友の願いは誰が叶える
哲夜の住むマンションへ、出産祝いを持った拓人と三人の女性が来訪していた。
拓人と二人暮らしだった時の殺風景だった部屋は、大量の赤ちゃんグッズで埋め尽くされている。
五人はソファーに座り、哲夜の胸に抱かれている赤子をにこやかに見守っていた。
「……赤ちゃん……かわいいな、名前はなんて付けたんだ?」
拓人が目じりを下げながら、新生児をじっと眺めている。
「明理だ、アキラとオレの子供だからな!きっと最高に賢いぞ!」
哲夜は大事そうに生まれたての我が子を胸に抱く。
その姿はすっかりお母さんになっていた。
「か、髪の色、きれいだね」
アマテラスが赤子のキャラメル色の髪の毛を見て、目を輝かせる。
「爸爸ノ子なラ、きっと強くなるネ!」
ホンシアが将来を期待していた。
「神の子は世界の宝よ!哲夜!大儀であった!」
マリアが新たな御子の誕生へ、祝福の言葉を贈る。
「……アカリちゃんか、きっと美人になるんだろうな」
拓人が、確定しているであろう未来の予測を口にした。
「当然だ!まあ……健康に育ってくれればそれでいいがな」
哲夜は雰囲気に加え、考え方まで変わったらしい。
あれだけ外見至上主義だったのに、子供にそれを求めていなかった。
「……生活に不便はないか?手伝うことがあるなら何でもするぞ」
アキラも来てはいるようだが、一緒には暮らしていない。
拓人は、新生児を抱えての一人暮らしを心配していた。
「ありがたいが、アキラの造ったホムンクルスがいるから、正直まったく困っていない」
視線の先には、ショートカットの白い髪の女性が、無表情で立っていた。
アキラの家にもよく似た女性がいる。
この人たちは、魔法で作り出された人工生命体らしい。
「というか、アキラがホムンクルスを造れるなら、最初からオレに一体くれれば良かったのによ……」
哲夜が不満げに口をすぼめる。
「……そうしたらお前、ろくなことに使わなかっただろうが」
理想の女体が手に入った哲也が、その欲をぶつけるのは目に見えていた。
「まあ、おかげでこの子に会えたし、結果としてはこちらの方が良かったな」
哲夜は、我が子を見つめながら優しく微笑む。
どうやら彼女にとって、我が子はとても大切らしい。
「……安心したぜ、お前が子供をちゃんと可愛がっていてよ」
「アキラの子だからな、それだけで愛おしく思うんだよ」
自分の子というだけなら、親の愛情を知らない彼女には可愛がれなかったかもしれない。
だけど、愛する人の子供は、アキラと同じくらい愛すことが出来ていた。
「で、オマエの方はどうなんだ?」
哲夜はアキラとの約束を叶えた。
次は拓人の番だろうと暗に示す。
「……なかなか上手くいかなくてよ」
拓人は情けない顔をして頭を掻いた。
「そうなのか?それにしてはずいぶんと親密な気がするんだが」
その視線は、三人の女性に注がれていた。
女性たちは、赤ちゃんに夢中でそれには気付いていない。
哲夜は、拓人とアキラの娘たちとの距離感を不思議に思っていた。
三人とも、彼に対して恋人のような接し方をしている。
アマテラスとは初対面だったが、前に拓人とあった時、同居していると言っていた。
見合いは断られたが、気の合う女友達が出来たと。
マリアとホンシアのことは知っている。
だが、出会った当初を思い出すと、拓人に対する二人の態度は半年前と真逆のような親密さだ。
そこに突っ込んでいいのか判断がつかなかった。
普段なら何も遠慮せず直接聞いていたが、自分のせいで姉妹の関係が壊れてしまうのは申し訳ないと思った。
三人とも彼を大切に思ってそうだったので、慎重に聞く必要があった。
「なあ、オマエら姉妹って仲いいんだよな?」
とりあえず、拓人のために探りだけでも入れておこう。
自分だけアキラとの約束を果たして、友人が困っているのは流石に見過ごせない。
「当然のこと!神の子の絆は、テラですら断ち切れんほど固く尊いものよ!」
マリアが背筋を張り、光り輝く魔力を漲らせ宣言する。
「その通りネ!長い年月、支え合った姉妹ヨ!命を懸けてでも守るネ!」
ホンシアが白金のオーラを滾らせ、拳を手のひらで包む抱拳礼をした。
「あたりまえだよ!私はお姉ちゃんだから、みんなが危ない時は助けてあげるんだ!」
アマテラスがその大きな胸を張って、姉としての姿勢を示す。
オレは三人の様子を見て安心した。
「そうか、それだけ仲良いなら大丈夫か」
固い絆ってのがあるなら、拓人のことでそこまで拗れることはないだろう。
三人の中で誰か一人を拓人が選んだとしても。
「……オマエらの中で、誰か拓人と結婚して子供を作ってくれるヤツはいないか?」
思い切って切り出してみた。
友の願いを叶えるために。
「すぐにとは言わない、考えてみてくれるだけでもいい……頼む」
我が子を抱いたまま真剣に頭を下げる。
「お、おい哲夜!急になに言ってんだ!」
拓人は慌てているが、オレは本気だった。
コイツは不器用で鈍感な馬鹿だ。
でも、純粋で真っ直ぐな奴で、オレの大事な友達だ。
そして、アキラとの約束を守りたいと心から願い続けている。
その気持ちは誰よりも理解していた。
拓人はオレが見る限り、少なくともこの三人に対して好意は持っている。
この半年で作った関係も良好なようだ。
なら、知らないアキラの娘とお見合いするより、この三人の誰かの方がいい。
コイツは童貞だから、女に免疫がなく惚れっぽい。
ちょっと前にも誰かに惚れたと言っていたし、オレなんかにまで顔を赤くしてたくらいだ。
おそらく、一度見合いを断られたせいで、彼女たちへの恋愛感情に蓋をしているだけだ。
これほどの美女たちなら、意識さえすればすぐに好きになるだろう。
「わかっておる!そなたとは命を懸けて戦った仲ではないか、みなまで言うな」
マリアが全てを理解しているような顔で、慈愛の微笑みを浮かべていた。
「そうネ!我は哲夜を認めてるヨ、その言葉は重く受け止めるネ!」
ホンシアが深く頷いて、任せろと胸を叩く。
「た、拓人は大事な友達だし、わ、私に任せて!」
アマテラスが焦りながらも必死になって答えてくれた。
拓人は、三人の様子を呆気に取られたような顔で、言葉も出せず眺めていた。
「フン……よろしく頼んだぞ」
どうやら拓人の願いは無事に叶いそうだ。
誰が結婚してくれるかはわからんが、きっと話し合って決めてくれるだろう。
あとは姉妹の絆を信じて託すことにする。
オレは心から願ってるぜ。
オマエの幸せをな——相棒。
こうして、哲夜の願いにより、事態は急速に動き出す。
アキラの娘たちの気持ちは固まり、話し合いの場が設けられることとなった。
きっとそこでは、姉妹の絆と拓人への想いが試されることだろう。




