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第5話

暗く、重苦しく淀んだ中に、深く深く沈められる。押し潰されて、息もできず、もがくことすらできない。

苦しくて、ただただもう、苦しくて。


そんな夢ばかりを、見ていたような気がする。


だけど。


ぽつりと、どこかで点のような光が瞬いた気がした。

明るく、眩しい。

点のような光は、細い線のように連なって、ゆるやかにこちらに流れ込んでくる。

優しく、暖かい。


掌から、ゆっくりと。心臓を通って、全身に。お腹の奥にまで巡っていく。

不思議に、満たされた気持ちで実乃里が目を開けると。


見慣れた、自分の部屋の天井が見えた。そして。



「ん? 目が覚めた?」 不意に声をかけられ、びくっとする。

声のした方に目を向けると、律の人目を引く整った顔が至近距離にあって。


「な、ななな、何でいるのぉぉぉーっ!」


実乃里は、慌てて身を起こす。頭がぐらぐらするのは、体調のせいなのかどう か。

「え? だって実乃里が心配だし」

にこやかに答える律の背後には、いつの間にやら持ち込まれた客用布団があっ て。

「その布団。まさかこの部屋に泊まる気じゃ……」

「当然。実乃里が元気になるまで、側に付いてなきゃ」

「何で。帰ってよおぉ!」

「帰るって? 実乃里の側が俺の帰る場所じゃん」

「いやそれ、違うから……」実乃里は脱力する。


「大丈夫。うちの親には事情話してるし」

「……へ?」

「しばらく帰って来なくてもいいから、孫と未来の嫁のために頑張れって」

「ーー何でそうなるーっ!」


「まあまあ。起きたんなら、夕飯食べるだろ? 叔母さんが温め直してくれてるし」

律が、実乃里の頭をさらりと撫で、立ち上がる。


ドアを開けて、実乃里を振り返ると。

「食べ物の匂いとか、平気?」

「匂い? 何で?」

「平気そうか。じゃ、軽い方なんだな。よかった。うちの姉貴の時とか、匂いだけで戻しそうになってたもんな」

「って、何の話?」

「え? だから、悪阻つわり。どうなのかなぁ、って」

「つわ……? ちょっと! だ、だから、私はっ!」



「あー、はいはい。仲いいのは分かったから。早く食卓についてね」

「叔母さん……っ!」

「あ、はいはい。今行きまーす」

ドアの向こうで手招きする叔母に、律が調子のいい返事を返す。

実乃里は、ベッドに留まったまま、そんな彼を胡散臭げに見遣ったが。

「実乃里? 俺が抱いて行った方がいいんならーー」

「行くっ! 自力で行けるからっ!」大慌てで ベッドを降りた。



食卓についてからも、冗談か本気か、『あーん』などと食べさせたがる律と嫌がる実乃里との攻防があったり。

食後のお茶の時も、何やかんやと言い合ったり(というか、律の相次ぐ問題発言に、実乃里が慌てて言い返したり)

本当は、色々と考えなくてはならない気がするのに、そんな余裕もなく。実乃里はなんだか、どっと疲れてしまった。



そんな彼女の様子を見て。

「実乃里ってば……。仲いい相手でも、聞き役に回る方だって聞いてたのに。この彼相手だと、ぽんぽん言い返しちゃって。よっぽど相性いいのかしら?」呆れたように言う叔母に。

「そりゃもう、身も心も許しあった仲なもんで」律がぬけぬけと答え。

「違ぁうーーーっ!」実乃里は、叫ぶ破目になっていた。


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