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前回までのあらすじ:村から旅立つ前の最後のひととき。

今回予告:エーナとレニーの二人が傭兵団を結成するため、首都へ向かって旅立ちます。

 早朝ゆえに、稽古場には他の弟子はおらず師と自分だけ。


「心は決まったか?」

 フリック師の問いに答える言葉はすでにある。


「決まっています」

 沈黙に先を促され。

「以前に教えていただきましたね。相手の大切にしているものを、同じように大切にしてこそ相手を守れると」


 満足げに頷く師を見て、おのれの為すべきところをあらためて思う。瞼の裏には十年前に丘から見た夕陽と彼女の姿。最初はただの意地だった。


 日が経つにつれ遠い道だとわかったが、必ずやり遂げる。






 まだ朝霧が濃い時間。レニー青年が褒賞で買った大きめの荷馬車を街道に向けた。

 見送りには村の多くの人が出てきてくれている。人口が百人にぎりぎり届かない村で、三十人近い人間が朝っぱらからぞろぞろと集まってきてくれているのだ。


「それでは皆さん、行ってきます」

 着飾ったレニー青年が別れの挨拶をし、いよいよ出発。

 頑張れよー! 死ぬなよ! 嫁さん泣かすなー! などと声援を受けながら、レニー青年が馬車を引き始める。目的地は首都ガウス。レニー青年について行きたいという傭兵のみなさんと合流し、仕事を求めて南の大陸に旅立つのだ。


「レニー君、エーナを頼みます」

 私のことを頼むという母の声は、強く胸を締め付ける。もう会えないというわけではないが、別れは辛い。

「必ず」

 御者台を降りて応えるレニー青年の声も要領を得ない返事ではあるが、せまる。頷く母から溢れる笑顔を見るに、彼の想いは伝わったようだ。


 街道に出てすぐに後ろを見ると涙が見えた。




 着いた。丸二日間の道中を初々しく過ごし、襲ってきた野盗からレニーが巻き上げた金品を換金。図らずして大金を手に入れた。なお、襲ってきた野盗たちは縛り上げる縄がなかったためお亡くなりに。イントネーションなどから察するに、彼らは先の戦争で敗北した国の出なのだろう。いろいろと運が悪い。


「この辺りのはずなんだけど」

 レニーは傭兵たちと待ち合わせている酒場を探すために賑わう通りをきょろきょろと見渡しながら歩く。私としても、この田舎者の隣を歩くのは少々恥ずかしい。しかもその辺の人に場所を聞いてもなぜかその酒場を知らない人ばかり引き当てる。五人目に、悪いけど他を当たるよう言われた頃には、むしろ面白くなって私は目的の酒場を見つけたことを黙っていることにしてみた。迷い人レニーは背中が小さい。だが。


「おっと、それは返してくれ」

 さすがに財布をすられたことにはレニーも気がついた。彼も武芸者たるもの、それくらいはね。


「ふんっ」

 しかし声をかけただけでスリが諦めるはずもなく、レニーは小器用に人の間を抜けて走り去る小さな子供を間抜けな顔して見送ってしまった。


「え……」

「そりゃあそうなるでしょう。捕まったらひどい目に会うのは確実だもん。むしろあんたはなんで声をかけたら返してくれると思ったの?」

 ぽかんと口を開けた間抜け顔をこちらに向けたレニー。


「もうあの財布は帰ってこないよ。お金はちゃんと分けて持ってる? あれに全部まとめてたりしないよね?」

 間抜け顔がひきつる。さすが、支え甲斐があるというか。


「ごめん」

「謝んなくていいよ。私もわざと見逃したから」

 レニーに見せ場が必要かと思って。傭兵連中に会う前にスリを捕まえておけば、それもまた実力を示す証拠となる。ストリートチルドレンはずる賢くすばしっこい。仕事中の彼らを捕まえるのは至難の業だ。


「わざとって……」

 目を見開くのも無視し、流石にこれ以上の失態は晒させられないので酒場を指差す。グレートソード亭。その名の通り、店の看板代わりか、柱かと見まごうばかりのグレートソードがこれまた巨大な衝立に立てかけてある。こんな目立つ店を知らない人ばかりに声をかけてしまう運のなさも、見逃してしまうレニーの視野狭窄っぷりも、今後を不安にさせる。


