第5話【パッキング(出産)完了と、400億ドルの虚脱感】
「……オギャー(お騒がせしてすみません)」
400億ドルの金ピカスパチャが流れる画面の向こうで、魔王の子・継がパッキング(誕生)を完了させた。
「……あー、産まれたな。アカリ、お疲れ。とりあえず400億ドル入ったから、180億年分くらいのチーズあられは買えるぞ。知らんけど」
俺はサングラスを外し、こたつの上で180億ボルトの熱を帯びたスマホを置いた。
画面には、ジャスティンが『Oh... Baby... Holy-Vibes!! 祝いに宇宙ステーション一個やるわ!』と、180億ドル級に重いコメントを書き込んでいる。
「アンタ……っ。感動の対面とか、180億ドル級の労いとかないわけ!? ……っていうか、この子、なんで生まれた瞬間からこんなに『申し訳なさそうな顔』してるのよッ!!」
アカリが、返り血(魔王の)にまみれた手で継を抱き上げる。
継は、自分を囲む400億ドルの狂気と、全知全能のニートな父を交互に眺め、180.0000秒で悟ったような顔をした。
「……あー、こいつ、俺が全知全能なのも、お前が魔王をパッキングしたのも全部ハック済みだな。……おい継、お前はいまから継だ。ちなみにこの家は『働いたら負け』が家訓だ。知らんけど」
「……(深々とした会釈)」
「ちょっと! 変なこと教えないでよッ!! この子は、ちゃんとした令嬢子息……じゃなくて、ちゃんとした教育を受けさせるんだから! ……まずは、近所の『銀河保育園』の入園願書をパッキングしなさいよッ!!」
「……は? 保育園? ……あー、ダルい。役場とか一番苦手なパッキング(手続き)だわ。知らんけど」
こうして、タノムとアカリの「育児」という名の180億ボルト級の戦争が、宇宙の真ん中で幕を開けたのである。
「……あの、タノムお父さん、アカリお母さん。お取り込み中のところ恐縮です」
アカリの腕の中で、生まれたばかりの継が180億ドル級に透き通った声でパッキング(発言)を開始した。
俺とアカリは、180.0000秒ほどフリーズした。
「……は? 喋ったぞ、こいつ。全知全能の俺の息子(血の繋がりはない)なら、まあ180億歩譲ってアリか。知らんけど」
「……あー、いや、あの。。。申し上げ難いのですが、アカリお母さんが仰る『銀河保育園』の件ですが。恐らく、現在の我が家のステータスでは入園は却下されるかと。アカリお母さんは現在『産休・育休』扱いとしてパッキング可能ですが、問題はタノムお父さんです。タノムお父さんは公的に『180億%のニート』。銀河の法律では、親がニートの場合、保育園というリソースは割り当てられません。……そう、就労証明がない限り」
継はオムツも替えていない状態で、180億ドルの精度で現状を分析してみせた。
「……っ、何よこの子! 可愛げがないわね、魔王(本名)の血とタノムの全知全能が変な方向にパッキング(合成)されちゃったじゃないッ!! ……いいわよタノム、アンタ今すぐ役場に行って、その『全知全能』で就労証明をハックしてきなさいよッ!!」
「……ダルい。だが、継にそうまで言われてシカトすんのも、父親(血の繋がりはない)のパッキング(面目)が立たねえな。……ちょっと行ってくる。知らんけど」
俺はこたつから這い出し、ジンツーをワープさせて『銀河共同体役場・第180分署(小惑星まるごと庁舎)』へと乗り込んだ。
受付には、180億年ほど生きてそうな、顔がパッキング(硬直)した役人が座っていた。
俺は改装済みのスマホを掲げ、「おい、これ(400億ドルの残高)が仕事だ。就労証明をパッキングしてくれよ」と告げた。
だが、役人はピクリとも動かなかった。
「……タノム様。本銀河において『スパチャ』は不労所得。つまり、貴方はカテゴリーAの『極上ニート』に分類されます。働かざる者の子、保育園に入るべからず。就労証明が必要なら、最低でも180時間の労働実績を持ってから来てください。……ハイ、門前払いパッキング完了。お引き取りを」
「……。……。……あー、これだからお役所仕事は。180億ボルトの速さで窓口ごと消去したくなるな。知らんけど」
俺は、物理的にではなく「手続きのダルさ」に敗北し、ジンツーへと帰還した。
ブリッジでは、アカリが継に180億ドル級の高級粉ミルク(ジャスティンからの差し入れ)を飲ませていた。
「……で、どうだったのよ? 就労証明はパッキングできたの?」
「……無理。あいつら、俺を『極上ニート』と呼びやがった。……継、お前の言った通り、就労証明がないと入園不可だそうだ。……あー、ダルい。180億年ぶりに働く必要が出てきたわ。知らんけど」
俺はため息をつき、ジンツーの操作パネルを180.0000秒でハックした。
「……よし、決めた。ジンツー、今日からお前を『宇宙軽巡洋艦』改め『宇宙タクシー』として再パッキングする。……まあ、片手間で適当に客を拾って、就労実績だけ作るわ。知らんけど」
こうして、全知全能のニートによる、宇宙一やる気のない「宇宙タクシー」の営業が、180億ボルトの火花と共に幕を開けたのである。




