舞台裏ーー1
同族の『監視者』の一人が、大きな力の放出を感じ取ったのが半月前。
そこから現場に急行し、事後処理をしつつ事情を調べあげ、関係者とコンタクトをり、方針を立てるまでで三日。人選がされて、律に声がかかるまでに一日半。
そこから、律の方で下調べや準備を行い、関係者と入念に打ち合わせて、初めて実乃里に会ったのが、十日前。
そう、たった十日なのだ。
本当は、もっとずっと前に出会っているべきだったのに。
実乃里の父親は、今まで存在を知られていなかった同族だ。
そして、若い頃の僅かな期間ではあったが、異能持ちでもあったのだそうだ。
存在を知られていなかったのは、実乃里の父方の祖父ーー父親の父親が、恋人の存在を身内に話す前に亡くなってしまったからだ。
存在を知ってさえいれば、子供ができていないかどうか、確認することもできていたのだが。
男の方は、何かあった時の連絡先を、恋人に渡していたらしいのだが。近親者のいない彼が一番頼りにしてきた、一族のまとめ役に当たる人物の名前と電話番号を。
ただ、恋人の方は、その連絡先の人物ーー男の曾祖父の再従兄弟(
はとこ)の孫なる人に、子供の誕生を知らせる必要性を、あまり感じなかったようだ。
……当たり前だろう、と律は呆れる。
一族の常識が、世間の非常識であることを、いまいち分かっていない世代だったのだろう。
そのせいで、実乃里との出会いが遅れたのかと思うと、ムカつく話だが。
”小さい頃になんか会ってたら、おまえ、あの子を構いすぎていじめ倒して、嫌われるのがオチだったろうに”
実乃里に会わせた同族の一人に言われ、アタマにきたので、一発叩いておいた。
側にいれば、守ってやれた。そんな口惜しさはしばらく、置いておく。
今は、自分にできることをする。子供と、そして実乃里のために。
ーーもしかしたら、本当は、酷なことなのかもしれなくても。