「店名の時点でわかっていたけど、主人の好き物っぷりが楽しみね」

 道を少しだけ戻り、店の前へ。いつの間にかレニーが私の後ろにつく形になっている。これではいけない。彼が主役だ。後ろを見やり先に入るよう促す。


 うん。と頷き、レニーが扉を開けるとからこんからこん鐘がなり、がやがやうるさい声と、酒と油っぽい食い物の匂いが漏れてくる。店主らしき偉丈夫が店に入るこちらに気づいた。

 レニーがカウンターに向かう。


「レニー・アルクスです。デクスという名で個室を借りている団体があるはずなんですが」

 ただのレニーに後ろが付いたのはつい先日の話。レニーの師匠が箔をつける意味でも家名を持っておけと言って、送った名だそうだ。今では私もただのエーナ、あるいはトロウス村のエーナからエーナ・アルクスに。


「ああ、あんたが噂の。しかしまあ、若いねえ。俺があんたくらいの頃はまだバスタードソードを使っていたなあ」

 いきなり始まった語りの内容は、流石だと言えよう。


「おっと、あいつら首を長くして待ってたからな……。二階の部屋がそうだ。早く行ってやんな」

「ありがとう」


 カウンターの奥の階段を上がる。二階も下ほどではないが騒がしい気配がしていたが、階段を上がりきる頃にはしんと静まった。さて。


「そう緊張することはないでしょ」

先を行くレニーがこちらを見たので、小声で返す。

 階段を上がった先、扉の向こうが何を企んでいるにせよ。まあ、悪意は感じないのだから問題ないはず。


「こんにちは。レニー・アルクスです」

 扉を開けて彼が中に入ると、その後ろに控える私に視線が集まった。そこそこ外連味がある視線で、なかなかにむずがゆい。

視線からつらつらと考えるに、階段を上がる途中で静かになったのは気配が二つあったからだろう。レニーは最後まで私を妻として連れて行くか仲間として連れて行くか迷っていた。私は彼に世話になる立場なので、彼自身がやりやすいようにしてくれと言った。結果、妻としてついて行くことになり、そのように振舞っている。しかし、答えが出るまで私の存在を部下になる彼らにも伝えなかったのが災いして。


「やあ、団長お久しぶり。まさか結成に半年もかかるなんて思わなかったな」

 ところで後ろの女性はどなた? と続けた二十代前半くらいに見える男性。傭兵らしく戦うために鍛えられた体つきをしている。彼の視線も例に漏れず不信感を漂わせている。彼がデクスさんかな。


「先日、レニー・アルクスの妻になりました。エーナと申します。夫婦共々、よろしくお願いいたします」

 私はレニー青年が答えようとするより早く前に出て答えた。一礼し、笑顔を向ける。


「おお! よろしく、エーナさん!……大将あんた結婚してたのか!」

 部屋の奥にだべって仲間とカードゲームで遊んでいる一人から。多分レニーや私より若い。


「マフスだ。よろしく、姐さん!」

 威勢がいいな。

「こちらこそ、夫ともどもよろしくお願いします」

差し出された手を握り、なるべくおしとやかに返す。できたかな。

 手を握ってわかったが、姿勢の悪さのわりには体幹ができていそうな感じだ。将来有望かな。


 マフス君と挨拶したのが皮切りになって、部屋にいた十数人が次々に押し寄せてきた。時々レニーが寂しげにしていたが、それは私に戦友を取られたからであろう。半年ぶりに会う戦友が見向きもしてくれなくてしゅんとしている。と、最初に声をかけた二十代前半の男性がレニーをあやしに行った。



 昼前に来たはずなのにお互いの自己紹介だけで日が暮れ始めていた。

「明日は傭兵団として最初の仕事だ」

 二十代前半に見える男性、デクスさんがこの傭兵団で最年長だった。職業戦士としては肉体的に陰りが見え始める二十七歳だとのこと。戦士のくせに肌にツヤがあるし、案外若作りだ。


