表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

256/259

地球を眺め、愛を語る未来

 エレノアの精神世界。

 静寂が広がる白い空間で、文翔はエレノアと向かい合っていた。


 

「小僧……よくもアタイの精神に入ってくれたね……魂を消される覚悟は出来てるのかい?」


 エレノアは、怒りを帯びた瞳で睨みつけてくる。


「不躾ですみません、しかし必要なことだったので」


 精神世界では嘘が吐けない。

 だからこそ、危険を冒してまでここを見合いの場として選んだ。


「人の過去まで覗いて、何がしたいんだい?」


 エレノアの人生、それを私は事前に知っていた。

 師匠に聞いていたからだ。


「クソッ!あの性悪亀がアンタに教えたのかい!」


 思考が相手に伝わっている。

 ここでは思考を隠すことは出来ない。


 そう、私は九星の使徒である、アーカイオスに弟子入りしていた。


「師匠は確かに性格が悪いですが、面倒見の良い優秀な先生ですよ」


 性格にまるで似合わない、可愛らしい陸亀の姿を思い出す。

 魔眼、魔力の操作、相手の記憶や魂への干渉方法などの修行を、アキラの家で師匠に教えてもらった。


 精神世界では時の進みがほとんど止まる。

 それを利用して、実感で二百年以上の時を亀と過ごし、今の知識と力を身に付けた。


 寿命を削るような厳しい修行だったが、この身に宿した覚悟がそれを可能にさせた。

 だが、本当の試練は他にあった。


 アキラの指導だ。

 

 私の精神の中で、十年に一度訪れたアキラの指導は、死すら生温いほどの苛烈さだった。

 

 もちろん本人にはそのつもりがない。

 ただ純粋に、私の成長を喜ぶ愛のある指導。


 そのなんと恐ろしいことか。


 師匠の話では、本来なら千年かかる修行だったらしい。

 だがアキラの訓練のせいで、二百年で終わってしまった。


 八百年分の苦痛をまとめて受けたと言えば、その(むご)さを察してもらえると思う。


 だが、そのおかげで、私は様々な力を使えるようになった。

 今使っているサイコダイブという魔法もその一端だ。


 魔力があれば、それぞれの身に宿った簡単な魔術はすぐに使える。

 だが、魔術を魔法の領域にまで高めるには、なんらかの代償が必要だ。

 それは、普通に生きるのが困難になるほどの才能であったり、辛く長い修行であったり、魂を揺さぶるほどの出来事だった。


 私は魔眼という才能と、師匠との長い修行と、アキラの魂を壊すような指導で魔法を手に入れた。


 そして魔眼は、魔力の補助動力としても機能してくれる。

 これがあったからこそ、実力では到底敵わないエレノアの中に入れた。


「御託はいいよ、さっきから用件を述べろって言ってるだろう?」


 短気な人だ。

 だが、絶対的な指導者というのはそれでいい。

 他者を顧みる必要がないのだから。


 私は緊張をほぐすように深く息を吸い、告げた。


「私と結婚して子供を産んで下さい」

 

 この場でないと伝わらないであろう本心。

 

 現実世界で言っても、まともに取り合ってもらえないことはわかっていた。

 だからこそ、最初から精神世界で話すつもりだった。


「その言葉、本気だったのかい!?」


 嘘偽りのない言葉。

 心から告げるプロポーズ。


「……何が目的だい?」


 現実世界と同じように訝しがっているが、本気だということだけは信じてもらえた。


「私はアキラと約束をしました、彼の娘と結婚して子供を作ると」


 魂を懸けた誓い。

 何としても叶えると決めた約束。


「なるほどねぇ……Daddyとの約束かい」


 エレノアが、腑に落ちたように頷いた。


「私はそのために、アキラの娘さんとのお見合いを、今まで三人と行いました」

 

「アネキたちとかい?」


 頭に思い浮かべた三人の女性。


「ええ、アマテラスさんは目を合わせてくれず、マリアさんは(こころざ)しが低いと見限られ、ホンシアさんには弱過ぎると切り捨てられました」

 

 アキラの娘は揃って個性的で、その魂は強く輝きを放っていた。


「ハッ!そりゃ難儀だったね、全部断られて仕方なくこのババァに目を付けたってわけかい」


 ニヤリとした笑い顔は、こちらを(あなど)っているようだった。


「いいえ」


 それをキッパリと否定する。

 

