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心寧と葵はマナび合う

 海を背にして行われた、心寧の告白。

 自分は霊感少女だというそれは、常識で考えれば冗談として受け取るべきなのだろう。


 しかし、アキラに常識というのは通じない。

 

「どこまで聞こえるの?」


 アキラのその質問に、心寧は目を見開いて驚いた。


「……え?なんで聞こえるって思ったの?普通は見えるって思わない?ていうか信じたの?」


 思わず矢継ぎ早に質問を返す。


「え?だって本当の事でしょう?」


 キョトンとしたその表情は、彼女の言葉に少しの疑いも持っていなかった。


「……ほんと、アッキーはすごいね」

「施設を出てから、これを本気で信じてくれたのはアッキーが初めてだよ」


 そう言うと、彼女はアキラと出会ってから、初めて悲しそうな顔を見せた。


 そして静かに涙を流す。


 

 心寧がその声に気付いたのは、小学二年生の頃だった。


 自宅の庭で姉と二人で遊んでいた時、急に楽しげな笑い声が聞こえてきたのだ。

 その声の元を辿ると、庭に植えたチューリップの花から聞こえた。

 

『おねーちゃん、チューリップが笑ってるよ』


 心寧のその言葉は、姉には正確に伝わらなかった。

 

『そうね、笑っているみたいに咲いてるわね』

 

 姉にそう返されて、心寧は自分だけに聞こえていることに気付く。


 次は、枯れかけの大木のそばを通った時に泣き声が聞こえた。

 一緒に歩いていた両親にそれを告げても、やはり話が通じない。

 

『枯れた木を見て泣き声が聞こえるなんて、心寧は優しいわね』


 母はそういって頭を撫でてくれた。

 家族にはこの声が聞こえていない、自分にはこんなにハッキリと聞こえるのに。

 その事実は心寧を不安にさせた。


 そして一度聞こえだすと、その頻度は加速度的に増していった。


 最初は自然に生えている植物のみから聞こえていた声。

 それが果物や生野菜からも聞こえだして、心寧はそれらを食べられなくなった。

 

 テーブルに並べられた食事が騒がしく喚く。

 植物たちの言葉にならない感情を絶え間なく聞き続けるのは、心寧の情緒を不安定にさせた。

 

 それが土から、そして石からも聞こえだし、彼女は家の外で遊ばなくなっていった。

 自然物が溢れる外は、彼女にとってあまりにも騒がしく不気味だったのだ。


 そして、ついに水から聞こえだしたとき、彼女はそれを飲めなくなった。

 口に運ぼうとすると怒りでギャーギャー騒ぎ出す水を、口に入れる気には到底なれなかったからだ。


 牛乳などの一部の飲料しか飲めず、食事もかなりの偏食になり、外で遊ぶこともしなくなった。


 そんな彼女を家族は心配した。


 心寧の言葉を家族は信じて、色々な病院を巡った。

 耳鼻科、内科、精神科、心療内科など、少しでも症状に関係ありそうな病院は片っ端から通ってみた。


 しかし、その原因が見つかることも、その症状が良くなることもなかった。


 通っていた小学校でも色々な弊害が出てきた。

 休み時間でも外に出ず、給食も残す事が多くなり、友達と約束して遊ぶことも無くなった。


 子供というのは残酷な生き物だ。

 一度輪から外れると、攻撃対象として認識される。

 そして、それを加速させる要因が心寧にはあった。

 

 彼女は美少女だったのだ。


 それがどれだけの悲劇を生むことになるか、想像に(かた)くないだろう。

 もともとあった女子からの嫉妬、男子からの恋心からくるイジワル。

 

 そして当たり前のようにイジメが始まる。

 

 こうして、心寧に学校での居場所は無くなった。

 外にも出られず、学校にも行けず、彼女の世界は静かに狭まっていった。


 そんな時、国の研究施設が彼女の検査を打診してきた。


 通っていた病院のひとつから連絡がいき、珍しい症例として、より施設の整った所で詳しく調べたいと言われたのだ。


 両親はその話をすぐに了承した。

 しっかりとした場所で調べてもらえたら、娘の病気が治るかもしれないという希望を抱いたからだ。


 施設の場所は地方にあったので、東京に住む心寧は泊りがけで検査をすることとなった。


 血液検査から始まり、脳波や心電図、精神鑑定など一通り行われた。

 そして、それらに異常の無い事がわかると、実験が始まった。

 

