15
前回のあらすじ:テルディーノの家族を連れてセントアルアーナまで逃げました。引き続いて新しい仕事を受けることに。
今回予告:すでに動き始めたセントアルアーナの兵団を追います。その後、独自で共和国のために行動します。
セントアルアーナが集めた兵力はすでに共和国の首都オーべスに向かっていた。他三国も先遣隊を出し始めたようで、それら全てを合わせると一万ほどの軍勢となるそうだ。王国軍の約千三百ではこれらの軍勢が纏まってしまえば太刀打ちできない。そこで合流する前の各軍を各個撃破するべく、まずは高く分厚い防壁のある共和国首都オーべスに向かうのをやめ、最も近いセントアルアーナの国軍とかき集めた傭兵たちの混合二千に立ち向かったようだ。
「そして緒戦で惨敗したと」
王国軍は別段強くなかった。それなのに、1.5倍近い戦力を持っていたにも関わらず負けたのか。後から私たちが合流した兵団には覇気がなかった。
「傭兵たちが正面から相手をしている間に、山を使って回り込んでいたセントアルアーナの国軍が王国軍の本陣を突いたのだが、乱戦中の味方ごと魔法で全てを葬り去ったのだそうだ。そうした戦略級の魔法が使えるような何かが、あちらにはついているということだな」
そう言うテルディーノさんは、合流した傭兵やごく僅かに生き残った国軍から聞き出した話から、少なくとも彼の知る魔法使いの仕業ではないと結論づけていた。戦場にて広範囲を吹き飛ばすことができるような魔法の実力の持ち主は世界にも七人しかおらず、当然無名であるわけがない。顔の広い彼は使われた魔法の規模と種類から考えて、そうした魔法力を持つ人間に心当たりはなかったようだ。となれば相手は人間ではないか、人間だったとしても今まで世に出たことのないような秘蔵の子なのだろうということ。
「人間じゃないっていうと、竜とかモンスターとか?」
モンスターなら先日のトカゲのように、何者かに操られていることになる。竜であれば……。人間が太刀打ちできるものではない。人に協力するような竜は、いいように利用されないだけの力がある竜だ。
例えばレニーが行こうとしていた南の大陸には大国に祀られた火竜がいて、その国を他国の侵略から守っているそうだ。それはただの一息で、魔法使いが使う戦略級の魔法でも傷一つつかないような、人類の英知を結集したいわくつきの城砦を消し飛ばす。此度の戦で使われた魔法より、ずっと強力な破砕を行う隕石を落とす魔法でも傷つかなかったと言われる砦がただ一吹き。といっても、隕石の魔法が使われた砦は周辺の地形を守りつつも、中にいた人間が全員衝撃で潰れていたらしいが。城塞がいくら強かろうと中身を守れず、火竜には何事もなく一撃で消滅させられたいわくつきの砦。……話が逸れた。とにかく竜は人間の手に負えない。攻撃力でも、生命力でも、人間がいくら集まったところでどうにかなるものではないらしい。でもまあ、竜はないだろう。魔法を使ったのが竜ならば、生き残りたちが目にしているはずだ。
「なんにせよ、広範囲に渡り人間の上半身と下半身を真っ二つに裂くことのできる魔法使いが敵にはいる。そしてそれが連発できるほど無茶苦茶な存在ではないということもわかった」
テルディーノさんは言うが、それがわかったところで、そいつを特定して暗殺でもしなければ危なっかしくて軍隊同士の激突はできない。
「戦略級の魔法って、どういうものが使われるかわかっていたら防げるんだよね?」
「そうなの?」
それは知らなかった。というより、戦場での魔法がどのようなものなのかもよくは知らなかったのだが。エリスはレニーたちと戦争を経験しているだけあって、そういうことは一通り知っているようだ。
「手が足りない。魔法使いが十人はいる。しかし、この大陸に魔法使いは十五人いて、戦場に立つことができるのは私を含めて八人だけだ」
「残りの七人はどうしても無理なんですか?」