 確かにアキラは、自分の娘と子供を作って欲しいと言っていた。

 だが同時に、お互いが好みだったらとも言った。

 

 彼は、自分の人生を懸けた目的よりも、私と娘たちの幸せを第一に考えてくれていたのだ。


「どういうことだい?」


 簡単なことだ。


「エレノアさん……貴女が私にとって、一番好みの女性なのですよ」


「な、何を言ってるんだい!」


 エレノアの声が震えた。


 怒りではない。

 理解できない感情に心が追いついていない震えだとわかった。

 

 アキラの娘たちの話を師匠に聞いた。

 

 アマテラスは野望を持たずただ生きている。

 マリアは父の為に信仰へ生きている。

 ホンシアは復讐に囚われ生きている。

 

 だが、師匠から詳しく聞いていたエレノアという人物は、野望に生きていた。

 

 自分の恐怖を消す為だけに、国を造り利用する。

 その為に、人を人と思わず屈服させていた。


 自身の望みを叶える為なら、戦争で人が何人死のうが構わないという覚悟を宿した魂。


 会ってみたいと思った。

 

 知れば知るほど興味が湧く女性だった。

 恋焦がれていたと言ってもいい。

 その魂の色を、直接視たいと願っていた。


 そして、先ほど実際に会って、衝撃を受ける。

 今まで視た中で最も黒く激しい輝きを放つ魂は、私の瞳へ強烈に焼き付いた。


「一目惚れってやつですよ」


「ば、馬鹿言ってんじゃないよ!」


 エレノアの声が裏返る。

 支配者の低い声ではない。

 ただの動揺した女性の声。

 

 それを聞いて一歩近づく。


 この告白のために、命懸けでソウルダイブを使った。

 

 相手の同意が無ければ、精神世界で魂を消される危険のある魔法だ。

 相手の魂が強ければ強いほど、その危険度は跳ね上がる。


 だが、全てを懸けてでも、この告白がしたくて彼女の中に飛び込んだ。


貴女(アナタ)の魂は美しい……」


 命懸けの告白。

 人生で初めての恋。


「私の初恋は貴女です、エレノア」


「そんな……」


 自分の中で滾る情熱は本物。

 彼女の言葉を止めるほど、真剣な眼差しを向ける。


 無防備な裸の心で、彼女が欲しいと訴えた。


「貴女が好きです、結婚してください……エレン」


 その名を呼んだ瞬間、エレノアの頬が赤く染まった。

 こちらも顔を紅潮させ、感情を思念で愚直に伝え続ける。


「ア、アタイはもうババァだよ!子供だって産めやしない!」


 彼女の心の揺れを知った。

 それだけで、こちらの心も弾んでくる。


「私は精神世界で、もう二百年以上の時を過ごしています、三百歳となら釣り合うと思いませんか?」


 年や外見なんて問題ではない。

 私にとって、魂の在り方こそが人の魅力。


「それと、安心してください、アマテラスさんから指を預かっています」

 

 その意味を知り、エレノアの目が大きく開かれる。


 エレノアは、アマテラスのために二度もマンションを買い与えていた。

 アマテラスはそのことに深く感謝しており、妹への恩返しのために自ら指を落としたのだ。

 

 その指は、現実世界の文翔が持ってきている。

 もちろん、プロポーズを断られても渡すつもりだった。


「これを体内に入れれば、体は若返るようです」


「アネキ……」


 アマテラスは、同じ父を持つ姉妹として特別な存在だ。

 

 アルの子供として助け合うのは当然。

 それに、世界で五本の指に入るほどの資産家であるエレノアにしてみれば、あの程度大した金額ではない。

 

 その対価とてしては、あまりにも不釣り合いで望外なお返しだった。

 心の弱いアマテラスが、勇気を振り絞って自分のために行った行為。

 

 その行為を想い、エレノアの心が再び揺れる。

 

 自由の女神、鋼鉄の女、絶対支配者。

 彼女の異名は数限りない。


 それでも人で、女性だった。


 人間らしさも、弱さも持っている。

 だから、そこを責めさせてもらう。


 彼女を口説くために用意したことはふたつ。


 ひとつは嘘偽りのない恋心。


「そしてもうひとつは、貴女の望みを叶えることです」


「さっきも言っていたね……テラから守るだって?」


 そんなことは不可能だという、彼女の思考が伝わってくる。


 その絶望の深さも。


「はい、取り引きのようで申し訳ないのですが、私はそうやって生きてきました」


 自分が歩んできた人生の記憶を、エレノアに流し込む。

 それは価値観も含めて、どこか彼女と似ているもの。

 

