。身内で熱心に捜索していることが隠れ蓑になっていたそうだ。闇ギルドは怪しげな呪法を用いて一部始終を解き明かしたらしい。追加で、それこそ小さな国の国家予算に匹敵しそうな金額を必要経費として要求された。

 さて、父がどういった処罰を受けたのかは知らないが、うちの商会に父はおらず、負債を抱えてもいない。具体的な処遇について聞いても口をつぐむ人ばかりで本当によろしいことだ。


 父が屋敷からいなくなってまもなく、母が妊娠していることがわかった。私がお腹の中にいたのだ。母は口が聞けなくなっていたが、産みたいとはっきり意志を示したらしい。祖母も数日ごとに思い出したかのように癇癪をおこすようになった。それはずっと治らずにいて、癇癪の度に古株の使用人たちがいたたまれないといった表情を見せる。私はそれがたまらなく嫌だった。そのあとに自分が責められるから。

 商売自体はまともな時の祖母と、母の夫が立て直した。特に祖母の交友関係が果たした役目は大きい。商売人を揶揄する言葉はたくさんあるが、実際にはそう捨てたものではなかったようだ。

 私が生まれた時には十二歳になった母に夫ができていた。商売を学ぶために商会に預けられていた貴族の子が弟を紹介したそうだ。九歳の子供を。

こうして少しずつ再生しようとしていく家族と商会。当然ながら全て恙無くとはいかない。母の受けた心の傷。十二歳の妻と九歳の夫という、不祥事対策で宛てがっただけの夫婦。数日ごとに癇癪を起こす祖母。そして、最も歪みの象徴的存在である私に憤りの矛先が向けられる。


 家内で私に対する反応はだいたい二分される。同情か無視だ。どちらも不快ではあるけども、特に同情の視線には殺意すら覚える。幼い頃には訳も分からず泣きつかれたこともある。勝手な憶測で可哀相な子に仕立て上げられたのだ。無視については問題ない。いないように扱われても、例えば食事は自分で作ればいい。自分のことは自分でなんでもする癖がついたので、むしろ感謝してもいい。無視、というより嫌がらせも度を過ぎればいなくなるのだから問題はなかった。


 反応が違うのは母、祖母、執事の三人。

母はいつも私に申し訳なさそうな目を向ける。ただし、同情してくる使用人とは立場が違うし、そもそも私を哀れんでいるというよりは悔悟の念からくるもので、では母はどうすれば良かったのかなんて私にはわからない。被害者は被害者らしく受け止めるか忘れてしまえばいいのに、とは思うけども。


 祖母は私を無視している。……無視というのは適切ではない。なにせ本当に知覚できていないようなのだから。心が私の存在を認めていないのだ。赤子の頃の私がどんなに近くで泣き喚いていても、彼女は静かにティータイムを楽しむことができていたそうだ。客人に私のことを言及されても、……私にまつわることを言及されても、本当になんのことだかわからないと言って相手を困惑させてしまう。それでも彼女が世間に求められるのは、その珠傷さえなければ優秀な人間だからだ。そして、そうした彼女の性質が私を無視する一派を増長させる。


 執事がいなければこの家は、商会は、ひと月と持たず崩壊していただろう。私のことを感知できなくなっている祖母を、それで良しと家中に認めさせることである程度安定させ、商会の舵取りを十全に行わせた。結果として商会は立ち直った。私という不祥事に対応するため、事情を飲み込んだ上で母と結婚してくれる丁度いい男性を探し出してきた。九歳の男の子では最良の選択とは言えないが、事の発覚から二日で話をまとめた手腕は誰にでも真似が出来るものではない。さらには傷ついた母や祖母、本来無関係である母の夫に歪みを見出させぬよう、使用人やこの家族、親族たちに私を悪役としてプロデュースしてみせた。きつい口調で厳しく慇懃に接し、私への態度としてあるべき姿を刷り込ませた。執事は母、祖母、母の夫、私の四人全員が救われる道はないと判断したのだ。いなくなった父を悪役にしたところで効果は薄い。誰かを犠牲にしなければ四人とも取り返しのつかないところへ落ち込んでしまう。そう考えた。母は被害者でしかないし、これまで成長を見守ってきた相手だ。まず除外される。祖母は商会を立て直すのに必要不可欠。母の夫は貴族の子で、自分たちが必要だからと彼を貰い受けた立場だ。それらに対して私は生まれたばかりなので扱いやすい。そういう判断だった。

