第3話
『マレビト』は、言わばこの世界の異分子だ 。
異世界からやってきて、この世界の人々に紛れ、ひっそりと暮らしている。時に、何代にも渡って。
このマレビトの血を、実乃里も引いているのだと、律は言う。
あの時、律の手に光が見えたのも、マレビトとして受け継いだ、彼女の異能によるのだと。
ほんとうのことなのだろうか。
「俺のシマをうろうろしてたんだから、実乃里は俺のってことだよな」などと、自信満々に、意味不明の発言をする律を見るにつけ、何か、騙されている、としか思えなかったのだが。
その後、日を置いて何人かの人に引き合わされ。光が見える、見えないを言わされ。
中には、常に全身淡く発光しているという、びっくり仰天な人もいて。で、道行く人が特に驚いている様子も無いのを見て。
ようやく実乃里は、どうやらその光が、自分以外には見えていないらしいことに、納得した。
でも……本当のことなのだろうか?
今までと変わりがないように見える腹部に、そっと手を当ててみる。
実乃里の記憶力は、はっきり言って、残念なものだ。
高校時代の友人の中には、一ヶ月分のお金の出し入れを覚えてて、まとめて小遣い帳に書ける子や、試験の最中に、何ヵ月も前の板書の内容をそっくり頭に思い浮かべて、そこから公式を読み取って、問題を解いたという子もいる。
そういう子達に比べると、いささかぼんやりとした記憶力しか持ち合わせていない。
しかし。
実乃里は、隣でハンドルを握る男をちら、と見あげる。
この、目の前の彼とそういうーー子供ができるようなことをしたというのなら。
いくらなんでも、それは覚えていなきゃ。
ヒトとして、女として、おかしいのではないだろうか。