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その答えは人を辞めることである

 マコトの覚悟を聞き入れ、その体を異能者へ改造することにしたアキラは、その体を見据え、何を(ほどこ)すか思案しする。


 「まずは軽めにやりましょう」


 その場で、椅子に座ったマコトの脇に立ち、右耳にそっと触れる。

 そして躊躇なく、耳の穴に中指を根元まで突き刺した。


「ギャアァァ!!」


 マコトの絶叫が部屋にこだまする。

 女性二人が短く悲鳴を上げた。


 そのまま、その指を上下左右に掻き回すと、血の付いた指をゆっくり引き抜いた。


「出来ました、回復も済んでいるので大丈夫ですよ」


 マコトは、あまりの出来事に目を見開き、脂汗を掻き、鼻水が垂れ下がっていた。

 アキラの言うように、確かに痛みは残っていなかった。

 だが、自身の頭の中を掻き回されたような感触は、拭い去れないほどの衝撃を心に残した。


「お父様、右耳に意識を集中させて、手のひらを耳の後ろで広げてみてください」


 心ここに有らずといった風体で呆然としていたマコト。

 アキラに言われるまま、右手を耳の後ろに当てて周囲の音に集中する。

 

「……聞こえる」


 左耳より数倍大きく、周囲の音が鮮明に聞こえてきた。

 顔の角度を人に合わせれば、その心音すら拾えるほどに。


「おっきくなってる……」


 遙の声が、右耳に強く響く。


 おもわず驚いて、右手を耳から離すと、女性陣が目を大きく開いて自分を見つめていた。


「ちっさくなった……」


 今度は綾乃の声が普通の音量で聞こえる。


 確かに聴力が強化されたのを実感できた。

 だが、彼女たちは何を言っているのだろうか。


「どうですか?これは異能として十分ですか?」


 そうにこやかに聞くアキラに、遙が渋い顔をする。


「ちょっと……手品っぽい……かも」

 

「うむ、耳が大きくなるだけに見える」


 それを聞いて、マコトは窓ガラスに自分の耳を映して確認する。

 すると、耳の後ろに手を当てた途端に、耳が巨大化した。

 手を外すと元の大きさに戻る。


 二度三度と繰り返してみるが、まるで現実感の無い現象に戸惑いを隠せない。


「……ア、アキラ……これはいったい……」

 

「集中すれば聴力が3倍になるよう改造したので、それと合わせて耳の大きさも3倍へと変化するようになりました」


 マコトは絶句したまま固まる。


「もっと、わかりやすい方が良さそうですね」


 そう言って、固まっているマコトの両頬を手で挟み込むと、親指をその両目に突き入れた。


「ガァァァッッッ!!」


 もがくように暴れるマコトの顔を、しっかりと両手で押さえ込み、親指をグリグリ動かす。


 女性陣が思わず口に手を当てた。


「出来ました、今度は目に集中して遠くを見て下さい」

 

 血の涙を流し、荒く息を吐き続けるマコトへ淡々と説明する。

 

 痛み自体は完治し、すでに感じなくなっていた。

 だが、そのあまりにも過酷なアキラの施術で、明らかに心の摩耗が起こっている。

 

 それでも、言われるままに窓の外を見据えた。


 すると、窓の向こうの景色が望遠鏡を眺めているように拡大して見える。

 集中すれば、かなり遠くの物までハッキリと見えていた。


「……見える!確かに遠くまで見えるぞ!」


 視線を部屋に戻すと、遙の顔がアップに映っていた。


 しかし、その顔は恐怖と嫌悪に染まっている。

 そして、困ったような声で告げられた。


「ビックリ人間的なものは……ちょっと……」

 

