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追放されたので、とりあえず温泉入ろう〜柴犬つき〜

作者: 井上さん
掲載日:2026/07/27

名前を借りました

「この偽聖女め!お前とは婚約破棄だ!この国から出ていけ!」


 オシリス王子が言った。隣には、公爵令嬢イシスがいる。

王宮の夜会。きらびやかな大広間。

煌めくシャンデリアの光を浴びて、王子はドヤ顔をした。


「本物の聖女はイシスだ!ハトホル、お前は偽物だ!」


 私ハトホルが本物の聖女なんだけど、本当に出ていっても良いのかなぁ?


「私は本物の聖女のイシスと婚約する!」


 それが狙いか。

それなら、王子に出ていけって言われたし、出ていこうかな。


「分かりました!」


 私は、元気良く返事した。


「えっ!?ちょ…」


 何か聞こえたけど気にしない。

私は早速、荷造りをして、神殿を出た。



どこに行こうかなぁ?



 あ〜疲れたなぁ〜温泉入りたいなぁ…



温泉のある国に行こう。






 乗合馬車に何日も揺られハーコネ国に着いた。


ハーコネ国は、火山と温泉の国だ。

そこら中に温泉がある。


 貴族にしか入れない温泉や、平民でも旅人でも入れる温泉など、色々あるらしい。楽しみだ。



 最初に辿り着いた街で、パン屋でパンを買ったついでに、おすすめの温泉宿を聞いた。


パン屋の女将さんは、しばらく泊まるならユモートにある宿がおすすめだよ、と教えてくれた。


礼を言って、ユモートという街に向かう。



 女将さんが教えてくれた宿は、女性でも安心の宿だった。


とりあえず、10日分の料金を払い、部屋に案内される。


大きな宿で、大浴場の他に露天風呂もあるという。

高い部屋には、内風呂もあるらしい。

 期待が高まる。




 早速露天風呂に入ろう。

部屋に荷物を置き、すぐに着替えとタオルを持って露天風呂へ。


脱衣所から露天風呂へ出る。


見渡すと、木々に囲まれた敷地に、大きな露天風呂と、小さな露天風呂があった。


小さな露天風呂に誰かが入っていた。






 柴犬がいた。


小さな露天風呂に柴犬が入っていた。




 私は、少し考えて、大きな露天風呂に入った。




柴犬を見る。


茶色の柴犬だ。




柴犬が、こちらを見た。


「こ…こんにちは」


 私は、とりあえず挨拶した。


「おう!新入りか?」


 声が聞こえた。


…柴犬が喋った?