例の魔法使いにこのまま暴れられ続けると王国軍が各国を下してしまう。
「いろいろと問題があるのだよ。寝たきりの爺婆だったり、犯罪組織の者やテロリストだったり、吸血鬼や王族だったりと、緊急時にすぐさま招集できる者たちではないのだ」
録でもない。いや、王族やお年寄りはともかく、残りはひどい。吸血鬼はところによっては巨大種ではないモンスターの一種だ。
「それじゃあ、どうするんでしょうね?」
こちらは数だけで言えば八倍ほどだったが、各国の思惑が多少なりともあるであろう寄せ集め。それらが戦略級魔法を前に尻込みしてまともに戦えなくなる。アルス某は、ただ無謀な反乱をしたわけではなかったようだ。
「我々が集まればまだ七倍ほどの戦力があることになる。ひとまずは各国の軍と合流して、対策会議になるだろうな」
それでは後手後手だ。
「……名声は得られないだろうけど、ゲリラ戦法で削り切りましょうか? 毎晩四、五十人ずつ殺していけば一月かかりませんよ。統治に必要な人数を考えれば、途中で諦めざるを得なくなるだろうし」
小声で言ってみた。名声どころか卑怯な戦法だが、私が雇われた分活躍しようと思えば、こういう方向性にならざるをえない。
「それで王国軍に破れかぶれになられても困る」
できないとは思わないんだ。確かに強力な魔法を使う何かを暴走させた場合を考えると迂闊には追い詰められない。
「ところであたしたちってこれからどうするの? 正規軍がほとんど全滅してさ、傭兵六百人しかいないんじゃどうしようもないでしょ? 他の国の人達に合流したところでみんなのスポンサーはセントアルアーナなんだから。……あたしの雇い主はエーナちゃんで、エーナちゃんの雇い主はおじさんだけどさ」
たしかにどうするつもりなんだろう。エリスと一緒にテルディーノさんを見つめてみる。
「……僅かに生き残った国軍は傭兵たちを連れて一度セントアルアーナへ戻るそうだ。しかし私は戻らない。それでは故郷が救えないからな」
何か考えがあるようだ。そんな表情な気がする。
「我々で敵方の魔法使いの正体を探ろうと思う」
やっぱりそんなところか。
「私、隠密行動はそんなに得意じゃないですよ?」
「あたしもー」
街中で疑われないとか、単純に気配を消すくらいならそこそこできるが、諜報活動なんて経験がないし知識もない。敵陣のただ中で、殺す以外の何が私にできるだろうか。
「……できないのか?」
テルディーノさんは私たちをあてにしていたようだが。
「やれと言われればやるだけやってみますが、結局は先程言ったゲリラ戦法のように適当に殺して逃げることにしかならなさそうです」
ゲリラ戦法と違うのは、敵を仕留めるための罠や地形の仕掛けはなく自力のみで戦うことになるだろうということだけ。魔法使いと呼ばれるような人との戦闘経験はないが、テルディーノさんのように、詠唱に時間がかかるなら直接対峙したところでどうとでもなる。問題は魔法使いに逃げられた時だ。逃げ果せた後で、テルディーノさんが言ったように後先考えない特攻やゲリラに回られると相手をするのには困るだろう。そうなるかもしれないくらいなら、得意な誰かに任せたほうがいい。どうせどこかの国が密偵でも出すのだろう。
「……では、敵の偵察兵でも捕まえるくらいならどうだ? 可能であれば私が魔法で彼に変身し、探りに行く。……魔法使いが相手にいるなら見破られる公算が高いが、どれだけ我々共和国の人間が活躍するかが、共和国の今後の立ち位置にも大きく関わる。命をかけてでもやらねばならないのだ」
少しでも祖国の失点を取り戻そうとする姿勢は素晴らしいと思う。
「そっか。……戦争で死ななくても経済だって淘汰があるもんね。関税とかで通商が不利になったら、食べられなくなって死ぬ人も出るだろうしね」
エリスの言葉には溌剌さがなくなっていた。何か思うところがあるのだろうか。
「それだけではない。今後、事あるごとに共和国は今回の大過を言われ続けるのだ。せめて美談でも残したい」