 当然、彼は私がその役割を自覚し、努め果たせるよう熱心に教育した。

 私が敵だらけのこの家で生きていけるよう、一人で生きる術として一般教養や家事全般、護身術を身につけさせた。泣かないこと、常に微笑んで本心を隠し続けることを強要し、失敗すれば折檻した。そして私の怒りが執事自身に向くよう自身の所業の意図するところを語った。

 最もおぞましいのは、その上で私の愛情への飢えをこの家に向け、求めさせようと腐心し続けたことだ。私が悪役として求められているのは存在し続けること。勝手に絶望して自殺してもらったり、見限って家を出て行ってもらっては困ったことになる。よって私は、家族が団欒する様を近くでじっと見続けたあとに食事ができる。執事の許可を得れば家族に話しかけることができる。何か必要なものがあれば家族のものを借りることができる。毎朝家族に「おはようございます」と挨拶することができる。

 この、およそまともな教育とは呼べぬものを一切手を抜くことなく行い続けた結果が今の私だ。


 そんな歪んだものがいつまでも続くはずがない。執事は全て御しきるつもりだったのだろうが、失敗したのだ。私は外の世界に出て行ってしまった。


 例の事件は忘れられずとも思い出されることが少なくなって、危機を乗り越えて強く成長した商会とのつながりを求めるものが出てきたのだ。母には新しい子供ができなかったので、私に婿を取らせて商会の代表としなければならない。二つの思惑が噛み合ったので十五になった私にポツポツと見合いの話が来るようになる。

 そして宛てがわれた男が私を連れ出したのだ。最初は商会の代表の座と、その財力が目当てだったくせに、いざ結婚前に見合いをすると私に惚れただのなんだの言って。執事が必死に止めるのも無下にして、私を新婚旅行と嘯いて連れ出した。……執事は気づいていた。自分の教育の中でも、この家に愛情を求めさせることに失敗していることを。無理矢理にでも止めようと、男の手配した馬車を襲わせまでしたにも関わらず、私たちを捉えることに失敗した。落ち目というやつだったのだろう。男は執事の不穏当な気配を怪しんで、囮も手配していたのだった。


 そして私は自由を得た。私を執事の目が届かない場所まで連れ出してくれた男に感謝しながら、魔法で生み出した氷の刃をその胸に差し込んで殺した。急いで馭者も同じように殺し、血だらけになった服を脱ぎ捨てて、代わりに彼の来ていた服を着込んでその場を後にする。

 隣街まで着くのを待った甲斐あって追手も撒けるだろう。夜の暗さに紛れて隣街からも抜け出したとき、自由になったことを実感した。大声で泣きたくなったのをこらえて近くの林まで駆け、そこでようやく自分を開放して叫んだ。


「やった! やった! ついにやった! うわああああ!!!」


 うまく笑えているのかどうかはわからないけど、ともかく今まで感じたことのない高揚感に満たされている。

 これから私は生まれ変わるんだ。ひとしきり叫んだあと、そう決意する。まずは遠くに行こう。もうあの商会の名が届かないような遠くへ行こう。これからはきっと楽しくなる。あの時はそんな確信があった。


 それから東に歩みを進めて、道すがら追い剥ぎやキャラバンの護衛をして小金を稼ぎながら港町へ向かった。それまでに貯めた金で海を渡り、渡った先で野盗をやっていたら近くで戦争が起こったので傭兵として参加し、レニーたちと出会った。野盗をやっていた経験でわかる。相手にしてはいけない人間の匂い。こいつについていけば良い目を見れそうだと思って、今後もよろしくと頼んでみたらまんざらでもないようだった。

 それから半年も待たされることになるとは思わなかった。予定と違ってきて懐が寂しくなると、また追い剥ぎでもやり始めようかとも考えたがやめておいた。野盗の類が多くなっているこの時期では獲物も警戒していてやりづらい。今は雌伏の時だろうと、さもしい思いを我慢する。


 そして出会ったのが彼女だ。レニー団長の連れてきた女。私と同類に違いない!

