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嫉妬心は友を殺す

 サチカは、百合江を探していた中で拓人と出会い、二人で夜の横浜をバイクで駆けた。


 友人を救う、そのために。



「アナタ、使えるわね」


 私は素直に拓人を褒めた。

 

 我ながら珍しいと思う。

 お兄様以外の男を心から褒めたことなんて、あったかどうかすら分からない。


 それほどまでに、拓人の段取りは完璧だった。


 彼は、向かった先々で百合江の情報を手に入れて、あっという間に彼女が現れるであろう場所を特定したのだ。


 百合江に会えたからといって、すべてが解決するわけではない。

 でも、最悪の事態が起こる前に保護したかった。


「かなり人気のない場所だから、俺だけ行こうか?」


 拓人が心配してくれる。

 私の強さを知っているはずなのに。


 出会った時から感じていたが、彼は私を庇護対象として見ているのだろう。

 そんな扱い、久しく忘れていた。


 その少しくすぐったいような感覚に、思わず眉を寄せてると、拓人が笑った気がした。


 恥ずかしくなって思わず突っ掛かったら、『可愛らしい』なんて言葉を言われた。


 なんて屈辱。

 完全に子供扱いされている。


 私をそんな扱いして良いのは、お兄様だけなのに。


 逆上して罵詈雑言をぶつけたけれど、バイクが走り出すと風が邪魔して、私の言葉は届いてくれない。

 

 彼といるとペースが乱されてばかりだ。

 思わず腰へ回した手に力が入ってしまった。


 きっと、百合江のことで感情が落ち着かなくなってるのだ。

 

 そうに決まってる——。



 目的地の倉庫で、無事に百合江と会えた。

 だけど、彼女は暴走し、拓人へ襲いかかってしまった。


 私の落ち度だった。

 もっと、真剣に彼女の話を聞いていれば防げたはず。


 百合江は、異能を使う陰陽師集団の術師だ。

 さらに、その中でもかなり強い。

 つまり、一般人の喧嘩自慢くらいでは一瞬で殺されてしまう。

 

 ——はずだった。


 しかし、私よりも強い百合江を、拓人は子供扱いしていた。

 全ての攻撃を躱し、あっという間に気絶させる。

 その強さは底を見せないほど。


 百合江が心配で急いで駆け寄ったが、拓人は彼女をアザひとつ残さないで眠らせていた。

 その強さに驚いたが、それよりも無事に百合江を見つけることが出来て、心から安心した。


 それも全て拓人のおかげだ。

 なにかお礼をしなければならないだろう。


 百合江を抱きしめながらひと息吐いて、そんなことを考えていた。

 すると、深夜の倉庫にいきなり母が現れ、彼に向かい叫んだ。


 その表情は激しい怒りを見せている。


 過去に、片手で数えるほどしか見たことがない、母の本気の怒り。

 私のために怒ってくれているというのに、その殺気で足が震えた。


 今まで、母が私へ怒ったことは無い。

 

 母は、子供の頃からはっきりと兄の為に生きろと私に伝えていた。

 普通なら、そんな物言いに反発してもおかしくないだろう。

 だけど私はその使命を持てたことに誇りを持った。


 母と共に兄を支える。

 親子というより同志に近い関係だった。

 私は母に、お兄様の妹として産んでくれたことを感謝していた。


 母も私を娘として、そして理解者として、とても大切にしてくれた。

 そこにちゃんと愛情を感じることも出来ていた。


 そんな母が過去に怒りを見せたのは、兄が他者から傷付けられそうになった時。


 一度、お兄様が誘拐されかけたことがあった。

 その時の母の怒りは凄まじく、相手の組織から裏にいた名家まで、全てをすり潰すように滅ぼした。


 母の全ては兄に注がれている。

 それを尊敬していた。

 自分もそうありたいと。


 だけど、最近は違う。

 その視線がお兄様を見なくなり、なぜか、父を追うようになった。

 