「共に戦うのが初めての方もいらっしゃいますね。僕のことを期待はずれだと思ったらそこで抜けていただいてかまいません。」

 ここに集まった面々は去年の戦火をレニーと共に戦った人たちと、その後噂を聞いて集まった人たちをデクスさんが選別したメンバーになるらしい。

私が話を聞いた限りではレニーと会うのが初めてなのは三人。勘当された元男爵令嬢のジェニーラウラさん。デクスさんが誘った寡黙な青年のアルヴェドさん。スラムで八百長賭け試合をして稼いでいたメルディメル。個性豊か。


「うちの賭場さ、元締めが間抜けだったから国に目ぇ付けられてみんなひどい目にあったんだよね」

 誰にともないように呟いたメルディメルからは、間抜けには付いてかないよ、と言葉にならずとも伝わる鋭い視線がレニーに。まるで蛇のようだ。お話しした感じでも彼女は我が強そうで、他の二人はともかく彼女だけはレニー次第では簡単に去っていってしまいそう。そうなると私を含め、この場にいる十人のうち四人しかいない女の子が九人中三人になってさらに比率が下がる。それは悲しい。彼女を見つめる。気付いて顔を逸らされた。


「ギラギラしてんなあ」

「あっは! ヌルイままごとをやるよりは楽しいだろう?」

 マフス君がからかうような声色には軽口で返す。メルディメルは14という年齢の割に余裕があるなあ。スラム育ちゆえなんだろうか。


「お前ら、喧嘩はするなよ? この店に迷惑かけたら面倒だ」

 デクスさんは真面目な人だ。だが、性格ゆえというよりは本気でまずいと考えていそうな物々しさがある。それは、あのいかにも歴戦といった風情のマスターを思い出せば納得もいく。


「俺はメルに手ぇ出したりしませんよ? そこまで命知らずじゃねえっす」

 マフス君はメルディメルがスラムの賭場でどれほどだったかをまるで自慢話のように語りだそうになって、メルディメルが彼の頭をガツンとやって止めた。こんなじゃれあいをするくらいだから二人は仲がいいのだろう。


「メルディはどういうリーダーなら納得する?」

 レニー青年が不敵な笑みを浮かべて問う。これは知らない一面を見た。


「あんたさ、それをあたしに頼ってどうすんの」

 彼女の表情に少し険が立つ。苛立たせてしまったな。


「頼るわけじゃない。僕はできることしかやらない。……この程度の人数を束ねるくらいわけないさ」

 聞いたのはただの興味だ。と続け、じっと待つレニー。


「話に聞いてたよりは面白そうなやつだね、あんた。……変人って意味だよ?」

 なんだろう。こんなので打ち解けるとは考えられないのに少し険が取れてきた。単に呆れられただけかもしれないけど。


「メルメルは変人さんが好きなんだ?」

 と、そこに間髪入れず、この場で最後の女の子のエリスが口を挟む。

「好きじゃねえ。ケツまくって逃げたあの元締めよりはマシそうだと思っただけだ」

 あとメルメルって言うな、と噛み付くように首を回し彼女はエリスを威嚇するも、当のエリスは雰囲気にそぐわないあどけない笑顔。私やレニーと同い年というのだからおそらくわざとだろう。これは強い。


「……まあ、なんだ。あたしはマフスが言うようにあんたが勝てる人間だってんならどこまででもついてくよ」

「勝てる、か……」

 レニーの思案をよそに、若人が集まった中でも特に年若いマフス君、メルディメル、エリスがたわいのない話を。自己紹介だけではわからなかった人間関係が雑談によって少しずつ明らかになっている。


 と、そこで場をまとめるべきレニーが考え込み、3人が騒がしくなったことにより部屋中が勝手に振る舞いはじめたのに業を煮やしたデクスさんが腕を振り上げてバンッと思いきり強くテーブルを叩き鳴らした。それでようやくレニーもみんなもデクスさんの方を見て静まり返る。


「明日はこの店が開く時間に南門の役場前に集合。目的地は目の前の森だから団長の持ってきた馬車は使えん。そのことをよく考えて食料と医薬品以外の必要な物を各自考えて持参するよう。以上」

