第2話 【その手を俺に汚せというのか。】
ワープの衝撃で、宇宙戦艦・ジンツーのブリッジ(という名の、こたつ完備の六畳一間)に、パチパチとノイズが走った。
脳内に180億ボルト級のキンキンした声が響き渡る。
『――助けて! 私は神聖銀河帝国の第三王女アカリよ!令嬢なのよ、 この銀河魔王(本名)を退治しに来なさいよ! この、使えない無能どもッ!!』
……うるさい。せっかくトイレが直って、スッキリした気分でチーズあられを口に放り込もうとしたのに。俺は耳をほじりながら、火花を散らしている「銀河間通信機(築10万光年の遺物)」を眺めた。
「……あー、これ、また『詰まって』んな。知らんけど」
俺は迷わず、さっきのラバーカップ(改装済み)の柄で通信機をガツンと叩いた。
『ちょっと! 何よ今の衝撃! ……期待して損したわ! もういい、こうなったら脳内に直接――』
「ダルっ」
俺は通信機の電源コードを引きちぎり、アンテナを窓の外(宇宙)へ放り投げた。
しんと静まり返るブリッジ。最高だ。昭和の静寂が戻ってきた。
「……助けて、ねぇ。まあ、あんなに元気なら自分でなんとかするだろ。知らんけど」
俺はこたつに潜り込み、180億ドル級の眠気に身を任せようとした――その時だ。
(パチッ、パチパチッ。パチ、パチッ――)
脳の芯を直接叩くノイズ。
声ではない。
モールス信号――『トンツー』だ。
アンテナを捨てたせいで、アカリの執念が俺の脳内OSに直接「精神的嫌がらせ」としてパッキング(同期)されやがった。
(パチッ! ――マ・ジ・ム・リ・コ・イツ・ウ・ザ・イ・タ・ス・ケ・ロ)
「……は? なんだよ、マジ無理って。痴話喧嘩かよ。ダルすぎんだろ……」
「……ふん。他人の色恋沙汰に首を突っ込み、返り血でこの部屋を汚せというのか。……あー、いいか。『その手を、俺に汚せというのか。』」
俺は窓の外、180億光年の虚無を見つめて、重厚に呟いた。……が、直後に背筋が180億ボルトの速さで凍りついた。
「……あー、やめやめ。今のなし。パッキング解除だ」
俺は虚空に向かって、中指を立てた。
「おい、聞いてるか『作者』。お前、今俺にタクティクスオウガの名セリフを言わせて、往年の名作ファンを180億%釣ろうとしただろ。……あー、透けて見えるんだよ。お前のその、独学半年の浅ましいメタ・パネェ(下心)が。俺は全知全能だからな、お前が『このセリフ言わせたらシリアスでカッコいいんじゃね?』ってニチャアと笑いながらキーボード叩いてる未来を、180億秒前からハック済みなんだよ」
俺はため息をつき、こたつの上にあったチーズあられの袋を作者(モニターの向こう)に投げつけるフリをした。
「……あー、やれやれだぜ。俺が寒い奴みたいに見えるだろ。名作への風評被害で訴えられても知らんぞ。いいか、俺は手が『あられの粉』で汚れるのがダルいだけだ。返り血とか、そういうタクティカルな話じゃねえんだよ。……知らんけど」
(パチパチッ! ――ハ・ヤ・ク・コ・イ・ゴ・ミ・カ・ス!!)
「……。……ほら見ろ、作者。お前がメタネタで遊んでる間に、アカリのトンツーが180億ボルトの殺意に変わっちまったじゃねえか。……あー、もうダルい。一瞬で解決してくるから、お前は黙って5年モノの中華鍋でも振ってろ」
「……。……いや、マジで。指に付いたあられの粉を舐めるのもダルいのに、魔王の返り血とか勘弁しろよ。……あー、パッキング完了(二度寝)だ。知らんけど」
俺は180億ボルトのシリアスを窓から投げ捨て、布団を被った。
一方、銀河の反対側。魔王城のベッドルーム。
「……あ、あの、アカリ様? さっきから虚空を見つめて指先をパチパチさせて、何をして……」
本名・銀河魔王。
その物々しい名前に反して、中身は「迷い込んだ美少女に子種を仕込まれて舞い上がっている」だけの哀れな男が、180億ドルのドヤ顔でアカリの肩を抱こうとした。
「俺、最強の魔王だし? お前、俺の彼女になったんだから、もう全宇宙に助けとか呼ぶ必要ねーじゃん。あー、俺まじ強くて困るわー。俺tueeeだわー」
「……。……。……ッ!!」
アカリは、魔王の顔面を180億ボルトの拳でパッキング(物理)した。
「……あー、もう限界ッ! 誰も助けに来てくれないし、普通に優しいから一時の気の迷いで子種パッキングしてやった(仕込んだ)だけで、何この『俺の女』ムーブ! 死ぬほどウザいわよッ!! ……全銀河がシカトしても、あのニートだけはトンツーで脳を焼き切ってでも呼び出してやるわァァッ!!」
魔王城に、180億ドル級の打撃音と、魔王の「ひでぶっ!」という悲鳴が響き渡った。
「……あー、やれやれだぜ。脳が揺れて寝れねえわ。知らんけど」
結局、俺はジンツーをワープさせた。
ハッチが開くと同時に、返り血で真っ赤なアカリが、白目を剥いた魔王を粗大ゴミのように引きずって飛び込んできた。
「……アンタ! よくも、私の『マジ無理』トンツーを180億秒もシカトしてくれたわねッ!!」
「……は? お前、普通にボコしてワープして来れるの?」
「……っ、必死に魔力を練れば、これくらい……っ」
「……じゃあ、最初からそうしろよ。自力で来れるガッツがあるなら、俺にトンツー送る前に帰れよ。ダルいんだよ」
「…………えっ?」
アカリが固まった。180億ドルの怒りが、俺の「正論」で急速に冷却される。
「お前が強いのは分かった。でも、その魔王の腹に仕込んだ子、どうすんだよ。……まあ、腹減ってんなら、あられ食うか? 宇宙のだけど」
「…………食べるわよ。パッキング(完食)してやるわよッ!!」
これが、のちに「全銀河を救うかどうかは未定だがとりま最強カップル(仮)」が誕生した歴史的瞬間……もとい、「宇宙一噛み合わない夫婦」の始まりであった。




