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神への道は今より始まる

 CIA本部では、老執事と拓人が戦いを始めていた。

 執事はエレノアを守るため、拓人は文翔を守るため。


 二人の拳が交差した瞬間、お互いの守護対象が目を覚ました。


 

「オマエたち!おやめ!もう勝負は着いたよ!」


 エレノアの声がホールへ響く。

 それを聞き、二人の拳がお互いにぶつかる寸前で止まる。


 文翔がエレノアに触れてから、まだ十秒も経っていない。

 ただ、精神世界では時間の経過がほとんどないから、向こうでどれだけ過ごしたのかわからない。


 二人に何が起こったのかも。


「大蔵!大丈夫か!?」


 俺が声を掛けると、文翔はいつもの爽やかな笑みを浮かべた。


「ええ、おかげさまでプロポーズは成功しました」


 よかった、どうやら当初の計画通りに進んだらしい。


 この場所に向かう途中で、大蔵はエレノアの精神世界に入りたいと言った。

 そこで彼女を口説き落とすと。


 正直、こんな性悪クソババァを口説くなんてどうかしてると思った。

 だが、いつもの爽やかな顔じゃなく、獰猛な野心を見せる真剣な瞳を見たら、それを叶えてやりたいと思った。


 マザコンだって言ってたしな。


 『その時が来たら、あの老執事を足止めして下さい』


 頼まれた約束だけを頭に置き、瞬時に動いた結果、文翔は無事に願いを叶えたらしい。


「アンタたちも、いつまでそんな物騒な物を向けてるんだい!」


 エレノアが、周囲の警備員に向けて英語で怒鳴りつける。


「フミアキは、|Prime Miniプライム sterミニスターof Japanになる男だよ!国際問題を起こす気かい!」


 英語の勉強をしていたから、ある程度は聞き取れる。

 ただ、聞きなれない単語があって意味がわからなかった。


「……なあ、プライムミニスターってなんだ?」


 隣へ来た文翔にこっそり聞く。


「首相とか政府の長という意味です」


 文翔が首相になるってどういう意味だろう。

 俺の不思議そうな顔を見て、文翔が言葉を続けた。


「私は近いうちに、日本の内閣総理大臣となります」


 総理大臣ってあれか、日本のヘッドだよな。


「……随分と偉くなるんだな」


 俺と大して年が離れてなさそうなのに、大したもんだ。

 でも、そう言われると、確かにドッシリとした威厳みたいなものを感じる。


「安藤君だって、Rodの教祖じゃないですか」


「……あれはマリアが勝手に言ってるだけだ」


 教祖の自覚なんて欠片も持ってない。


「いえ、マリアさんは貴方のことを、手放しで褒めていましたよ」


 マリアは色々と大袈裟だからな。


「先日、彼女とお見合いをさせて頂いた時、日本の首相程度じゃ釣り合わないと一蹴されました」


 言いそう。

 気位が高過ぎるんだよな。


「安藤君のように高い目標を持てと」


 買い被りすぎだ。

 初めて憧れたのがアキラだっただけなのに。


 大体、マリアは意地っ張りで素直じゃない。

 長年の堅苦しい生活がそうさせてるのだろうけど。

 

 この前も、人がせっかく本部に手土産持って行った時も、ブーブー文句言いやがった。

 やれ、妾に市販品を献上するなんて不敬だとか、貢物なら常に身に付けられる物を持って来いだの、我儘を言う。


 それでも結局、俺がコンビニで買ったプッチングプリンを、目を輝かせて食べていた。


 本心を口にしないのはアイツの悪い癖だ。


「その時のマリアさんの言葉のおかげで、エレンを口説き落とせましたよ」


「え……どういうことだ?」


 目標が低いという罵倒が、今回の事とどう繋がるのだろう。


「私は国という物に捉われていました」

「でも、アメリカを支配する女性には、日本を手に入れても届かない」


 まあ、エレノアと対等になりたいなら足りなそうだ。


「しかし、マリアさんの言葉で、月を手に入れることを思い付いたんですよ」


「……はぁ?マジかよ」


 頭のネジがぶっ飛んでやがる。


「はい、彼女の望みにも沿っていましたし、アキラと話し合って任せてもらいました」

「それをエレンにプレゼントすることで、結婚を受けて貰えたのですよ」


 ひとりの女のために、星を贈るってのか。


 いいな、それ。


「……お前……カッコイイじゃねぇか」


 素直に口から出ていた。

 

