チャイナ・シンドローム
拓人は、アマテラスとの初夜を終えた。
そして翌日、アキラの家に一人で結婚の報告へ行く。
それは念願だった約束の成就を告げるためだった。
「……そんなわけで、三人と結婚したんだが……良かったかな?」
アキラなら、喜んでくれるとは思っていた。
だけど、あまりにも変則的な結婚とプロポーズに、少し緊張しながらの事後報告となった。
アキラは拓人の報告を聞くと、少年のように目を輝かせて笑った。
「さすが拓人だね!本当に、よく頑張ったよ!心から嬉しい!」
その言葉には、父としての喜びと、友としての誇りが滲んでいた。
そして、アキラは少しだけ真剣な顔になる。
「あとは、たくさん子供を作ってくれると嬉しいな」
望まれたのは、子供を多く作ることだった。
もちろんそれも叶えるつもりだ。
アキラの頼みに応じるのは、息子として当然のことだし、当初の約束だ。
だけど、これから回数を重ねるにしても、出来れば上手になりたかった。
「……それなんだけどよ……やり方のコツとかないか?……アマテを泣かせちゃって」
アキラなら、きっと物凄い神テクニックとか知ってそう。
ワカメ以外で痛くさせない方法とか、気持ちくさせる方法とか教えてくれないかな。
「僕だってほとんどの女性は泣かせちゃうけどね」
それ、たぶん泣かせるの意味が違うと思う。
「いいよ、それじゃ教えようかな、カーマ・スートラの元になった奥義を」
アキラがその場で座禅を組んで、指に印を結び、なにやら神々しく輝き出した。
「よく見ていてね、全ては気の流れを丁寧に操ることから始めるんだ」
初めて見るアキラのオーラは、ホンシアの白金よりも白さを増しながらも黄金に光り輝いている。
そして、皮膚に薄く張り付くように巡らされたオーラは、一切の揺れを見せずにアキラの輪郭を美しくなぞっていた。
「陽の気と陰の気をバランスよく交換し合う」
アキラが俺の体に優しく触れる。
それによって、まさしく『気付く』。
それは、千の言葉を交わすよりも濃厚な接触。
どうやらお互いの気を混ぜ合わせ、体を芯から馴染ませていくらしい。
「すると、熱と血流がいい感じになって、感度が上昇し出すんだ」
確かに体が熱くなってきた。
感覚が鋭敏になり、相手の細かな動きが拾えるようになっている。
「もちろん戦闘にも使える技術だよ、聴勁っていうんだけどね」
アキラの気を体内に入れたことで、俺の細胞ひとつひとつの動きまで視られている気がした。
「ホンちゃんも得意だから、二人で子作り兼ねて練習するといいよ」
アキラはそう言って、纏っていた気を収める。
なるほど、いいことを聞いた。
さっそく今度、お願いしてみよう。
ホンシアのことを考えていると、プロポーズのことを思い出した。
「あ、そうだ!この前頼まれてた理想のプロポーズの言葉……色々聞いて来たからよかったら見てくれ」
アマテたちから聞いた言葉の数々。
それらをメモにまとめてきた。
「ありがとう、参考にさせてもらうね」
俺の書いたメモを受け取り、微笑みながら感謝を示してくれる。
少しは役にたてたなら嬉しい。
「……いざとなったら俺も戦うからよ」
アキラのプロポーズが失敗したら、テラとの戦闘が始まるらしい。
なら、たとえ微力でも助けになりたい。
「うん、その時は頼んだよ」
きっとまだ役には立てないだろうけど、アキラはそれでも期待してくれている。
その場しのぎではない気持ちが伝わる。
確かに俺を信じてくれているんだ。
その気持ちを受けて、ソファーに寝っ転がりテレビを観ているテラをチラ見する。
ヤベェ……相変わらずマジ怖い。
思わず震え出し、前回喰われた右手を隠した。
というか、前に喧嘩売った時より怖い。
そういえばホンシアが、強くなるほどテラへの恐怖心は上がるって言ってたな。
じゃあ、俺も一応は順調に強くなってるってことか。
「よし……それじゃあ明日にでもホンシアのところに行ってくるぜ」
とりあえず今日はもう寝よう。
寝不足と昨日の疲れで死にそうだ。
やっぱ新婚初夜ってのは危険だぜ。
文翔の気持ちがよくわかった。
一晩で二十回くらい出した気がする。
なんかラブラブとかイチャイチャって感じじゃなかった。
立たせておくのに必死で、ひたすら大変だったという感想しかない。
最後の方とか、お互い半分寝てたもん。
「がんばってね」
アキラが手を差し出して応援してくれた。
それに対し、俺は強く握り返す。
玄関を出る時、沙耶さんも見送ってくれたので、深く頭を下げてアキラをお願いしといた。
俺がプロポーズを成功したんだから、きっと大丈夫だろう。
アキラの方が、はるかにいい男なんだから。
そういえば、アキラの外見は完全に大人になっていた。
きっとスーパーとかでお酒買っても年齢確認されないな。
沙耶さんと並んでも、恋人としてまったく違和感が無いし、お似合いのカップルだと思う。
俺は二人が並ぶ姿を見て、全幅の信頼と共にアキラへ人類の未来を託した。
結婚してから初めて、拓人はホンシアの住むマンションを訪れた。
紫星綾乃から借りている最上階のペントハウス。
そこはリビングから屋上庭園が眺められる。
拓人は入って来るなり、間接照明を浴びながら、部屋の真ん中で仁王立ちしていた。
その瞳には黄金の螺旋が刻まれている。