誇りの問題か。確かに、船で出会ったばかりの頃と比べテルディーノさんは尊大さが垣間見えるようになってきた。おそらくは元々そうした気質の人なのだろう。であれば、まず誇り、体面を気にするあたりは納得もいく。
「美談……。その程度でいいの?」
溌剌さどころか、少し険を感じる声色になってきた。やはりエリスには何かあるのだろう。
「人が一生をかけても、できることはそうたいしてない。美談の一つも語り継がれるなら、成し遂げた人生と言えるだろう」
少し言葉が気になった。
「まさか死ぬ気でもあるんですか?」
「戦場に立つからには覚悟をしている」
そうだろうか。
「覚悟があろうとなかろうと、その時になればきっと体は動くでしょう。殺すのにも殺されるのにも、覚悟は必要ないんです。必要なのは力だけです」
アドバイス。以前、荒事に向いていないと言っていたから。私は覚悟より慣れが必要だと思っている。覚悟は結果に結びつかない。だって私にはそんなのも、一切ないから。ただ、やらなければならないことがあるという意識だけで動いている。そう難しいことなんて考えていない。
結局はテルディーノさんが言った、敵兵に化けて内情を探る方針で動き始めた。王国軍は、先の戦場となった山間の平野から北上して少し開けた場所に陣取っていたらしい。それは昨日までのことらしいので、今はもう移動して各個撃破を続けるべく別の国の軍隊を
求めてさらに北上していることだろう。地図で確認したところ、共和国首都を避けて回り込もうとすると、途中で共和国の北に位置するコルト政府の先遣隊が共和国と合流する前に叩けるかもしれない。帰っていくセントアルアーナの軍や、城塞都市のオーべス、まだ遠い二国の軍を狙うよりは、このコルト政府軍を狙う公算が高いように思う。
「それで、上手くやれそうですか?」
そして、その線で予想される王国軍の移動ルートをたどっていると、偵察兵らしき女が木陰で座って水を飲んでいたのを捕まえた。聞き出せば、敗走するセントアルアーナの動きを観察していたらしい。彼女は確かに偵察兵だった。
「……どうでしょうね。上手くやれるかわかりませんわ」
答えたのは偵察兵、ではなく彼女と同じ姿に変身したテルディーノさん。恥じらいのある口調と声色だ。そのせいで、そうじゃないはずなのにいくらか可愛い。
「あはは。まさかの展開だね。これならもう一人男の誰かを捕まえるまで待ったほうがいいんじゃない?」
エリスが他人事のように言う。
「そういうわけにはいきません。またチャンスがあるとはかぎりませんから」
テルディーノさん。いや、王国軍の偵察任務を果たした従騎士のエルナが返した。少しでもボロを出さないようにと、今から練習するのは立派。四十に差しかかろうという中年にしては頑張っている。
「それで、この娘どうするの?」
エリスが顎で指したのは本物の従騎士エルナ。素直に情報を吐いてくれたので助けてもいい。
「え、えへへ……。あたし、素直に自分のことも軍のことも話しましたよね?」
魔法使いのことは知らなかった。極秘の存在なのだろう。聞き出す前から期待はしていなかった。一兵卒にじゃかじゃか教えるようなことじゃない。
それに、何やら私は非常に恐れられているみたいだ。特に魔法使いのことを聞いて、答えられなくなったとき彼女は半狂乱であった。本当に知らないんです! をただただ繰り返すだけでうるさいし、縛っているのに全力で暴れるから本当に面倒だった。舌打ちした途端静かになったけど。
「……そんなに私のことが怖い?」
いつもと変わらないつもりだけど、こんな風に怖がられたことはなかった。
「いえっ! そんなことはないです!」
慌てて否定する。むしろその慌てぶりが怖いことを肯定している。
「エーナちゃんは確かに怖いよ。どれだけ人殺しても表情変えないじゃん。それがとっても素敵だけどね」
「今は誰も殺してないでしょ?」