 直感でしかないが、人から奪うことも人を殺すことも何の感慨もなくやってしまうクズの匂いがする。

一時期仲間だった野盗の連中だって、なんだかんだ言いながら奪うことや殺すことを悪いことだとは思っていた。私は違う。そんなのは全て個性の問題だ。人は生まれからして平等ではない。親の身分、環境、身体、土地、格差がある。幸せになりたければ何をしたって構わない。もともと平等ではないのだからこそ個性で生き残らなければならないのだ。殺せること、奪えることは個性でしかない。みんな幸せになるなんてありえない。だって、人の不幸を土台にしてしか幸せになれない人間は一定数いるのだから。これを悪いことだとするのは、殺せず奪えない人間の戦略でしかない。

 彼女も私と同じ考えをしているに違いない。友情でも恋愛でも、私は今まで自分以外の誰かを好ましく思うことはなかった。自慰をする時だって誰かを思い浮かべることはない。ただ刺激を楽しむだけでよかった。でもこれからは違う。私はきっと彼女のことを思い浮かべる。私が今まで誰も好きにならなかったのは、きっと同族と出会わなかったからに違いない。種族が違うのにつがいにはなれないから。性別の問題なんて大したことではない。でも……。



 狼狩り二日目。新たにあの娘を入れての再挑戦となる。

 期日が近づいてきたからか、森には昨日より武装した人間の数が多かった。あれでは狼たちも警戒して、この森を離れるような大移動を行うかもしれない。


「……来たぞ!」

 離れたところにいるウィーが大手を振ってこちらに合図を送っている。


 昨日の失敗もあって、今日は事前にこの森に詳しい人から話を聞いてきたそうで、あの娘の提案と合わせて順調に狼の群れを追い込めている。誘導も放火魔一人に任せることになったので運動量が減って楽だ。穴を掘って松明を設置している間、あの娘はずっと森が焼けないかを心配していたが、むしろ放火魔あたりはそれを期待しているようで、デクスや団長、あの娘の三人に白い目で見られていた。


「説明したとおり、まだ絶対に囲いを解くなよ!」

 デクスの掛け声が大きく響く。あいつは団長より団長らしいな。


 やがて炎の道に導かれてやってきた狼たちと対峙した。四、五十匹はいる。目当ての狼は少し太って見えるらしいが、気になるやつは見当たらない。無駄手間かもしれないと思うと構えた剣が重たく感じる。


「緊張してるの?」

 私の怠惰を見て勘違いしたのか、あの娘が窺うように声をかけてきた。

「大丈夫だよー。ちょっと面倒くさいなーって」

 ああ、この娘は私のことに気づいているんだろうか。ここに同族がいることに。……気づいていればもっと違う今を過ごしているはずだ。


「それじゃあ、行きます」

 あの娘が狼の群体に向かって突貫する。早速の作戦無視だ。


 誘い込んだ先で包囲する私たちの背後には落とし穴が掘ってある。直接落とし穴に誘い込んでも落ちるのは最初の数匹だけで、あとは避けてしまうらしい。なのでまず私たちが相手をして、なるべく自然な形で位置を入れ替える。そして落とし穴に追い落とすのが作戦だ。炎の道もその奥へ続いていて、逃げ場はそこにしか無いように見えるだろう。


「続きますぜ! 姐さん!」

 馬鹿が。マフスも釣られて作戦無視だ。


「お前ら待て!」

 デクスの悲鳴に合わせたようなタイミングであの娘は突出した一匹の首をショートソードで跳ね上げるようにかっ飛ばした。かっこいい。


「うお、奥方つええな」

「……印象と違う」

 ウィーとメルメル呼びを嫌がった二人が呟いた。人を見る目がないやつらだ。


「すみません! 戻ります!」

 作戦を無視した割にはすぐに戻ってくるつもりようだ。


 しかし仲間がやられたことでできた隙を逃すまいとあの娘に襲いかかる個体が三匹、それと同時に他の狼たちがあの娘を囲もうと縦列になって回り込む。あの娘はまず牙をむき出しに飛びかかってきた一匹の頭を素早く腕を伸ばして掴むと同時に握り砕いた。間断無く同じように飛びかかってくる二匹のうち、正面から来る個体の腹を喧嘩キックで止めて、もう一匹にはショートソードを噛ませて振り回す。

