ラブストーリーは突然に
沙耶たちが待つファミレスまでは、杉本がバイクで送ってくれた。
アキラが店に入るまで腰を折って頭を下げ続ける彼に、お礼の言葉を送る。
店に入りテラたちを探すと、そこには前回と同じ光景が広がっていた。
店内全ての客がひとつのテーブルを注目し、そこには食器が山と積まれ美女と美少女が並んで座っている。
前回と違う点は、アキラに気付いた沙耶が、こちらに駆け寄ってきてアキラを抱きしめ泣き出したことくらい。
友達がたくさんできて楽しかったと説明しても、しばらくはそのまま泣き続けていた。
アキラは、その豊満な胸に埋もれながら、沙耶に世界一のダイアを送ろうと心に決めた。
無事にマンションへと帰り、そのままリビングで寛いでいると、黒猫が気味悪そうに話しかけてきた。
「アンタ、なにニヤニヤしてるのよ?」
どうやら顔に出てしまっていたらしい。
「それがさ、また娘たちの結婚相手が見つかったんだよ」
嬉しそうに話すアキラを、黒猫は胡乱げな眼差しで見つめる。
「なにそれ?沙耶の話だとヤカラに連れ去らわれたって聞いたけど?」
「ヤカラ?いや、ルールを守る素敵な紳士たちだったけど、その中にすごい魂の子がいてね、仲良くなったんだ」
「ふーん……で、どんな人間なの?」
「まだ若いのにチャクラをいくつも開いてる子なんだけど、がんばってたから褒めたら泣いて喜んでたよ」
「チャクラを開いてる人間?確かにすごいわね」
「だよね!いやー嬉しくってさー、ぜひ娘と結婚してって頼んだら引き受けてくれたんだ」
「どんな流れでそれを承諾させたのよ……まあ、聞いても意味わからないだろうし、どーでもいいわ」
黒猫は、アキラの話に興味を失いテラのもとへと去っていった。
「この調子だと千年もかからないかもなー!」
計画が予定より順調に進みそうだと、上機嫌なアキラ。
そこへ、お茶を持って沙耶が現れた。
「アキラ様、私は本当に心配したんですからね!もうあんな無茶は止めてください……」
思い出したようにその瞳が潤む。
「ごめんね沙耶さん、でもみんないい子たちだったよ」
そう言ってカップに口をつける。
「アキラ様が無事だったからよかったですけど……待っている間、本当に生きた心地がしませんでした……」
「大丈夫だよ、基本的にテラのこと以外は、何が起きても問題ないから」
そういって目線を送ると、テラが今日の戦利品を床に並べ、ニマニマと眺めていた。
「そうだ、今日仲良くなった友達が今度ウチへ遊びに来るかも」
スマホの連絡ツールを確認しながら告げる。
「だ、大丈夫なんですか……?」
「なにが?」
「なにが、というか色々と……」
「すごい頑張り屋さんでいい子だから、良くしてあげてね」
「はぁ……」
アキラの“基準”がまだよく掴めていない沙耶は、戸惑いを残したまま了承する。
気付けばアキラの非常識にも、ずいぶんと慣れてしまっていた。
「そういえば、僕のクラスにいる、あの女の子も気になるんだよな」
アキラは思い出したように呟く。
それを聞いて、沙耶はアキラもお年頃なのだと微笑ましく思った。
「それなら是非アキラ様からお声を掛けてみてはいかがですか?きっと仲良くなれますよ」
沙耶が自身の恋愛経験の乏しさを棚に上げて、年上の女性としてアドバイスを送る。
「そうだね、明日ちょっと話してみるよ」
微笑みながら前向きな返事をして、アキラはお茶を飲み干した。
「今日は疲れたからもう寝るね」
そういって寝室に向かうアキラ。
「おやすみなさいませ」
沙耶は、心の中でそっとエールを送った。
——明日、アキラの恋がどうか上手くいきますようにと。
翌日の朝、登校してすぐ、アキラは沙耶のアドバイス通り、紫星雪乃に話しかけた。
「初めまして、僕の名前は一条アキラ、よろしくね」
緊張も、躊躇いも無いその微笑みは、雪乃の無視で返される。
クラスメイトは、なにか事件が起きたとでもいうように、それを遠巻きにして見つめていた。
この特進クラスにおいて、雪乃の存在は哲也と並んで、触れてはいけない者として扱われていた。
哲也は、その才能と他者を見下す性格、雪乃は悪い噂と他人を拒絶する態度ゆえに。
「キミにお願いがあるんだけど」
無視されたことを微塵も気にせず、アキラは言葉を重ねた。
そして、氷の上に火球を放つような願いを口にした。
「僕の子供を産んでくれないかな?」
そのあまりにも突拍子のないセリフに、雪乃が初めてアキラに反応を示す。
その切れ長の瞳が鋭さを増しながら、突き刺すような視線を向けた。
「私に近寄るな」
冷たいガラスのように硬質で透明感があるその声は、教室内に鋭く響いた。
その声を切っ掛けにざわめきが起こる。
「無理にとは言わないけど、考えておいて」
雪乃の拒絶を歯牙にもかけず、微笑みを絶やさずにそう伝えて席に戻る。
そこに哲也が話しかけた。
「なんだお前、ムラサキに用事でもあるのか?」
おそらく雪乃の事を指してるであろう色を告げ、さして興味も見せず聞いてきた。
「ムラサキ?」
「ああ、あの女はムラサキのパンツを履いている事が多いからな」
「そうなんだ、実は紫星さんにお願いをしたんだ」
「そうか、叶えてくれるといいな」
アキラのお願いと聞いて、哲也はきっと無理難題だろうと思った。
だが、自分には関係無いと、またノートに向かいだす。
しかし、ふと思い出したように一言だけ告げた。
「ムラサキは——“処女”だ」
そういうと、今度こそ自分の世界に戻っていった。
きっと彼なりのアキラへの助力だったのだろう。
それを聞いて、アキラは微笑みながら静かにうなずいた。
そして彼は彼女の世界を開き、壮絶な“お付き合い”が始まる事となる——。