ホンシアは、これから拓人と初夜を過ごすことになると気配で察知していた。
我が夫となった男の気が滾っているからだ。
それはまるでこれから決戦に挑むかの如く。
いや、おそらく本人は本気で戦いに来たつもりなのだろう。
きっと、私を屈服させたいのだ。
ならばその決闘、受けて立とうではないか。
私は女で在る前に、一人の武人なのだから。
そして師として、房中術にも精通していることを教えてあげよう。
なにより妻として、夢のような体験をさせて夢中にさせるのだ。
拓人を姉妹で共有するのは構わない。
もとより、独り占め出来る存在ではないと思っていた。
英雄、色を好む。
拓人がそうだとは言わないが、神を目指すほどの男だ。
今後も必然的に女が寄ってくるだろう。
だから、その中でも順位というものを上げておかなければならない。
昔住んでいた城の後宮では、皇帝の寵愛を受けるため、ありとあらゆる手段が講じられていた。
そして、気の達人と呼ばれていた私の所にも、性に関する房中術を聞きにくる女官は多かった。
気が操れるということは、男女のまぐわいにとって大変な強みとなる。
それこそ、皇后までもが膝を着いて教えを乞うほどだった。
だから私は気が向いた時に後宮へ訪れ、才能のある女官に手ほどきをしてやった。
その代わり、まぐわう際に使用した房中術の結果はちゃんと詳しく聞いた。
自分で使おうとは思っていなかったが、何かの役に立つだろうと書物に纏めておいた。
まさかそれが世紀を超えて今、拓人とのまぐわいへ役立つことになるとは思わなかったが。
今、彼には私を含め三人の妃がいる。
きっとこれからまだまだ増えるだろう。
結婚したことに油断すれば、おのずと彼の寵愛は失われていく。
ましてや人の心など目に見えないものを測るなら、過ごした時間や表す気持ちがなにより重要だろう。
だけど私はあまり気持ちを口に出来る方では無いし、過ごす時間も限られている。
だから、得意分野で勝負するしかない。
「ホンシア……お前の全てを教えて貰うぜ」
拓人はそう言うと、おもむろにシャツを脱ぎズボンのベルトに手を掛ける。
「タク、覚悟はいいネ!我がいないと生きていけない体にするヨ!」
私は着ていた服を、その場で脱ぎ捨てた。
全裸となった二人が、隙をみせないようにジリジリと寝室へ向かっていく。
それはまさに決闘と呼ぶに相応しい緊張感を見せていた。
寝室に入ってベッドの上に座る。
お互いの手のひらを絡め合わせる推手から、体外の気が混ざり、陰陽の交わりが起こる。
そして徐々に私の体内に侵食する彼のオーラ。
「……知らなかったぜ、いつも俺にしてくれたマッサージが、こんな難しかったなんてな」
拓人は額に汗を浮かべながら、繊細な気の操作に四苦八苦していた。
「初めてにしては上出来ネ、タクの気が我の中に入って来てるよ……」
いつもしている一方行の交流ではない。
お互いが送り合う気の交わり。
互いの体温、呼吸、鼓動、思考、それらすべてが少しずつ重なり合っていく肉体と精神の混合。
拓人が必死に私の体を知ろうとしてくれていた。
細胞のひとつひとつまで観察するように。
「ホンシアの体って……こんなに綺麗だったんだな」
知らなかったと呟く。
それを聞いて、思わず気が乱れそうになる。
きっと顔は赤く染まっているだろう。
彼が私の体を深い所まで知ってくれる。
そのことで血流が早くなり、神経が敏感になっていた。
彼が触って貰いたいと思っている場所。
私が触って貰いたいと思っている場所。
お互いが、それらをゆっくりと丁寧になぞっていく。
声を上げ、息を荒げながら。
思考まで溶け合うように気を同調させていき、順序を追うように上から下へ手を伸ばしていく。
そのまま慎重にお互いの体を結合させ、さらなる気の交わりを果たした。
挿入された物を少したりとも動かさず、あらゆる情報の交換を念入りに行う。
それは夫婦となって初めての対話。
二人きりで行われた密談には、性の快楽を超えた神秘的ともいえる一体感があった。
おそらく、気の相性でこれ以上合う相手は世界中探してもいないだろう。
今この瞬間、彼が私で、私が彼となっていた。
「色々なことが……わかった……」
それは私も同じだ。
そしてこのままだと、数秒後にはお互いが気絶することも。
最高潮に高まった気と多幸感に染まっている精神、そして敏感すぎる神経と激しい血流。
それに射精の快楽が加われば、共鳴している私もきっと持たない。
「あっ……だめだ!」
わかっている。
仕方のないことだ。
次の瞬間、訪れたのは激流。
脳が火花を発するほどの情報の渦。
彼が生まれてから育ってきた人生。
私が生まれてから育ってきた人生。
それが走馬灯のようにお互いの脳へ映し出された。
「死ん……じゃう……ネ……」
幸福感に涙を流しながら、ゆっくりと意識を手放す。
狭くなっていく視界に見えた拓人は、すでに白目を剥いていた。
おそらくお互い、一晩は意識を取り戻さないだろう。
こうして拓人とホンシアの初夜は、お互いが気絶するという凄惨な幕切れになった。
だが、その交わりはお互いの絆を強く濃くするものだった。
そして修行と称して、二人は房中術の深淵を探索し始めることとなる。
その結果、拓人が性の奥義に辿り着けるかは、まだ誰もわからない——。