「…今日…来たばかりです…」


 返事をしてみた。


「旅人か?」


「いえ…カマータ王国を追い出されたので、しばらく温泉に入りながら、どこに行こうか考えようと思いまして」


「そっかぁ…大変だったなぁ…何かあれば相談にのるよ」


 柴犬優しいなぁ…


「ありがとうございます」


「ゆっくりしていきなよ」


 柴犬は、小さな露天風呂から上がり、身体をブルブルして水分を飛ばし、脱衣所へと消えて行った。


「…柴犬って…喋るっけ…?」


 柴犬がゆっくりしていきなよと言っていたので、ゆっくりする事にした。




 露天風呂から上がって、部屋で、のんびりお茶を飲む。


「あ〜美味し〜」




 夕食の時間になり、部屋に食事が運ばれてきた。




夕食後、今度は大浴場に入る。


1日交代で、男湯と女湯が代わるらしい。



今日の女湯は左側で、ぬるま湯、熱い湯、浅くなっていて寝転んで浸かる寝湯があった。

ちなみに、右側は、寝湯の代わりに打たせ湯があるらしい。






 次の日、露天風呂に入ると、小さな露天風呂に柴犬がいた。


「おはようございます」


「おはよう」


 柴犬が怪我をしているのが見えた。


「治しましょうか?」


「え?」


 柴犬が瞬きをした。


「私、聖女なので、大抵の怪我は治せます」


「ほう?」


「見ても良いですか?」


「そうだな…」


 左前足が、傷付いていた。傷が塞がったばかりに見えた。


「このお湯は、怪我に良いんですか?」


「身体の調子を良くするとかで、怪我の治りが早いと聞いた」


「なるほど〜」


 手を翳し、聖女の力を注ぐ。


「おぉ!?」


 傷が綺麗に治った。


「褒めてつかわそう」


「ありがとうございます」


 柴犬は、小さい露天風呂に入った。

私も、大きい露天風呂に入った。


「お前、我と一緒にアターミへ行かないか?」


「アターミですか!?」


 私はびっくりして言った。


「我は、アターミの守護をしている聖獣だ」


「聖獣なんですか!?」


「そうだ。魔物と戦って、怪我をして、ここに湯治に来ていたのだ」


「そうだったんですね〜」


「ここは、癒しの湯だからな。アターミにも、湯があるぞ。アターミの湯は、美容に効果がある」


「美容ですか?」


 それは気になる。


「我の毛艶も良くなる程だ」


「素敵ですね」


「アターミの領主に言い、お前に褒美を取らそう」


「褒美なんて…褒美がほしくてしたわけではないので…」


「では、温泉付きの家を与えよう」


「え?」


「追放されたのだろう?いつまでも宿に泊まっていたら金が掛かる。聖女の力を使い、領地の役に立てば、領主も喜ぶであろう」


「え…?」


 それは確かにそうだけど。


「よし、決めた。迎えを呼ぼう。明々後日には来るはずだ。一緒に行くぞ」


「え〜?」


 急に言われても…


「嫌なのか?」


「本当に…良いんですか?」


「構わない」


「…領主様と話してから決めても良いですか?」


「ふむ。領主に断られるとでも思っているのか?」


「いえ…追放された理由が……領主様にご迷惑をお掛けするかもしれなくて…」


「理由か?どんな理由なんだ?」


「偽物の聖女と言われまして、婚約破棄されて国外追放になりました」


「偽物?我の怪我を治したではないか」


「たぶん、王子が、聖女の地位がほしい公爵令嬢と、結婚したいから私を追い出したくて、偽物と言ったんだと思います」


「愚かな…」


 柴犬が、鼻に皺を寄せた。


「私の他にも聖女はいましたが、高位貴族の怪我を治すだけでした。瘴気を払うのも、怪我を治すのも、私だけがしていたので忙しくて、追放されて良かったと言えば良かったんです」


「ふむ…お前、名前は?」


「ハトホルです」


「領主が来たら声を掛ける。それまでのんびり過ごすが良い」


「はい」




 3日後、柴犬に呼ばれた。


柴犬の部屋は、最高級の部屋で、ベッドが見えないから寝室は奥の部屋にあるのだろう。内風呂もあった。


 応接セットのソファに、柴犬と領主様らしき人が座っていた。


「お待たせしました」


「聖獣様の怪我を治していただき、ありがとうございます。アターミの領主のアモンです」


 領主様が言った。

イケメンでイケボだった。


「いえ…大した事は…」


「貴女の事情も聞いた。できれば、貴女の聖女の力をお貸しいただきたい」


 領主様が言った。


「え?本当に良いのですか?」


「アターミには聖女がいない。聖獣様と共に魔物の討伐をしているが、怪我が絶えない。来ていただければ有り難い」


「え…でも…」


 そんなうまい話ある?