 はっきりと苛ついている。俺は下で飲む、とアルヴェドさんを伴ってデクスさんは部屋を出て行った。やはり真面目な人だ。傭兵なんてみんないついかなる時でもどんちゃん騒ぎをする隙を窺っているようなものだと思っていたが、そうでもなかった。というより、仕事の話をしようという時に自分勝手を始めるレニーたちがいけないのかもしれないけども。


「ところでみなさんの仕事道具ってどういったものを使っているんですか?」

 私、少し前まで狩人をやっていまして、傭兵の方々がどんな得物を使っているのか少し興味があります。と、悪くなりはじめた空気を払拭すべく空気を読まない質問をする。夫の失態を少しでもフォローしてやろう。あとでデクスさんたちの方にも行かないと。




 レニーと私が取った宿は都市のほど中央に近い場所に位置する少々お高い宿だった。戦争で得た報奨金が結構な額になるため贅沢病発症のレニー。うちの母にも結構なお金を置いていったらしいが。


「あんた戦争中はもっとビシッとしてたらしいじゃない」

 デクスさんから聞いた話によると、半年前共に戦ったレニーは大物感があったらしい。半年ぶりに会ったレニーはあまりにイモっぽすぎて何かあったのかと少し心配されていようだ。表情など引き締まった瞬間はあれど、確かに普段の抜けたところがある坊や顔をしていた。つまり半年前は大分気負っていて、それが周りから良いように解釈されたという話なのだろう。デクスさんの前では決して言わなかったが、彼の心配したレニーは普段のレニーだった。


「あの時は師の名を汚すわけにはいかないと思って……」

「今ならいい?」

「そういうわけじゃないけど、あの時みたいにずっと気を張ってるわけにはいかないから」

 少し株が下がった。つまり。

「それってあの人たちを騙しているようなものじゃないの?」

「それはエーナだって同じだろ? あんなおとなしくしちゃってさ」

 それを言われるとつらい。借りてきた猫みたいとまでは言わないけど……、と喋り続けるレニーをよそに自分を振り返り少し心が痛む。


「そういえばどうして……、ええと、猫かぶってたの?」

「そりゃああんたが嫁の尻に敷かれてそうだなんて思われないように……」


 レニーが少し視線を落とし。

「その配慮が必要ってことはさ、やっぱり俺ってそういうことに……」

 やってしまった。

 フリックという師を得たレニーは心身ともに大きく成長したものの、何故か落ち込みやすい、悲観的になりやすいという特性をいつの間にか獲得していた。元気で後先周りを省みないレニー少年はどこかへ行ってしまったのだ。いや、面影片鱗はたまに垣間見えるけれども。


「や、私はそういうつもりじゃなくて……」

 取り繕うとしたところでコンコンと部屋をノックする音が響いた。パッと顔を引き締めたレニーが戸に向かう。


「どちら様ですか? っと、ジェニーラウラさん? どうしましたか」

「こんばんは。ええと、明日のことについてなんですが」

 入って、とレニーが彼女を促す。


「こっち、座って」

 机もテーブルもないので、入ってきた彼女に手招きしてベッドに腰掛けさせ、水差しから注いで手渡す。水は初夏という季節柄、ぬるい。

「ただの水しかないけど」

「あ、どういたしまして。奥方様」

 お、奥方様とは……。


「そんなにかしこまらないで? 私も慣れない扱いなので困ってしまうわ」

 彼女の出自も考えると当たり障りのない返答をするのに苦労する。昼の自己紹介時もあまり話さなかったので、人となりが分かるまでは迂闊なことを言えない。


「わかりました。ではお名前で呼ばせていただきますね。エーナさん」

 からっとした笑顔がこちらを向く。屈託のない感じを受け、少し安心した。


「ええ。どうぞよろしく。……ジェニーラウラさん、でいいのよね?」

 確か最初の自己紹介で、自分の名前にこだわりがあるからあだ名や愛称などを使わず呼んでほしいといったようなことを言っていた。


「はい。……本当はこの名前、勘当される時にもう名乗るなと言われたんですけどね、腹が立ったのでそのまま使うことにしたんです」

 茶目っ気っぽい笑いに移行した彼女だが、この話題は難しい。


「ということは、僕らの傭兵団に所属することを決めたのは、この国を離れるから、ということもあるのかい?」

「そうです。武術の先生にデクスさんを紹介されて。彼のお話を聞いた時には渡りに船だなあと思いました」

 と、そういった話ではなくて。と前置きを入れた彼女は少しだけ顔が赤い。真面目な人が多いなあ。


「明日、私たちがクローチェ商会からの仕事をやる間、エーナさんはどうされるおつもりなのかと思いまして。狩りをされていたとおっしゃっていましたから、ついてきても大丈夫なようには思います。が、街に残るのであればお一人で過ごされることになりますよね? もしよければ、こういった時に信用して身を預けられる方をご紹介させていたきますが」