 まだ出会ってからそんなに日も経ってない。

 だけど、何度も助けて貰い、信頼して背中を預けた。


 頼りになるだけじゃない。

 こいつは尊敬できる人間だ。


「安藤君には負けますよ、僕にテラへ挑む勇気は有りません」


 あれは勇気じゃない、ただ意地を張っただけだ。


「……拓人でいい」


 頭を掻きながら手を出した。


「なら私のことも文翔と呼んでください、話し方は癖なので変えませんが」


 文翔は、俺の手をしっかりと握り、爽やかに笑った。



「それで、アンタたちの望みはネメシスの情報を消去することかい?」


 エレノアが、ロビーにいた職員や警備員を解散させて俺らに問いかける。


「ええ、出来ればSCPR計画も見直して頂きたい、サイラスのクローン計画も」


 文翔が、まだ生まれていない、サイラスのクローンを廃棄するように求めた。


「いいよ、まだ着床させてなかったからね」


 エレノアは頷き了承した。

 だが、それだけじゃ気が収まらない。


「あと……サイラスたちに謝れよ」


 俺は瞳に怒りを宿し、謝罪を求めた。


「何を謝るってんだい?」


 エレノアは、微塵も悪びれず腕を組む。

 その姿を見て頭に血が昇る。


「サイラスと兄弟、そしてフォンリンを道具みたいに使い捨てたことをだ!」


 許されることじゃない。

 人を人と思わず、自分の目的のために道具とした。

 ましてや自身の子供と言っても良い存在をだ。


「ハッ!何が悪いってんだい」


 吐き捨てるように言って胸を張るエレノアに、憎しみすら湧いた。


「悪いに決まってるだろうが!サイラスたちがどれだけ苦しかったと思ってんだ!」


 サイラスの過去を見て、彼らの苦悩を知った身としては、それを指示したエレノアを、そう簡単に許せるはずがない。


 俺の怒りを受け、エレノアは組んでいた腕をほどき、ロビーの一部分へ向け静かに指を向けた。


「……そこの壁を見てみな」


 指が差された場所にあったのは、大理石で出来た美しい白い壁。

 そこには無数の星が刻まれていた。


「その星は、この国を守るために死んでいった人間たちだよ」


 壁の下には本が置いてあり、そこには大勢の名前が書き込まれていた。

 だが、任務の特性上、名が空欄となっているものも数多くあった。


「死んだアイツらの星も、そこにある」


 サイラスの兄弟たちが生きた証。


「この壁に刻まれた人間は、この国に生きるたくさんの人を救うために命を賭した」

「それを否定することは、彼らを侮辱するってことだよ」


 サイラスの兄弟たちだけではない。

 この国のために指令をこなし、命を失った人々。

 

「……それは確かに立派なことだ……だけど、みんなは自分の意思でやってなかった!お前らに強制されて人を殺してたんだ!」


 その道を自ら選んだか。

 それが大切なんじゃないのか。


 エレノアは鋭い目で俺を見た。

 

「ならお前は、親を選んで生まれたのかい?」


 返された言葉が胸に突き刺さる。


「人は生まれを選べない……アタイもそうだった」


 深い皺が、彼女が乗り越えてきた苦難を物語っていた。

 

「だったら、その人生を必死に生きるしかないんだよ!」


 その年輪を歪ませて、俺に怒号を叩きつける。


 生まれで全てが決まる現実。

 言われてみればその通りで、実際自分がそうだった。

 

「……でもよ……そんなの悲し過ぎるじゃねえか」


 まともに言い返すことも出来ずに、力なく呟く。

 肩を落とした俺の背中を、サイラスがそっとさすってくれた。


「ありがとうタクト、もういいんだ」


 自分の方が辛いはずなのに、俺の気持ちを汲んでくれる。


「ぼくの兄弟は確かに苦しんでいた」


 柔らかさの中に、確かな強さを宿した声。

 

「だけど、自分の任務で誰かが救われていることも教えて貰っていた」

「それを支えに、必死で任務をこなしていたんだ」


 そこに多少なりとも自分の意思があったと告げる。

 

「確かにぼくの兄弟は生まれを選べず死んでしまった」

「でも、彼らの魂はここにあるから」


 サイラスは、自分の頭を指差す。

 

「ぼくはこの先も兄弟と一緒に生きていくよ」

 

 その瞳には、もう諦めの色は一切なかった。

 強い光を宿し、しっかりと前を見据えている。

 

「……サイラス」


 それでも納得が出来ず、握った拳を震わせた。

 理不尽過ぎる現実に、思わず涙が零れてしまう。


 俺の情けない姿を見たエレノアが、真剣な声で告げる。

 

「そんなに気に食わないなら、アンタがテラを倒した上で、人同士の争いを無くしてみな」

「国の争わない平和な時代ってのを造り出せば、アンタが思う悲劇はほとんど防げるだろうよ」

 

 生まれで決まる悲劇。

 それを無くしたいと思った。

 

「何もしないで文句しか言わないのは、卑怯者のすることだよ!」

 

 なら何をすればいい?

 

「少なくとも、Daddyはテラが現れる前に、神としてそれをやってのけたよ」


 マリアが話してくれた、人類神としての役割。

 アキラは百万年もの間、人の大きな争いを無くしていた。


 そのことで、人は増え、広がり、進化していったらしい。

 

「ここじゃ出来ない話もあるし、屋敷へ戻ることにするよ、ついて来な!」


 俺の悩む姿を見て、エレノアが移動を促した。


 

 拓人は黙って従うしかなかった。

 だがその時、彼の胸の奥には、新たな覚悟の種が、確かに芽生えていた——。

挿絵(By みてみん)

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