「カマータ王国で、偽物扱いされたようが、問題無い。聖獣様の怪我を治したのだ。胸を張ってよい」


「…でも…」


「人が信じられないか?」


「…すみません」


 よく分かったなぁ…


「それは仕方ない。だが、既に温泉付きの家を用意させている。それから、メイドと執事も。彼らに仕事をさせてやってくれ」


「えぇ!?」


 判断が早い。


「しばらく逗留してみて、嫌だったら、またここに戻れば良い」


 それも良いかもなぁ…


「…せっかく来たのですから、もう少しここにいても良いですか?」


 もうちょっと堪能したい。


「我が領に来ていただけるなら、いつまでも待とう」


「ありがとうございます」


 領主様は、仕事があるからと帰っていった。

その代わり、迎えの馬車を寄越すと行ってくれた。


 私は、何度も温泉に入り、疲れを癒した。






 温泉に入り、疲れが癒された頃、柴犬と共に、迎えに来た馬車でアターミに向かった。




「聖獣様、おかえりなさいませ。聖女様、よくいらっしゃいました」


 領主様が出迎えてくれた。


「うむ」


 柴犬が応えた。


「お世話になります領主様」


 私は、領主様にお辞儀した。


「私の事はアモンと呼んでください」


 領主様が言うので


「…アモン様」


 照れながら名前を呼ぶ。


「ふふっ…可愛らしい…」


 領主様…アモン様が笑った。


「!?」


 今…何て…?