「私はテラを倒せません、安藤君のように立ち向かうことすら出来ないでしょう」


 アキラの家で見たテラという存在。

 二百年掛けて魔眼を鍛えるまで、直接視ることすら許されなかった。


 その魂の光は、視ただけで脳が破壊されそうになる。


 巨大な星を頭蓋骨に押し込まれるような苦痛。

 魂が、彼女の存在を拒絶した。


「テラの存在は地球そのもの、この地に生きる限り、彼女から逃れるすべは在りません」


 それは地球における生命の宿命。

 この星は、テラとアキラのためにある。


「だから、地球を捨てます」


「ハァ!?なにを言ってるんだい……?」


 驚くエレノアに、微笑みながら切り札を出した。


「月に都市を造り、そこへ貴女を招待しますよ」


 たとえ倒せても、必ず復活する存在だ。

 ならば、手の届かないところまで逃げた方が現実的だと思った。


「今、私たちは太陽を創る計画を練っています」


 アキラが語ってくれた、途方もない話を思念で伝える。


「Daddyが太陽になるはずだったってのかい……それを拒否して新たに星を創造するなんて……」


 異次元過ぎる話。

 アメリカの支配者であっても、到底叶えられない夢物語。


「そのためには、月の開発が必要になるでしょう」


 星を創るなら、宇宙空間での確認作業は必須だろう。


「ですから、月で暮らせる場所を造ります」


 月に都市を建設する。

 それは星を創るための足掛かり。


「私たちで、その運営を致しませんか?」


 テラは、食べ物の無い場所には来ない。

 なら、食糧資源のない月は絶対に安全だ。


「お互いの寿命が尽きるまで、安寧の場所で、ゆっくりと愛を語りましょう」


 片膝を着き、半透明の手を差し出す。

 

「それに、私はマザコンです……年上の女性に惹かれるのは道理だと思いませんか?」


 これで、私の打てる手は全て。

 あとは貴女が決めて下さい。


 ただ——


「断られても、次の手を考えますけどね」


 力強く向けた視線には、何があっても諦めない覚悟を宿した。


 

 余りにも突拍子の無い話の連続で、エレノアは思考が追い付かなくなっていた。

 

 男から一方的にやり込められる。

 そんなことは生まれて初めての経験だった。

 

 だけど、それが不快ではなく、むしろ——。

 

「……フフッ……フ……フハハ……ハハハハハッ!」


 溢れたのは喜び。

 

 しわくちゃな顔で、大声で笑いながら、涙を流していた。


「……フフフ……男に負けたと思ったのは初めてだよ」


 テラの恐怖から逃れられる。


「泣かされたのも……救ってもらうのもね」


 未来に安心が待っている。


「恋って年じゃないけれど、心の底から気に入ったよ……フミアキ」

 

 私の願いは確かに叶う。


「アンタのプロポーズ……受けようじゃないか」

 

 愛する父から離れても、国を丸ごと使ってでも手に入れたかった安心。

 それをくれるって言うならば、彼に最大限報いようじゃないか。


 感謝を抱きながら、胸に手を当て、静かに名乗る。


「黒き森の魔女、エレノア・ブラックウッド」


 父が名付けてくれたエレノア。

 それは、光という意味の言葉。

 

 母から受け継いだブラックウッド。

 それは、千年生きた伝説の魔女の名。

 

「今日から、ラストネームに、オオクラを名乗らせてもらうよ」


 彼へ敬意と愛情を持って、彼の母から受け継いだ名前を自分の後ろに置く。

 文翔の母から受け継いだ、彼にとって大切な名を。


 支配者としてではなく、一人の女性としての誓いの証。


 エレノアは涙を拭い、心から笑う。

 過去に父の膝の上でも出せなかった、希望を表す美しい笑顔だった。


「さあ、現実に戻るよ……やることが山ほどあるからね!」


 差し出されていた文翔の手を取り、一緒に精神世界から現実へ戻る。

 共に生きることを決めた二人は、未来へ向け歩き出した。

 

 

 こうして、エレノアと文翔は結婚の誓いを結ぶこととなる。

 そのことにより、今後、日本とアメリカは強固に結び付くだろう。


 世界は、アキラを中心として、まとまり始めていた——。

広告の下にある☆☆☆☆☆から、作品の率直な評価をよろしくお願いします。


また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると、ものすごく嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