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彼女の覚悟は、星の重みを受け止めた

 アキラとの子が望めない。

 その絶望的な言葉を告げられて、蕚は激しく取り乱す。


 

 彼の望みを叶えられない。

 それでは生きている意味が無い。

 

 この身は、彼へ尽くすため。

 

 この心は、彼へ寄り添うため。

 

 この魂は、彼と繋がるため。


 それが叶わぬのなら、いっそ枯れて土へと還るほうがいい。


 だからお願いです、どうか私を救ってください。



 助けを求めるように(すが)る蕚を抱きしめたまま、アキラは髪を掻き上げた。


 「そっか、覚悟があるんだね」


 体を支えられたまま頭を撫でられる。

 愛おし気に、慈しむように。


「僕は、魂を消滅させる技がつかえる」


 きっと、前に話してくれたテラを倒すためのものだろう。


「本来は僕の魂を対価に対消滅(ついしょうめつ)させて、お互いを転生出来ないくらい消し去るんだけど」


 至近距離で、私の濡れた瞳を真剣に見つめられる。


「それを弱めに使って、チトの魂だけを転生可能な状態で殺し、うっちゃんの中から消す」


 そこには悲しみと憂いが映っていた。


「だけど、物凄く痛いよ」


 友を自らの手で殺すこと、そして私に魂の痛みを与えることに。


「……かまいまへん」


 痛みなど、大した問題ではない。

 その先に希望があるならいくらだって耐えてみせる。


「チトはどう?また転生することになるけど」


 私はチトへ意識を渡す。


「問題無い、すぐにアルの元へ帰る」


 彼女は無表情のまま受け入れた。


「それに、これで蕚の望みが叶うなら、嬉しい」


 チトの使命は私の望みを叶えること。

 それをずっと考えてくれていた。


 私の大切な友達。

 私の恩人。


 チトが私の中からいなくなる。

 そのことに寂しさはもちろんある。

 

 だが、私の望みは彼だ。

 それだけ叶えば他には何も望まない。


「……ひとつだけ……お願い申しても、よろしゅうおすやろか……?」


 チトと変わり、望みを口にする。


 黒いワンピースのファスナーを自ら下げた。

 意思を伝える為に、下着も外す。


「どうか……うちと繋がったまま……その術、お授けくださらへんやろか……?」


 一糸纏わぬ姿となって、何も隠さず本心を告げる。


 彼が痛いと言うのだ。

 それは想像を絶するだろう。

 掴まり耐えるための柱が欲しい。


 彼の体で直接支えて貰えれば、どんな痛みだろうとも耐え切れる自信があった。


「わかった、任せて」


 アキラが服を脱ぎだす。

 次々と露わになっていく健康な体。


 あの時は、彼の骨と皮のような体を愛していた。

 だが、均整の取れた美しい体を目にしたら、自然と胸の先端が硬さを帯びてしまった。


 それに伴い蜜が垂れる。


 強壮剤はまだ残っており、それを使うことも考えてはいたが、そんな物が必要ないほどの(たかぶ)りを感じていた。


 ゆっくりと、興奮を確かめるようにベッドへ向かい、彼を待った。


 肌触りの良いシーツの上に寝て、足を開く。

 恥じらいよりも、今は()がれが(まさ)っていた。

 

 彼が裸で私に被さる。

 

 私の(もも)が、彼の腰に(こす)れた瞬間、思わず声が出てしまった。


 まだ何もされていない。

 ただ少し、お互いの体が触れただけ。


 それなのに——。


「うっちゃん、これから行う術は、失敗すると僕と一緒に君も死ぬ」


 耳から入った言葉は、一瞬で熱に浮かされた頭を冷えやす。

 

 途轍(とてつ)もないリスクを告げられた。

 私の望みのためだけに、アキラの命を危険に晒すわけにはいかない。


「だから、僕と、死んでくれる?」


 真剣な彼の瞳。

 そこには決死の覚悟が宿っている。

 

 絶対に駄目だ。

 

 私はどうなったっていい。

 彼と繋がりながら命を落とすなら本望だった。

 

 でも彼の命は、この星よりも重い。

 たとえ転生するとしても、アキラは死ぬ。

 ならば私の望みなんて、叶わなくてもいい。


 私の命では釣り合わない。


(うてな)、君の魂に聞きたいんだ」


 ——蕚。

 

 初めて呼ばれた。

 彼を支えるための名。


 彼と運命を共にする名前。


 アキラの口から紡がれた、新たな呼び名で覚悟を決めた。

 

 今の私では足りない。

 釣り合わない分は、未来の私に払わせる。

 

 私の望みを叶えてくれる、彼の命懸けの行為に、必ず報いる存在となろう。


 それを深く魂に刻んだ。


「……どうぞ……よろしゅうお頼み申します」


 彼が命を懸けるなら、私はこの魂を懸けよう。

 決して後悔はさせない。

 

 今までの行いなど比べようもないほど、強くしっかりと彼を支えてみせる。


「蕚の魂、綺麗だよ」


 嬉しそうに微笑む彼の表情。

 強い光を魅せる瞳は、普段と違い、まるで炎が宿っているようだった。


「いくよ」

 

 私の覚悟を受け、突き入れられた彼の柱。

 それを彼の体ごと、全身で必死に掴んだ。

 

 脳に走る快感と、魂が壊れそうな痛みを同時に感じて、思わず絶叫する。


 すると、口付けと共に、大量の血が口の中に送り込まれた。

 おそらく彼が自らの舌を噛み切って、流し込んでいるのだろう。


 それを舐めていると痛みが和らぐ。

 だから、彼の口内へ舌を伸ばし、夢中で舐めまわした。


 常に頭が破裂するような、激しい痛みが続いている。

 それを、体に刺さった柱の存在を頼りに耐えていた。

 

 どれほどの時間が経ったのかもわからない。

 無我夢中に彼へしがみついていると、不意に喪失感が訪れた。


「嗚呼……消えます!」


 感じたのは魂の消失。

 片割れがいなくなる悲しみ。


 アキラが涙を流しながら、血塗れの口で、私の額にキスをする。

 

「さよなら……チト」


 そこはチトがいたはずの場所。


「チトが……ほんまに消えてしもて……」

 

 痛みの(おさ)まりと同時に、彼女は、私の中から去っていた。


 言葉を残さず。

 ただ、静かに。


 私の願いを確かに叶えて。


「チト……チト……っ」


 切なさが胸を締め付けていた。

 いなくなり、失ったものの大きさを知る。


 チトの魂は小さくても、私にとっては掛け替えのない大切な魂だった。


 いつだって、私のために願いを叶えようと、必死で動いてくれていた存在。

 

 あの声が聞こえない。


 涙がシーツに溢れ続けた。

 彼は優しく私を抱きしめて、耳元で囁く。


「大丈夫、すぐにまた会えるから」


 私の中から、自分の物とは違う体温を感じ始めた。

 柱が、燃えるような熱を帯び始めている。


「だから、僕らは待っててあげよう」


 彼がゆっくりと動き出す。

 私を気遣うように、慰めるように。


「二人で『おかえり』って言うためにね」


 丁寧に、愛を注ぎ込んでいった。


 

 そして、華は咲き乱れる。

 念願の成就と共に、枯れることなく、いつまでも。


 こうして、西園寺蕚は夢を叶え、命を宿す。

 アキラの行為に報いるという想いを強く、抱きしめながら——。

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