「聖女様…いえ、ハトホル様。お部屋に案内しましょう。休憩したら、温泉にお入りください」


「は…はい…」


 私の為に用意された大きな邸。

私の為に用意された使用人。


私の部屋は、貴族の令嬢の部屋ってこんな感じ?と思うような、メルヘンな部屋だった。


「わぁ…」


 神殿は、質素な部屋だったので、本当に良いのかなぁ…とちょっと心配になった。


「必要な物があれば、執事に言ってください」


 優しく言うアモン様。


「ありがとうございます」


「では、何かあればお呼びください。ゆっくり休んで、ゆっくり温泉にお入りください。夕食は、一緒にしましょう」


「本当に…ありがとうございます」 


 私は、頭を下げた。


「ハトホル様に来ていただけて、こちらこそ感謝しています。それでは、また後ほど」


「はい」


 馬車旅で疲れている私を気遣ってくれたのか、アモン様は去っていった。


残った執事さんと、メイドさんが挨拶してくれた。


専属のメイドさんが、お茶を淹れてくれた。




こんなに良くしてもらって…本当に良いのかなぁ…


聖女の仕事、沢山しないと…




 お茶を飲み終わると、温泉に案内してもらった。


美容に効果があると柴犬が言っていた。


ちなみに、ここにも小さな風呂と大きな風呂があり、小さな風呂に柴犬が入っていた。


「領主め…お前に惚れたみたいだな」


 柴犬が笑いながら言った。


「え!?」


 イケメンでイケボのアモン様が、まさか…そんな…


「私は、偽物聖女と言われて王子に婚約破棄されて追放された身です…」


「領主は嫌いか?」


「あんなに…イケメンで…イケボな方なら、もっと素敵な女性がお似合いです」


「好みではない?」


「私は相応しくないです…」


「相応しくないかではなく、好みか好みではないかと聞いている」


 そう言われて困った。


「…今まで聖女として忙しかったので、恋愛には疎いのです…好みがよく分かりません…」


「ふむ…では、一緒にいるのは嫌か?」


 考えながら柴犬が言った。


「…男性といる事はあまりなかったので…」


「婚約破棄されたなら、婚約者がいたのだろう?」


「聖女だからと、無理矢理王子と婚約されて…でも王子は、私を疎んでいたので…交流はありません」


「聖女を大切にしないとは」


 柴犬が鼻に皺を寄せて言った。


「私が平民の出だからでしょう」


「聖女だぞ。聖女を大切にしないなんてあり得ない。国を出てきて良かったな」 


「はい…良かったと思います」


 私は笑顔で答えた。




 夕食の時間になった。


アモン様と一緒に食事する。執務があるからと一度邸に帰って、また来てくれたらしい。


「マナーが分からなくてすみません」


 私は謝った。


「気にしなくて大丈夫です。私しかいないので」


 アモン様が優しく言った。


「でも…」


「美味しく食べていただければ、料理人も喜びます」


 良い人だなぁ…


「ありがとうございます」


 料理はどれも美味しかった。


アモン様は、領地の話を色々としてくれた。

とても優しい人だった。


食後の紅茶を飲みながら、今後について話した。


「先日の討伐で、怪我人がいるので、お疲れでなければ明日、治癒をお願いしたいのですが…」


「分かりました」


「ありがとうございます」


「お世話になるのですから、何でもします」


「お世話になるのはこちらです。怪我を治していただけるなんて、本当に有り難い」


 アモン様が頭を下げた。


「そんな…」


 カマータ王国では、怪我を治して当たり前で、感謝すらされなかった。


「ハトホル様…来てくださって、本当にありがとうございます」


 イケメンにイケボで言われて、どうして良いか分からなくなった。




 次の日、朝食を終えた頃、アモン様が迎えに来た。


馬車に乗り、騎士団本部に行く。

騎士団長や、騎士達に丁重に迎えられ、騎士団長から挨拶された。


 それから、怪我人のいる部屋へ行き、怪我を治した。


騎士達は、怪我が治ると


「ありがとうございます!」


「助かりました!」


 と、お礼を言った。


全員の治癒を終えると、改めて、アモン様と、騎士団長からお礼を言われた。


 今までお礼を言われなかったので、戸惑ってしまう。


 カマータ王国でも、最初はお礼を言われた気がする。

ただ、段々と治癒されるのが当たり前になっていっただけかもしれない。


感謝されたいわけじゃない。でも、やって当然と思われるのも…



 それでも、できる事をしただけなのにお礼を言われて、いたたまれなくなって


「あの…私、瘴気も払えます」


 と言った。


「瘴気を払える!?」


「本当ですか?!」


 アモン様と騎士団長が目を見開いた。


「連れて行っていただければ、瘴気を払います」


「良いんですか?」


「本当ですか?」


 アモン様と騎士団長が期待した目で見た。


「はい。お役に立てるなら…」


「役に立つどころではありません!こちらからお願いする立場です」


「本当に…本当に良いんですか?聖女の力は貴重なのですよ?」


 アモン様と騎士団長が言った。


「え?今まで普通にしていましたが…」


「あぁ…有り難い…」


「何と…お優しい…」


 アモン様と騎士団長は感動していた。

え?変な事を言ったかな?


 何で感動してるんだろう?


「あぁ…貴女と出会えて良かった…」


「聖女様…いらしてくださり、本当にありがとうございます!」


 私は、2人を宥めすかして、瘴気を払う計画を立てた。


ハコーネ国は、聖女が少ないから、瘴気を払いきれなくて、魔物が多かった。


瘴気が減れば、魔物も減るだろう。そうすれば、怪我人も減る。




 荘厳なハコーネ城にいるハコーネ国王に挨拶に行き、瘴気を払う計画を話した。

国王は感激してくれ、何度もお礼を言われた。


 王都に来たついでに、王都と王都周辺の瘴気を払い、怪我人を治した。

王都は賑わっていた。平和な治世なのだろう。


アターミに戻り、アターミの瘴気を払い、ハコーネ国の瘴気の多い土地から順に瘴気を払う事になった。


 ついでに、その地の温泉にも入る。


本当に、ハコーネ国は、あちらこちらに温泉があり、色々な効能があって、楽しかった。


 行く先々で、感謝された。



感謝される事にも慣れてきた。


ハコーネ国の人々は、私を大切にしてくれる。


イケメンイケボのアモン様は、忙しいはずなのに、いつも私に寄り添ってくれた。


「あぁ…貴女は本当に素晴らしい…」


 アモン様にも、慣れてきた。気がする。


柴犬の話では、国王は、私と王子を結婚させたかったが、アモン様が私にメロメロで離れないのを見て、諦めたそうだ。


 アモン様と柴犬は契約している。アモン様を怒らせたら、柴犬に守ってもらえなくなる。

 アモン様は、私にプロポーズする権利をもぎ取ったらしい。

…いつの間に?






 祖国カマータ王国は、瘴気が増えて魔物が増えて、怪我人が増えたようだが、本物の聖女がいるから問題ないだろう。



 私は、今日も温泉に入る。


アモン様に大切にされ、周りの人々に大切にされ、幸せな日々を送っている。




そして、柴犬は今日もモフモフだった。



読んでいただきありがとうございます

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