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その指輪は薬指にはめられる

 次の日、幸江から告げられていた通り、大和家から連絡が来た。

 内容は、今度の日曜日、アキラを迎えに来るという通知だった。

 

 アキラはそれを受けて、学校帰りに毎日、一条の実家に顔を出していた。

 来たる日に向けて、マコトの追加改造や調整を行うためだ。

 ギリギリまで頑張り、父が生き延びるために出来る限りの準備をした。


 後は自分が付き添っていれば、最悪な事態は避けられるだろうと思っていた。

 

 しかし、土曜日、夕飯を食べている時に新たな事件が起こる。


 

 テラが食事を中断し静かに箸を置くと、眼鏡越しにアキラをじっと見据えた。

 そして、ぽつりと願いを口にする。


「……明日……秋葉原へ……パソコンを買いに行きたい」


 最近テラは、ドラゴンを狩るゲームに嵌ってる。

 それを見て、アキラは内心『同士討ちじゃないのか?』と思っていた。

 

 そして沙耶から、テラがゲーム用のパソコンを欲しがっていると聞いており、購入の許可はしたはずだ。

 

「はぁ?パソコンが欲しいならネットで沙耶さんに買ってもらえよ」


 だが、外出して買い物に行くという案には、アキラは即座に却下の姿勢を示す。


「……ゲーミングPCを……直接見て選びたい」


 ソファーの上で黒猫が『お連れしなさい!』などと言うのが聞こえるが無視する。


「アホか!下手したら秋葉原が戦後の闇市に逆戻りするぞ」


 アキラの言葉は冗談ではなかった。

 テラが出先で機嫌を損ね、少しでも暴れたら、そこは焼け野原になる。

 

「行く!……絶対」


 だが聞かない。

 

 地球の使徒であるテラの使命——。

 

 “自由に生きること”。

 

 それゆえに、我がままこそが宿命だといえる。


「とりあえず明日は駄目だ、僕は用事があるからな」


 明日は朝から大和家へ行くことが決まっている。


「……サヤと行くから……大丈夫」


 テラの中では、行くことが決定していた。

 

「沙耶さんに迷惑かけるなよ!……来週連れてってやるからそれまで我慢しろ」


 “我慢”という言葉はテラの辞書には載っていない。

 そういう生き物なのだ。

 

「行くったら行く!」


 テラを止められるのは地球上でアキラのみ。

 だが、止める際には甚大な被害が付いてくることも多々あった。


 二人が睨み合い、緊張感が高まっていく。

 それを感じた使徒たちが、怯えをみせて落ち着きを無くす。

 

「アキラ様、私が付いて行きますので大丈夫ですよ」


 沙耶が任せてくださいと請け負う。


 だが、そういう問題では無い。

 ほんの些細な事でさえ、テラの機嫌を損ねれば大惨事が起こる。

 軽くつつけば爆発する核爆弾を持ち歩くようなものなのだ。


 アキラは考える。


 明日、大和家へ自分が出向いて父を見守らなければ、マコトが死ぬかもしれない。

 それに、彼の身体を改造した責任もある。


 だが、テラに付き添わないと日本が危ない。


 そして、このままお互いの意思をぶつけ続けても、きっと碌な結果を生まない。

 

 明日、二人が位置するであろう距離をスマホを使い調べる。

 千代田区と台東区なら魂の痛みが起こる50キロ圏内でいられるだろう。


「……わかった」

 

 そう言うと。アキラは食事を急いで済ませ、自室へ向かった。

 しばらくして戻ってくると、手に何かを持っていた。


「沙耶さん、悪いんだけど、これを指に付けといてもらえるかな?」


 そう言って渡したのは白いリング。


「これはなんですか?」


 差し出されたリングを受け取り、沙耶は首を傾げる。


「僕の骨を加工して作った指輪」


 それを聞いて、沙耶は思わず悲鳴を上げかけ、指輪を落としそうになった。


「その指輪を着けていれば、何かあった時、すぐに駆け付けられるから外さないで欲しいんだ」

「それに、いろんな加護も付いてるから、いざという時に沙耶さんを守ってくれる」


 いつになく切実にお願いするアキラ。

 

 どこの骨を?どうやって?もう治ったのか?などと聞きたい事は山ほどあった。

 だが、アキラの真剣なお願いに、沙耶はすべてを飲み込み、恐る恐る指にはめた。


「少しでもテラが暴れそうな雰囲気を感じたら、指輪に向かって念じてくれる?」

「そうしたら、一瞬で駆けつけるから」


 沙耶が指輪をはめるのを見届けながら、丁寧に使用法を説明する。


「大丈夫よ、アタシも影ながら付いて行くし」


 黒猫が、アキラの様子を見て協力を申し出た。


「テラ関係でのニクスは当てにならないからな……」


 そう言って、過去にテラ関連で黒猫がやらかした数々の失態を思い出す。

 いつもは頼りになる黒猫は、テラが絡むとポンコツに成り下がるのをよく知っていた。


「沙耶さん、迷惑を掛けるだろうけど……お願いします」


 日本の命運を預けることに、アキラは深く頭を下げてお願いする。


「大丈夫ですよ、テラ様は良い子ですから!」


 沙耶がテラを見る目は優しい。

 それを受けて、テラはニコリと笑う。


 そのやり取りを水槽の中から見ていたアストレアは驚愕していた。

 

 捕食時以外でテラが人間に笑顔を見せるなど、初めて見たからだ。

 それに、あの人類神アルが本気で頭を下げている。


「もしかしてぇ、あの女神ってすごい力を持ってたりするのぉ?」


 水槽の同居人であるメンダコへ問いかけるが、泡を出すだけで答えは無かった。


「うるさいぞ、ヴェネ。水槽の中にいる時はしゃべるなって言っただろ」


 アストレアの声を聞き、アキラが咎める。

 その言葉で、岩の影に隠れる一匹の魚。


「アキラ様、やはりアストレア様もお部屋をご用意いたしましょうか?」


 パワハラじみたアキラの態度に、沙耶が気を使い提案する。


「これ以上、無駄に部屋を埋めたくないからいいんだよ、もともと魚だし」


 その視線の先には、体長30センチほどの金目鯛がいた。

 通常の個体とは異なり、体の全てが金色に輝き、その姿は泳ぐ宝石のようだ。

 

 この魚こそ、金星の使徒ヴェネリス・アストレアの本当の姿だった。

 

「ワタクシなどぉ、この水槽で十分でございますぅ」


 沙耶の優しさとアキラのパワハラを受けて、水を揺らしながら恭順な態度を見せる。


 アキラはそれを気に留めず、テラへと真剣な視線を向ける。


「なんにせよ、いいかテラ、絶っ対に沙耶さんへ迷惑を掛けるなよ!」


 強く言い聞かすように告げるその目は本気だった。


「……わかった」


 それの言葉を受け、凛とした顔で答えるテラ。

 だが、その胸中は誰にも測れない。


 

 こうしてアキラは、激しい不安を残したまま、明日を迎えることとなった。

 彼の胸の奥で、ふたつのことがせめぎ合う。

 

 ひとつは、大和家で待つであろう父の運命。

 

 もうひとつは、秋葉原の街に放たれる“核爆弾”の行方。

 

 どちらも、アキラにとっては重大な事案。

 そして万が一の場合は、どちらも彼にしか止められない事態が起こるのだろう——。

 

挿絵(By みてみん)

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