確かに私に関係ない人を殺すことに無感動なのは認めるけど、それは食うために森や山で狩りをするのと変わらないからだ。つまるところどちらも生きるために殺しているのだから。
「彼女は放って行きましょう。王国軍に恨みはありますが、こうまで怯えている人間を殺めることは流石に心が痛む。……痛みます」
テルディーノさんもこう言ってる。ところでテルディーノさんは本当に潜入して大丈夫だろうか。失敗しそうな気しかしない。
「ではそれで。それと、テルディーノさんは危なくなったら私たちがそれをわかるように知らせてくださいね。魔法でも大声を出すでもいいので」
少し気が早いが、注意だけはしておいた。
「エーナちゃんは上手くいくと思う?」
女従騎士を眠らせて放置したあと、数時間で王国軍を発見した。テルディーノさんが緊張した面持ちで王国軍のエルナとして向かっていったのだが。
「無理でしょ。あえては止めなかったけど、何か有力な情報を持ち帰れるほど長い間ばれないとは思えないわ」
ただ、止めたところで意味はなさそうだと思っただけだ。それなら無粋に止めなくても、失敗するまでやらせればいい。
「でも、もうおじさんがあいつらの行軍に混じってから一時間は経つよ? あたしもすぐにばれて助けに行かなくちゃいけなくなると思ってたけど、案外上手くいくのかもね」
確かにここまで何も合図らしきものがないのは意外だった。あるいは合図を出すこともできずに捕らえられているのかもしれないけど。
「上手くいっているなら少なくとも夜を迎えるまでは反応もないでしょうね」
テルディーノさんに渡された魔晶石を取り出して見つめる。何かあればこれが光るらしいけど。
「それって売ればいくらになるんだろうね? 少なくともあたしがエーナちゃんにもらったお金よりは高くなるよね?」
青い魔晶石。濁りがほとんどなく、石の向こう側が青く透けて見える。厚み2cmほどに切り取られていて、手のひらには収まらないサイズ。庶民が使っているような、濁りきって石の中に浮かぶ文字がまともに読み取れないような粗悪品とはわけが違う。私が村にいた頃の稼ぎなら買うのに十年分は必要だろう。
「これは預けられただけで私たちのものじゃないでしょ」
「そうだね」
じろりと見れば素直に引き下がったが、エリスはおそらく冗談では言っていなかった。船を降りてから、彼女のことがなんとなくわかるようになってきた。やろうとすることは小悪党だが、ためらわないし計算高い。そこが貫禄というか、不思議な風格となって見えることがある。野盗の首領とか、盗賊ギルドの幹部補佐とか、そのあたり。……そういえばこの前野盗をやっていた経験があるとか言ってたような。
と、王国軍の行進を少し離れた林の中に隠れて見ていたのだが、あちらから鎧姿の兵士が十数人走ってくる。
「……あれ? こっちがばれた?」
「一直線に向かってくるし、ばれてるかな。……彼ら、釣ろうか」
言いながら、どうすべきか考える。彼方と此方は約200m。あれ以上人数からして、小隊だ。それで充分だと思われたなら僥倖。あれらを林の奥に誘い、蹴散らしてからでも逃げればいい。……あと150。
「そのあと、逃げる?」
「そりゃあ逃げるでしょ。……まさかエリス、テルディーノさんが心配?」
この子はそういうこと、気にしないと思うけど、念のため。ここで逃げないという選択肢があるなら、それはよほどの狂人か、テルディーノさんの方で何かが起こったと見て、助けにいくかだ。……後者も狂人の選択肢か。あと50。追ってくるのは彼らだけのようだ。そろそろ逃げよう。
「じゃあ、引き離さないように奥に逃げよう」
二人で鎧を着込んだ彼らを引き剥がさないよう、森の奥へ誘い込んだ。
「ぎゃああ!!」
エリスが斬られた! 飾る余裕なんてないといった、本気の悲鳴だ。
「貴様ら!」