 熱い視線と共に。


 一条の全てを捨てた兄を見限ったのかとも思ったが、お兄様へ対する対応は以前よりも深い畏敬を持って接していた。

 でも、私は全ての気力を失っていて、その理由を母に聞くこともなかった。


 母の強さはよく知っている。

 たまに直接鍛えて貰っているし、母が大和家に残した数々の伝説が物語っていた。


 そして、私は何度か母が行う拷問に立ち会ったことがある。

 ウチの屋敷にある、母専用の部屋で行われたその行為は、凄惨を極めた。

 そのことで、母への恐怖はその強さと共に私の中に深く植え付けられていた。


 だが今、私の目の前では、そんな母と互角以上に戦っている拓人がいた。

 楽しそうに、笑顔を浮かべながら。


「強ぇな!オバさん!」


 白く短い棒を巧みに操り、母の薙刀をそらす。


「馴れ馴れしいですよ!貴方(あなた)!」


 母は、先ほどから百を超える攻撃を防がれている。

 だが、怒りに染まっていたはずの表情が、攻撃をする度に少し(やわ)らいでいくように見えた。

 

 まるで、武器を通じて会話をし、拓人との繋がりを紡いでいるような雰囲気を感じてしまう。

 

 二人のやり取りを眺めていると、妙な胸の(ざわ)めきを覚えた。


 百合江を支えている手、それを片方だけ胸に当てる。

 そこにある、痛みにも似た感覚を確かめるように。


 

 そうこうしている内に、二人の戦いは大詰めを迎えたらしい。


貴方(あなた)……これは受けられるかしら?」


 母が指先を軽く切って、流れる血を薙刀へ垂らす。

 すると、薙刀の柄が一瞬だけ生き物のように脈打った。


赫脈刀(かくみゃくとう)……赫帯裂斬(かくたいれつざん)


 私が聞いたこともない技。

 おそらく母の奥義だろう。


「面白れぇ!受けてやるよ、オバさん!」


 拓人が口角を上げ、瞳を螺旋に輝かせながら全身のオーラを両手に集中させた。

 おそらく手で受け止める気なのだろう。


 思わず見入ってしまうほど真剣な立ち会い。

 だけど二人とも、とても楽しそうな顔をしていた。


「オバさんはやめなさい……いくわよ!」


 薙刀を突いた先から赤黒い光が放出された。

 

 それは霊力の奔流。

 ぶ厚い鉄板すら貫くであろう攻撃が、真っ直ぐ拓人へ向かっていた。


「オイ!コレ普通に死ぬぞ!」


 拓人が両手を前に突き出して、霊力の塊を受け止めながら必死になって叫ぶ。


「私の奥義よ!そんな簡単に防がれてたまるものですか!」


 母は、嬉しそうに霊力を放出し続けている。

 きっと、拓人を殺す気はもう無いのだろう。

 彼を試すのが楽しいようだった。


 二人は、力比べに夢中となっている。

 そこに何者かが入り込もうとしていた。

 

「……タクトぉ!消えろぉ!」


 気絶していたはずの百合江が、一瞬で跳ね起きて、拓人へ向かい駆け出した。

 

 私はそれに気付き、反射的に手を伸ばす。

 

「百合江、待ちなさい!」


 必死に伸ばした手は、彼女の手首を掴むことに成功した。


 だが次の瞬間、私は自分の腹部に熱を感じる。

 視線を落とすと、そこには棒が生えていた。


 それは先ほど拓人が折った、百合江の武器。

 その持ち手の棒部分が私の腹に突き刺さっていたのだ。


「サチカ!」


 母の叫び声が聞こえた。


「どうした!?」


 拓人の焦るような声も。


「……え?サチカさま?……なんで?」


 百合江は私に刺さっている棒から手を放し、目を見開きながらこちらを見つめている。


「……え?……これ、わたし……が?」


 両手を広げ、そこに残っている感触を思い出したように震わせた。

 

「サ、サチカ……さま?………………イ、イヤァーーーー!!!」


 倉庫に響き渡る絶叫。

 鼓膜が痛みを覚えるほどの悲痛な叫び。

 

 百合江はその場に崩れ落ち、両手で頭を抱えこんだ。

 

 私は腹部に刺さった棒を押さえながら、彼女の名を呼ぼうとしたが声がうまく出なかった。

 

 母と拓人が、必死の形相でこちらに駆け寄ってくる。

 それを見たら足が震え出し、立っているのが辛くなってきた。


 その場でふらつき、地面に倒れ込もうとした瞬間、あることが頭によぎる。


 だが、そんなのはきっと好きな相手に望むこと。

 本当はお兄様にしか許したくない。


 だけど、彼がこちらに向かって来た時、そうしてくれたらいいなと思った。

 

 なぜだかわからない。


 きっと、バイクで寄りかかった彼の背中が、不思議と安心できたせいだろう。

 

 

 拓人がサチカを抱きとめた時、彼女は静かに笑みを浮かべていた——。

 

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