不器用な男のプロポーズ
拓人は、目の前にいる三人の女性へ、軽い気持ちで告白してしまった。
ノリと勢いで動いた結果、娘たちは予想だにしなかった反応を示す。
そのことで拓人は追い詰められてしまった。
せっかく築いた関係が崩れてしまうかどうかは、彼の覚悟に掛かっていた。
拓人は気付いた。
ものすごくマズイ状況になったことを。
彼女たちの熱い視線。
桜色に染まった頬。
潤んだ瞳。
その全てが俺への好意を表していた。
『結婚を前提に付き合ってくれないか?』
確かにそう言った。
だがその言葉は、あまりにも軽いものだ。
なぜなら、三人の中で誰でもいいからという意味だった。
失礼極まりない話。
浮かれていたなんて言い訳は通用しない。
考えなしの大馬鹿野郎と罵られても仕方が無いだろう。
でも、正直な気持ちでもあった。
結婚相手としてあらためて考えた時、俺にとって三人とも比べる事が出来ないほどだったから。
しかし、このままでは、どんな悲惨な結末が待っているかわからない。
全員に振られるのは仕方がない、自業自得だ。
だけど、嫌われたくない。
俺は彼女たちのことを大切な家族のように思っていた。
どうすればいい?
三人は、誰に向けて言ったのかと、俺の言葉を静かに待っている。
どうすれば、この場を無事に収められる?
謝ればいいのか?
無かったことにしてくれと。
違う、それだときっと失望されてしまう。
彼女たちが抱いてる気持ちは、俺が思っていたよりもはるかに重い。
それが視線から伝わってくる。
その熱意を受けて、さっきから汗が止まらないくらいだ。
テラと戦う時に感じた、命を失う恐怖とは違う。
今まで感じた事のない、心を削られるような重圧を受けていた。
いつだって追い詰められた時、思い浮かぶのはアキラの顔。
俺の憧れで、全ての指針。
アキラはなんて言った?
思い出せ、俺は聞いていたはず。
彼の言った言葉は、全て心に刻まれている。
『なあ、そんなに彼女がいて大丈夫なのか?』
それは何気ない問い。
アキラにたくさんの彼女がいることを知って、どうやって付き合っているのか、興味本位で聞いたのだ。
『彼女たちは、人生を懸けて僕に尽くしてくれるから、僕は精一杯その気持ちに応えるだけさ』
俺の質問に、柔らかく微笑みながら教えてくれた。
『それに、神は人の願いを叶えるものだから、彼女たちが僕を望んでくれるなら、出来るだけ叶えてあげたいんだ』
それは神の視点。
人の常識など考慮しない考え。
だけど、自分の出来ることを精一杯するという教えと、望まれたら出来るだけ叶えるという言葉は、俺の心に深く刻まれていた。
そうだ、ウダウダ考えるのはやめだ。
自分らしく真っ直ぐ気持ちを伝えよう。
上手く立ち回ろうとするのは、こんなにも俺を想ってくれている彼女たちに失礼だと思った。
だからせめて、精一杯心を込め、自分の気持ちを口にする。
「……アマテ」
白いジャージを着た、ピンクの髪色の美女。
俺の同居人で、大切な女友達。
「俺は……お前と暮らして、初めて家族という存在を持てた気がするんだ」
毎日、少しずつ変化していった関係。
細かなやり取りを、何度も繰り返して築いた、穏やかな暮らし。
「いつも、晩御飯を用意してくれるよな」
仲間や哲夜と過ごした生活とも違う、楽しさよりも安心を感じられる日々。
「俺の帰る場所を、アマテが作ってくれている気がしていたんだ」
最初は色々と大変だった。
お互いが、人と距離を詰めるのを怖がっていたから。
だから、ゆっくりと慎重に作った関係だった。
「帰る場所がある、そんな当たり前の安心を、初めて俺にくれたのはアマテなんだ」
気付けば、掛け替えのない大切な人になっていた。
そして、心を預けられるほど安らげる場所にも。
「なあ……一緒に暮らして、初めて雪が降った日のこと、覚えているか?」
年を越した頃、ふと窓の外を見たら雪が降っていた。
それを二人で静かに眺めていたのを思い出す。
「俺は……雪が嫌いだった」
施設にいた時は庭に出してもらえなくなるし、外で暮らしていた時は寒いだけだった。
凍えながら、ダンボールにくるまっていたのを思い出す。
「でも、ここでアマテと観る雪は、生まれて初めてキレイだと思えた」
気付いたのは、いつのまにか自分にあった心の余裕。
四季を楽しめるほど、心が癒されていたことに気付いた。
それは、アマテラスと一緒に、普通の生活を目指して成長した結果。
最初はママゴトのような暮らしだったけど、そのうち本当の家族と暮らすような感覚になっていた。
「俺はいつまでも、お前とキレイな空を観ていたい」
穏やかで優しい日々を、彼女と一緒に。
「だから、これからも俺の隣にいてくれないか?」
いつか、世界の終わりが来る日まで。
「……ホンシア」
チャイナ服を着た、薄紫の髪色をした美人。
いつも俺を守ろうとしてくれる、頼りになる師匠。
「俺は気付けなかった……お前の気持ちに」
きっと、テラと戦ったあの日から想われていた。
あれを切っ掛けに、気の交流式マッサージが始まったのだから。
「ずっと、伝え続けてくれていたのにな」
俺を強くしたい、守りたいという気持ち。
俺への想いを秘めた、切ない気持ち。
それはホンシアの手のひらを通して、ちゃんと伝わっていた。
「それに俺がアメリカで死にかけた時、確かにお前は守ってくれたんだ」
サイラスやエレノアの攻撃を受けたあの時。
自分だけのオーラでは防げなかった。
そこに感じたのはホンシアの気配。
「心が傷付いた時も癒してくれた」
失恋して情けなく泣いていた時、手を握り、支えてくれた。
俺を励まそうという気持ちが伝わった、あの温もり。
それにどれだけ救われたかわからない。
「俺に、その手を……この先もずっと握らせてくれないか?」
俺を守ろうと必死に掴んでくれる、あたたかな手を。
「……マリア」
純白の修道服に身を包む、ピンクゴールドの髪をした、神聖さを宿す少女。
「お前はいつも大袈裟で、騒がしくて、素直じゃない」
出会った時からそうだった。
「だけど……誰よりも俺を支えようとしてくれた」
叱咤し、激励を繰り返し、前へ上へと連れて行ってくれる。
「俺に色んな知識を与えてくれて、アキラに近づく方法を教えてくれた」
その小さな体に宿る、全てを懸けて。
「そんな頼りになるお前が、ふと見せる寂しさ……」
強いようで不意に脆さを見せる姿。
「それを愛おしいと思っていた」
自分と重なって見えたから。
「そしてもう、マリアに寂しい想いをさせたくないと思えたんだ」
そばに寄り添い、支えてあげたいと。
「お前は言っていたな……自分より先に死なないでって」
マリアの本心。
きっと何よりの望み。
「俺は必ず叶えるよ……だから一緒に生きてくれないか?」
互いの命が尽きる時まで。
三人の女性へ、同時にするプロポーズ。
あまりにも身勝手な言い分。
だけど心の内を全て曝け出した。
嘘偽りなく伝えた言葉だった。
呆れられても仕方がない。
殴られるのも当然だ。
不器用の一言で、片付けて良い問題でもない。
でも、こうするしかなかった。
俺は、彼女たちが、どうしようもなく好きだったから。
断罪されるのを待つように目を瞑る。
告げられるのは別れか、それとも罵りか。
その答えは、すぐに出される事となるだろう——。