手強い。一人だけいたトサカ付き以外の兵は仕留めたが、その残った一人が非常に手強い。レニーやメルディメルより強いかもしれない。エリスも腕に深い傷を負わされてしまった。
「エリスは下がってて。なんとかするから」
「……!」
エリスはぶんぶん首を縦に振り、急いでこの場を離れていく。
相手のトサカ付きは部下を指揮しようとした物の十秒ほどでその部下たちが全滅するさまを見て、怒りを抑えきれていない。近かったエリスに恐ろしいほど綺麗に刃筋の立った一撃で、受けようとした剣ごと彼女の腕を切り裂き、急いで距離をあけた彼女を尻目に私に向き直る。斬鉄。出来る人間を初めて見た。
「仲間の腕の仇は取らせてもらうね」
挑発。こちらは腕一本どころか、十二人の命を戴いている。取りようによっては、お前の仲間はこちらの腕一本の価値に劣るとも聞こえるだろう。
「素っ首、叩っ斬ってくれる」
踏み込みに隙がない。常に緊急回避行動が取れるようになっている。そして袈裟懸けに走る剣閃は剣の厚みしかない。つまり、刃筋がよく立っている。だからこそエリスの剣は斬られた。しかし私はそもそも受けない。剣が振られる前にその道筋から身をどかし、一歩踏み込んで短剣をいつものように相手の首へ刺し込もうとする。……ここからがトサカ付きの本領だったようだ。
袈裟懸けに振られた刃は、その軌跡の半ばで流れるように向きを変えた。魔法も使って無理矢理に力の向きを変えたにもかかわらず、ずっと刃筋を立てたまま。はっきり言ってその動きは気持ち悪いが、速度が変わらず追跡してくる刃は肝を冷やした。一歩踏み込んでいるためステップだけでは躱せない。仕方がなく、空いてる手にもう一本短剣を造り出すと同時に、元から持っていた方の短剣で、トサカ付きの剣の腹を小突き刃筋を狂わせる。流石にこのタイミングで刃筋を戻せるわけではないらしく、新たに造り出した短剣で受け流すことができた。そして距離を取る。今まで相手をした中で、多分最も強い。受け合い切り結ぶような乱打戦で、最も輝く技術を持っている。
「あなたの名前は?」
少し卑怯だが。
「ローレン、っ! 糞がっ!」
名乗りの途中で拳ほどの石ころを造り出し、顔面に向けて投げた。刃で弾かれるが。
「ふっ」
石を弾いた直後でタメのなくなった相手の剣の柄に、ハンマーでも振るうかのように思いっきり短剣の柄をぶつけて、トサカ付きの手元から剣を弾き飛ばした。
「ぐむっ」
ガントレットで追撃の刃を防ごうとするが遅い。こちらの短剣はトサカ付きの首を衝き落とした。くぐもった音を喉から漏らしながらも、最後まで私を殺そうとあがく。せめて一撃とでもいうのか、突き飛ばすような膝蹴りを放った。が、繰り出されるまでにまごついていたのでとっくに私は離れている。首皮一枚、といよりは肉がまだつながっているが、ぐらぐら揺れているような、どう見ても死んでいる状態で一撃放ったことは尊敬しよう。
崩れ落ちる姿を見届けず、エリスが逃げていった方向へ走った。
「エリス!」
姿が見えなくなるほど離れた場所にエリスはいた。土を穿ち出る木の太い根に背中を預けて座り込んでいる。
「もう大丈夫」
そういう彼女は痛みのせいか、脂汗らしきが滝のように流れている。
「治せそう? 止血はできてる?」
この世界の便利なところ。体が魔力を使って傷の治りが異常に早い。どれほどの深手か見えないが、繋がってさえいれば死んでいない以上、安静にしていれば自然と治るかもしれない。自力で治るにせよ治らないにせよ、まずは止血ができているかどうか。
「血は止めたよ。治るかどうかは……。とりあえずあたしはここでリタイアかな。少なくとも今、このまま動き回るのは無理だよ」
それは仕方がない。
「立てる? 他にも追っ手が来ると厄介だから、もっと離れよう」
テルディーノさんから合図があったら最悪だが、その時は……。
今からでもプロット作りたい。
プロット無しで書くのがこんなに難しいなんて。ただ、完結までの道筋は一度見えました。