 剣と一緒に振り回された個体は勢いに乗って飛び退いて、腹を蹴り止められた個体はその場に落ちてからすぐにあの娘の足を狙って低く飛びかかる。私が見えたのはここまで。一緒に突貫した馬鹿ことマフスとあの娘が回り込んだ狼たちに囲まれてのんきに見ていられなくなった。


「背中を合わせて頑張れ!」

 団長の応援が向こうの二人に向けられる。


「作戦は狂っちまったが、とりあえずはあっちの二人と合流できるように急ぎましょうぜ」

 言葉の割にはウィーの別段慌てていない様子を見てさらに苛立つデクス。デクスは指揮官としての能力の割に胆力が無いな。


「錐形に並んで突破しましょう! いいですね団長!?」

「ああ。……俺が中心に行く! ついてこい!」



 私は団長の一つ右後ろについて、団長を右から襲おうとする狼を丁寧に処理していた。だが、想像以上に狼の連携が手ごわい。狼の数は順調に減っているのに、役割は果たしつつも自分の身を守りきれなくなりつつあった。


「……あっ」

 時間差攻撃を仕掛けられた。これは腕が……。


「よっと!」

 目の前まできていた狼が横っ腹を突き刺され、力を急激に失って崩れ落ちる。団長に助けられてしまった。


「……大丈夫か? エリス」

 狼は全て倒したようだ。

「はい。ありがとうございます」

 振り返ると落とし穴のいくつかが露出していた。逃げようとして落ちた個体もいるのだろう。呻いてるようなやつもいないし、こちら側はみんな無事なようだった。


「みなさんすみません。……守る必要がないことだけ示して引こうと思っていたのですが、失敗しました」

 こちらに近づいてきたあの娘は服こそボロボロになっているものの、肌の見える部分には返り血だけで傷なんか追ってなさそうだ。


「うぐっ!」

 団長が頭を下げたあの娘に近寄って拳骨を落とした。


「勝手なことをするな! 手伝うどころか邪魔だったじゃないか!」

 先程応援していた時とは大違いだ。戦時にも、ああして怒鳴ったとこなど見なかったけど、結構迫力がある。

「おお、怖ええ」

 ウィーは笑いながら見つめている。


「……どうしたんですか?」

 放火魔が歩いて戻ってきた。のんきなやつだ。


「エーナさんが事前の作戦を無視して行動したんです。そのせいで少し危なくなりました」

 元貴族の、……なんとかさんが困ったような表情で答えた。


「……俺、姐さんには逆らわねえことに決めた」

「あんたもまず命令に逆らわないことを覚えな」

 あの娘と一緒に戦っていたマフスがのっぺりとした顔で誰にともなくつぶやいたのをメルディメルが突っ込んだ。あの二人はなんだかんだいって仲良しだ。同じスラム街出身どうし、やはり同族相手が一番だと思う。……ああ、もしかしたら父もこんなふうに考えたのかもしれない。


「みなさん、本当に申しわけありませんでした。次はこんなことが無いようにします」

 いろいろと怒られていたあの娘がもう一度はっきりとした声で謝罪した。


「……お前ら、仕留めた獲物を集めるぞ。マフス、荷台の移動を頼む」




「一度失った信用を取り戻すのは難しい」

「けど無理じゃないんでしょ」

 仕留めた狼を集める最中、近くで作業していた二人の会話が聞こえる。


「第一、俺だってこうなることは予想できてたはずなんだ。エーナは団体行動が苦手で勝手をやらずにはいられないって、知ってたはずなのに」

「それは人の責まで背負い込みすぎ、でもないのかな。リーダーってそういうものらしいね」

「……でも、怪我がなくてよかったよ」

「ごめん」


 人の主義に口を出す気はないが、あの娘を誘導するのはやめてほしい。やっぱり、団長は邪魔だな。


いろいろと考えた結果、このお話は今の路線のままでやっていこうと決めました。

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