 施設の研究員たちは、心寧の言葉を否定しなかった。

 

 『自然物が言葉を発する』

 

 それをそのまま受け取ったのだ。

 そして彼女に起きていることが事実だと証明された。

 

 それは簡単な方法だった。


 衝立(ついたて)の向こうで新鮮な野菜を切る。

 そして、野菜の声が聞こえたら手を上げるという単純なもの。


 それを彼女は簡単に成功させた。


 どんなに音を立てずに切ろうとも、彼女は野菜に刃物が入る瞬間の絶叫を聞き洩らさなかった。

 それは何度繰り返しても外さない。

 さらに、切った野菜の種類まで当てる。

 彼女曰く、それぞれ声が違うとのことだった。


 研究者たちは心寧を異能者だと認定した。


 そして、施設の方から両親へ入所するように勧められた。

 心寧の症状は非常に珍しいもので、日本で対応できる場所はここだけだと告げられる。

 多額の資金援助と充実した教育、そして娘の健康の為と説得された両親は、悩んだ末にそれを了承した。


 このままでは、娘は家から一歩も出られなくなると危惧していた両親にとって、この施設が唯一の希望に思えたのだ。


 

 そして、心寧の施設での生活が始まる。

 それは決して彼女にとって悪いものでは無かった。

 

 偏食に対応された健康を考慮した食事、自然物を排した部屋、映像や音楽そしてゲームなどの娯楽。

 そしてなにより、自分と同じように、常識外の症状に悩んでいる年の近い少年少女たちがそこにはいた。

 

 その生活は彼女の持つ本来の明るさを、ゆっくりと取り戻させていった。

 毎週末になると訪れる両親は、会う度に明るくなっていく心寧を見て安心してくれた。

 

 様々な形で行われる実験や検診のわずらわしさはあったが、施設での暮らしに不自由さは感じなかった。

 自分がどのような力を持っているのかを、詳しく知っていくことが出来たのも大きかった。

 

 どうやら心寧の耳は、自然物の声ではなく、その波動を聞くことができるらしい。

 それを脳が自動的に声へと変換しているということだった。


 その波動というのは“マナ”とも呼ばれており、例えるなら物語に出て来る“精霊”のようなものだという。

 なぜ、そのような事がわかったのかというと、施設にはもう一人、マナに関係する能力を持った少女がいたからだ。


 その少女にはマナが視えていた。


 それによって、心寧と同じように家に引きこもり、外界との接触を怖がっていたらしい。

 その少女の名前は『菊池 葵(きくち あおい)』。


 (あおい)はマナを光の粒として捉えていた。

 それが明暗したり、色を変えたり、動いたりするのを知覚していたのだ。


 マナが視える葵と、マナの声が聞こえる心寧。

 年齢も同じ二人の少女は、それが当たり前であるように仲良くなっていった。


 お互いが同じような能力で、同じような苦悩を味わっていたから、心の深いところで寄り添いあえた。

 二人でいれば、施設の中庭で自然に囲まれても大丈夫だった。

 

『あの花、なんか怒ってるね』


 そんなことをどちらかが言っても、もう一方はそれを理解してくれる。

 それがわかるのは自分だけではないという安心感は、二人の心を開放していった。


 そしてそれは能力の開花も伴っていった。

 

 ある時、中庭で遊んでいると、二人は植物のマナを操作し変化させることに成功したのだ。


 その変化は微々たるものだった。

 花の咲くのが少し早くなる、石の輝きが少し増す程度の変化だったが、二人はその力の行使へ夢中になっていく。

 

 施設の中で何年か経った頃には、自然物のマナを借りて色々な事が出来るようになっていた。


 自身の身体能力の向上、外見の変化、怪我の治癒、マナを介して他者への感情の伝達などだ。

 効果はそこまで大きくはなかったが、それでも確実にそれは起こせた。

 

 まるで魔法のようなその力に、二人はさらにのめり込む。

 その代償を払わなければいけないことに気付かぬまま——。

 

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