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肩を叩くその日まで

 拓人は三人に向けて、ずっと一緒にいたいと訴えた。

 それは誤魔化しではなく、本心からのプロポーズ。


 普通なら絶対に許されない、掟破りともいえる三人への同時求婚。

 

 拓人は、彼女たちの断罪を受け入れようと、目を閉じて静かに待っていた。



 彼の言葉を聞いたアマテラス、ホンシア、マリアは涙を浮かべる。

 そこにあったのは喜びの雫。


 三人に、怒りなどは欠片も無かった。


 望んでた理想のプロポーズを受けた乙女たち。

 そのことで、心を激しく掴まれ、身も心も崩れ落ちそうなほど(とろ)けていた。

 

「わ、私は、拓人のそばにずっといる!」


 アマテラスが、声を詰まらせながら、一生懸命宣言した。


「我も……タクと手を繋いデ……歩いて行くネ」


 ホンシアが、ただ流れるままに涙を(こぼ)し、幸福を迎えようとしていた。



 そして、マリアが胸を張り、腰に手を当て拓人に指を向ける。


「妾より先に死なないという誓い……絶対守るのだぞ!」

 

 揺れる視界を留めるため、必死に眉を寄せていた。


「さすれば、妾の全てを差し出そう!身も心も、魂さえもそなたの物よ!」

 

 ちゃんと返事をしなければと、懸命に声を出す。


「光栄に思うが良い!神の子を三人も娶るのだからのう!」

 

 先日された、二度目のプロポーズの時は、泣きすぎて結局何も言えなくなってしまった。


 だから、この三度目のプロポーズにはちゃんと答えようと決めていた。

 それでも、深い喜びで声が震える。


 拓人は、私が前に伝えた理想のプロポーズを重修するように、真心が込められた言葉を紡いでくれた。


 うるさいとか、わがままだとか言われたが、その飾り気のない物言いに心が弾む。

 彼が私を対等に見てくれている証拠だから。


 頼りにされているとは思っていたが、私の寂しさにもちゃんと気付いてくれていた。


 それにまさか『愛おしい』なんて言われるとは思っていなかった。

 

 とても嬉しい。

 今すぐ抱き着きたいくらいに。


 『もう寂しい思いはさせない』

 

 そんな、私が一番欲しかった言葉を告げられた。

 

 幸福で脳が痺れる。

 まるで御父様に頭を撫でられている時のようだ。


 いや、瞬間的にはそれを超えるほどの感情が湧いている。


 拓人——恐ろしい奴よ。

 

 思わず「しゅき……」と呟いてしまったわ。


『神を目指す』


 今の彼奴(こやつ)には、その言葉が(まこと)によく似合っておる。

 妾の心をここまで搔き乱すなどと、神以外では成し得ぬ快挙といえよう。

 

 いいだろう、ここにあらためて誓おう!

 この世の果てまでだろうとも、彼に付き添うことを!


 そして、今こそ望みを叶えてしんぜよう!

 長らく待たせたが、無上の褒美を受け取るがよい!


 

「覚悟は出来ておる!いまこそ妾たちと子をつくろうぞ!」

 

 マリアの言葉を受けて、拓人は驚きを見せていた。

 想像していた反応とあまりにもかけ離れていたからだ。

 

 しかも、アマテラスやホンシアも、俺の言葉を受け容れてくれた。

 心から嬉しそうに。


 殴られるつもりで目を閉じていたのに、彼女たちから聞こえてきたのは、深い喜びの声だった。


「え?……いいの?」


 しかも、いつのまにか、子供を作ることになっている。

 あまりにも想定外の展開に、勝手に声が出ていた。


「も、もちろんだよ!私、がんばって産む!」


 アマテラスが、両手に拳をつくって意気込む。


「さっきみんなで話してたネ!タクの子供が欲しいッテ」

 

 ホンシアが両頬に手を当てて、照れながらも教えてくれた。


「神の子の絆は固い!産む順番程度で揺るがぬから安心せい!」


 え?俺、三人同時に求婚したんだよ?

 なんか、全員と子供作る流れになってるけど、おかしくね?


「あの……結婚なんだけど、どうすればいい?」


 知識ではあった。

 ハーレムってやつ。

 奥さんを何人も娶る、男の夢のような家族の形。


 

「なに、形式など構わん」


 マリアが胸を張り、自身の見解を述べる。

 

「宗教とはすなわち妾のことよ、妾が夫婦として祝福を授ければ十分であろう」

 

 世界の宗教を形作った宗主の言葉は、重みを持って告げられた。


「父君だって、村の女の人全員と頼まれて関係してたよ」


 つい忘れてしまうが、彼女たちは長い時を生きている。


「我の義父は中国の皇帝だったけド、後宮を作っテ、山のように女を侍らせてたネ」


 価値観が今の時代に沿っていなかった。


「妾の兄弟は全員母が違っておったぞ、御父様はたくさんの母たちと結婚すらせんかったしのう」


 なにより、彼女たちの父親は人類神だ。

 妻のような存在が、多数いることこそが当然。

 人を増やすためには必然とすら言える。

 

 そんな結婚観を持つアルの娘たちは、夫に妻が何人いようが気にしない。

 むしろ、魅力ある男ならば女は多数いる方が自然と考えていた。


「御父様に並ぶなら、妾たちを等しく愛し、幸福に染めてみよ!タクト!」



 マリアの言葉で気付いた。

 

 そうだった、俺が目指すのは人類の神。

 常識なんかに囚われてたら、到底辿り着けない領域。


 望むところだ。


「……任せろ、絶対幸せにするからな」


 アキラとの約束のためじゃない。

 

 俺が、彼女たちと結婚したいからする。

 さらなる高みを目指すために。

 

 周りに何を言われようが知ったことか。

 俺の信じる道を真っ直ぐに行こう。

 

 

 『自分を信じて』って言葉を聞いた事がある。

 だけど、俺みたいに産まれた時から自分が無い人間は、信じるものが何も無い。

 

 だから、俺はアキラを信じた。

 

 この世に生まれて、初めて見た光だったから。


 眩しく、あたたかく、進む先を照らしてくれる。

 そんな、理想の親のような存在。


 いつか必ずそこへ辿り着く。

 そのために、俺は常識をブチ壊しながら進んでいくことを決めた。

 

 空っぽだった心に、大切なものを増やしながら。


 このたった一年で、人生の全てが変わった。

 ならばこの先何十年で、自分がどれほど変われるのかが、楽しみでしょうがない。


 ここにいる愛する人たちと子供を作り、一緒に成長しよう。

 体と心を鍛え、今よりもっと魂を燃やす。

 

 そして、いつかテラへ勝てるようになったら、アキラに胸を張って言おう。


 『待たせたな』って。


 きっとアキラは喜んでくれる。

 人の可能性に目を輝かせて。


 そうすれば、俺が生まれてきた意味もあったんだって、心の底から思えるだろう。


 アキラと会ってから、俺の頭の中には、いつもあの音が聞こえている。

 全てを生まれ変わらせてくれた、規則正しい福音が。


 この音が消えない限り、それを頼りに俺は進んでいける。

 どんな困難であろうと、ぶっ飛ばして前へ。


 彼を、孤独のままにしないため。



 こうして、安藤拓人は三人の嫁を娶ることになった。

 アキラとの約束のためではなく、自身の望みとして。


 それは人としての成長だろう。

 

 だが、目指す場所は変らない。

 ただひたすら、神のいる場所を目指して、これからも足掻き苦しむだろう。


 その瞳に螺旋を浮かべながら——。

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