「率直に言うが、気持ち悪いな」


 その評価を受け、マコトが慌てて窓に映る自分をよく見てみる。

 するとそこには、目玉が飛び出し、それを支えるように視神経が伸びている姿があった。


「……なんだこれは」


 アキラは、マコトの呟きも気にせず、これもダメなのかと眉を寄せて説明しだした。


「目に望遠機能を付けてみました。集中すれば最大で通常の16倍の望遠拡大が可能です」

「それと共に、倍率に応じて視神経が16倍伸びます。あと、驚くと目が飛び出ます」

「視神経の周囲に保護と操作の為の筋肉を付け足しましたので、慣れれば自由に動かせますよ」


 その説明を聞いて、マコトは必死に目を元に戻そうと集中する。

 だが、焦りと自身の姿への驚きで、なかなか戻らない。

 

 紐で繋がれた目玉が、空中で右往左往する様は、異能者というより異星人と言った方がしっくりきた。

 その姿に、女性陣は耐えきれず目を反らす。

 

 人体改造がなかなか合格ラインに届かないことへ落胆するアキラは、女性陣へアドバイスを求めた。


「どのような能力ならば認められるのでしょうか?」


 それに対して二人は考え、それぞれの答えを言う。


「見た目が良くて、便利なものかしら?」

 

「戦闘で使えるものだな」


 それを受けて、アキラはマコトの右手を取る。


 まだ、両目が収まりきれてないマコトは、焦ってアキラの手を振り解こうとするが、その手は万力で挟まれてるかのように動かない。


 パキン。


 アキラがマコトの右手の人差し指に生えていた爪を剥がす。

 そして、剥がれた箇所の肉を強く(こす)る。


「グウゥゥゥッ!!」


 収まりかけていたマコトの目が、痛みへの驚きでまた飛び出る。

 それを見守る女性陣たちは、これくらいなら自分達も敵にやってたと、慣れた様子で見つめていた。


「出来ました、指先に集中してみて下さい」


 深呼吸を繰り返しなんとか落ち着き、目を元に戻して指先を見てみる。

 すると、そこには黒光りする爪が生えていた。


 言われた通り指先に集中すると、その黒い爪がゆっくりと伸びていった。


「鉄の硬度を持った爪が生えてきます、伸びる速度は練習すれば早くなるでしょう」

「先を削って伸ばせば、ナイフ代わりになるはずです」


 今までで一番攻撃に使えそうだと思える改造に、マコトは期待を込めて二人を見る。


「地味……ですね」

 

「ナイフを持った方が早いんじゃないか」


 不評だった。


 マコトはうなだれる。

 このままだと、体はともかく心が持たない。

 遙と両想いになるより先に、自分が廃人になりかねないと真剣に思った。


「それでは、限界までやってみましょうか」


 アキラの死刑宣告にも似た言葉が、マコトを青褪めさせる。

 どんな痛みにも耐えるとは言ったが、拷問染みた痛みの末に、ヘンテコな体へと改造されていく苦痛は耐えがたかったのだ。

 

「……ま、待ってくれアキ——」

「呼吸を止めてくださいね」


 アキラは、マコトの膝を折らせ正座の体勢にすると、その顔を強制的に上へと向かせる。

 そして、マコトの顎の骨を一瞬で外すと、口に自身の腕を突っ込んだ。

 そのまま、肩近くまでねじ込むと、体の中を弄繰(いじく)り回す。


「オゴッ!オゴゴッ!!」


 マコトは白目を剥いて、涎とも胃液とも言えない血混じりの液体を口の端から垂らし続ける。


 女性陣は、いっそ殺してあげた方が良いのではないかと相談を始めていた。

 

 一分ほどしてから、ようやくその腕が引き抜かれると、マコトは激しく咳込(せきこ)む。

 すると、アキラは休む間も与えずにマコトの左手を持ち、その手のひらの中心部へ、自分の人差し指を深く突き刺した。


「遙ぁああアアアアアァァァ!!!!!」


 指を、腕の方まで貫通させられたその痛みに、マコトは最愛の人の名前を叫びながら、そのまま気を失った——。

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