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恋のドウテイはいつも険しい

 アマテラスが住むマンションで、姉妹三人が揃ってソファーへ座っていた。

 

 この部屋の住人である拓人はいない。

 哲夜と少し話があると言って、彼女の家に残ったのだ。

 

 部屋に漂う空気は和やかだった。

 三姉妹は、新しく生まれた妹の話題で盛り上がっている。


 この時、誰も気付いていなかった。

 後に起こり得る、修羅場の可能性に。



「赤ちゃん可愛かったね、来月には雪乃たちにも生まれるって」


 アマテラスが、それを楽しみにしてると口にした。


「もうそんな時期ネ、時が経つのは早いヨー」


 ホンシアが、しみじみと思いに(ふけ)る。


「幸江が言っておったわ、生まれる御子は男子であろうとな」


 マリアが、連絡を取っている弟子の話題を上げた。


「幸江は男の子なんだ、私はどっちがいいかな?」


「我はどっちでもイイネ!ちゃんと強い子に育てるヨ!」


「ふむ、性別など些細なこと、妾は等しく愛してみせようぞ!」


 ニコニコと笑い合う姉妹。

 だが、子供を作ろうとしている相手は同じなのだ。


「そういえば、父君(ててぎみ)も結婚するみたい、プロポーズするって」


「タクから聞いたネ、ビックリしたヨ!我も負けてられないネ!」


「それは初耳ですが目出度きことですな!妾もお父様と同時期に出来るなんて喜ばしい限りです」


 和やかに話は進む。


「さっきの哲夜、真剣だったね」


朋友(ポンヨウ)を想ウ、尊い気持ちが伝わったヨ」


「テツヨは大した者ですぞ!以前、命を賭して妾に向かって来たことを思い出しました」


 三人の話が本題に入りだす。


「あのお願い……ちゃんと(こた)えてあげたいな」


「もちろんヨ!哲夜は共にテラと戦った朋友ヨ!しっかりと応じるね!」


「応えますとも!妾はとうに覚悟が出来てますゆえ」


 娘たちはそれを受けると口にする。


「でも……拓人はどう思ってるかな?」


「確かニ……あの後、なんだか落ち着きが無かったネ」


「おそらくは今頃、友に相談しておるのでしょう」


 そして、彼の今後の行動に思いを馳せた。


「なに相談してるのかな?」


「流れから考えるト、当然結婚のことヨ」


「うむ、プロポーズの仕方を考えておるのでしょうな」


 拓人はもうすぐ帰って来るだろう。


「なら……されちゃうのかな?」


「アイヤー……緊張するヨ」


「わ、妾はそんな…………うん」


 彼を受け入れる覚悟はある。

 求婚してくれたら、喜んで受けるだろう。

 

 それでも彼女たちは緊張を帯びていた。

 待ち望んでいるけれど、どこか不安がよぎるような心持ちで。


 恋に気付いた者、恋を抱いていた者、恋を知った者。

 彼女たちの初恋の行方は、彼のみが決められるから。

 

 彼がどのような選択肢を選ぶのかをそれぞれ考えてしまい、言葉数が減っていった。


 そして、決定的な話が出ないまま、玄関の扉が開く。


 テーブルの上に並べられてお茶は、すでに湯気を失っていた。

 だが、彼女たちの想いは、部屋の温度すら上昇させるほどに、熱く煮えたぎっている。


「……ただいま」


 溜まった熱の向かう先。

 それが今、姉妹の目の前に現れた。



 拓人は部屋にいる三人を、気まずい思いで見ていた。

 先ほど哲夜の言っていたことが、頭から離れないからだ。


 『たぶんアイツら、オマエに惚れてるぞ』


 哲夜は、人のことなんて考えない傍若無人を絵に描いたような奴だから、その評価は当てにならない。


 だけど、言われてしまえば意識はする。

 すると、今までの彼女たちとのやり取りで、思い当たる節が出て来てしまった。


 アマテラスが、毎日俺を気遣ってくれる態度。

 人より怖がりなのに、俺を必死に守ろうと勇気を出してくれること。

 ふとした時に、幸せそうに俺を見ている顔。


 ホンシアが、マッサージをしてくれる時に流れてくる気には、俺への想いが込められている。

 それは、温かさと切なさが入っているように感じていた。

 俺が失恋するたびに握ってくれる手には、少しでも傷付いた心を救おうという必死さが伝わった。


 マリアは、俺の世話を何かと焼いてくる。

 でも、その時だけは普段のカリスマ性は無くなり、見た目通りの少女になる。

 騒がしく、素直じゃない、恥ずかしがり屋な女の子に。

 心にいつも寂しさを抱えている彼女が、俺に泣いて縋った時。

 打ち明けてくれた本心は、俺に向けての言葉だった気がする。


 思い返される彼女たちの行動は、確かに自分への愛情を感じられるものだった。


 昔、繰り返し見させられた教育番組では、『断られたらしつこくしてはいけません』としつこく教えられた。

 それのせいか、最初に見合いを断られた時点で、彼女たちを恋愛対象から外していた。


 今、あらためて彼女たちを見ると、その美しさと優しさ、そして一緒にいる時の楽しさに気付く。


 それは十分に恋をする理由になった。

 いや、すでに恋をしているかもしれない。

 

 彼女たちといる時に、胸のトキメキは何度も起きていた。

 それを性欲だと勘違いしていた部分もある。


 もし付き合って貰えるなら、普通に嬉しい。

 というか付き合いたい。


 手を繋いだり、チューしたり、結婚したり、棒を使ったり。

 

 あれ……?夢叶っちゃうじゃん。

 

 それ、いいな。


 よし、告白しよう。

 哲夜の勘違いだとしても、三人いるんだから、誰か一人は付き合ってくれる気がする。

 なんか自信出てきた。


 上手くいけばアキラとの約束も果たせる。

 それに振られたって、もともと一度断られてるし、関係が壊れるわけじゃないだろう。


 俺は覚悟を決めて、咳ばらいをしてから想いを伝える。


「あ……あのよ」


 頭を掻きながら三人を見てみると、その視線が熱かった。

 並みの熱量じゃない。

 下手すると視線で人が焼けるくらいの。


「……考えたんだけど」


 あれ?


「……結婚を前提に付き合って欲しいって思ってるんだ」


 その熱視線で気付いたんだけど。


「どうかな?」

 

 二人以上が応えてくれたらどうしよう。


 あまりにも振られ続けていたから、その可能性を考えず口にしていた。

 これ、個別に言った方が良かったんじゃないか?


 ていうか、勢いで言っちゃったけど、初めてするまともな告白がこれってマズくないか?


 ヤバイ、色々と考えが足りてなかった。

 恋愛経験の無さが、判断を誤らせていた。


 大事なことを勢いでするもんじゃないって知っていたのに。


 全員に振られるのはまだいいけど、今までの良好な関係まで壊れるのは嫌だ。


 どうしよう、泣きそう。

 なんとかして言ったことキャンセル出来ないかな?


 俺は恐々と前を見てみる。

 すると、目の前の顔には喜びが浮かんでいた。


 だが、その笑顔は三人のものだった。


 

 涙を浮かべながら拓人を見る六つの瞳は、先ほどよりも熱く強く、光り輝いていた——。

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