 これは善意かな。レニーを狙ってやってきたら変な女がいたからどうにかしてしまおうとか、そういうことではないはず。まあ、でも。

「ありがとうジェニーラウラさん。でも私、調べ物をしようと思ってるから気にしないで?」


「え、そうなの?」

 レニーの方が先に聞いてきた。

「私をそっちの仕事に出す気はないんでしょう? それなら私もやっておきたいことがあるのよ」


 何を? と目で尋ねられる。

「まあ、人探しね」


「もしかして、お父さんのことを?」

レニーは勘違いしてくれた。そのままにしておくほうが便利ではあるかもしれない。


「違う。会っておかなきゃいけない人がいるの。……誰かもわからないんだけど、どんな人かは知ってるから。……煙に巻くようなことしか言えなくてごめん」

 卑怯だ。先に追求を切ってしまうようなことをした。


「もしお一人で探すのなら、危険ではありませんか?」

 腕に自身があるから大丈夫だなどと思っているなら余計に危ないですよ。ガウスは首都なだけあっていろんな場所から人が集まってきて云々。

こういう親切で真面目な人との縁が多いのは本当に恵まれている。


「心配してくれてありがたいのだけど、大丈夫です。知り合いがいるから頼ろうかと思ってるの」

「え、誰?」

「ラントさん。去年は行商に来なかったからこっちまで買い出しに行ったでしょ? その時偶然会ったの」

 毎年春にガウス以北の村々へ行商に来る商人さん。狩りの道具を仕入れたりするからそこそこ会話があり、去年はさらに偶然の邂逅から彼の家に招待されたりもした。

 彼の奥さんは何年も前に病で死んだそうだが、既によそへ出て働き始めたという息子が三人いるらしい。上の二人は才能があったとかで、さる陶芸家に引き取られていったと自慢げに笑っていたのを思い出す。


「お知り合いの方がいらっしゃるのでしたら要らぬ心配でしたね。煩わせてしまってすみませんでした」

「いえ、そんな。頭を下げないでください」

 慌ててしまう。



「ジェニーラウラさん、送っていくよ」

 そろそろお暇しますと立ち上がった彼女にレニーが申し出たところ。彼女は私をちらりと見て困ったような表情をしている。

「ええと、それは流石に申し訳ないので遠慮しておきます。宿もここからすぐ近くにありますから」

 こうした気遣いはありがたいにしても。


「レニー、あんた何かジェニーラウラさんに話したいことがあるんじゃないの?」

彼の手つきにそういう癖が出ていた。


「あれ、わかった? 態度には出してなかったつもりなんだけど」

「癖がね、出てるの」

「えっ! 癖!? どこ!」

 うろたえよる。


「ふふっ。仲がおよろしいですね」

 口に手を当てて笑うこの彼女は、今日出会ってから一番可愛いらしい瞬間。傭兵に転身できたり、こんなふうに笑えるあたり、お貴族様だった頃の彼女もなんだか思い浮かぶ。


「まあそんなわけで、近くといっても危険がないわけではないでしょ? あなたもさっき私に言ってたし。気兼ねすることなくこの人に送られてやって」


 そう言って送り出したところで、ふっ、と一息。なんだかそわそわする。

明日に備えて道具の整理をしようと思うも、送り先が近くらしいし時間が足りないことに気づき、やめる。何か飲み物でも用意しておこうと荷物を漁るも、お茶の葉どころか浸すものが何もない。手持ち無沙汰。

 結局レニーが帰ってくるまで、まごまごと座ったり立ち上がったりしていた。


この話の半分位までは投稿始める前に書いてました。


2015/1/7 傭兵団の人数を下方修正しました。

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