その背中を離さない
Rod本部は郊外にあった。
でも、その場所を拓人は知っているという。
自分が生まれてからずっと過ごしていた場所らしい。
アマテラスと拓人は、そこへ向かっていた。
「さ、寒い……無理!」
緊急退避で入った店内、うどんを啜りながら鼻も啜る。
「……だから電車で行こうって言っただろ」
拓人がおにぎりを頬張りながら、ティッシュをくれた。
年が明けてだいぶ経つとはいえ、季節はまだ冬真っ只中。
バイクでの長距離移動が、こんなに寒いなんて知らなかった。
「だって、電車なんて無理……乗れない」
知らない人に囲まれながら移動するとか無理。
酸欠で死んじゃう……不死身だけど。
「……俺もほとんど乗ったこと無いんだけどよ」
拓人は人目に付きやすい。
一緒に歩いていると、それがよくわかる。
慣れているのかそれを気にせず、無遠慮なものには容赦なく睨み返した。
だけど、そのおかげで私には視線が向けられない。
人の視線が苦手な私にはありがたかった。
もちろんマスクと帽子、伊達眼鏡での変装は欠かせないけど。
「……どうする?引き返して家で待ってるか?まだ一時間以上かかるぞ」
心配そうに、鼻をかむ私を見つめる。
でも、挫けるわけにはいかない。
絶対に一人で危ない場所へ行かせたくなかった。
スサノオの時のトラウマが尾を引いてるのかもしれない。
大体、拓人は自分の身を顧みなさすぎ。
テラに挑んだり、父に挑んだり、マリアに挑んだり。
普通死ぬ、生き抜いてるのが信じられない。
ほっとけない。
それが根底にある。
私が付いていけば、イザという時に指でも肉でも食べさせれば、どんな傷でも治せるだろう。
彼を守りたいと思った。
大切な友達だから。
私は死ぬことが無い。
なら庇うことだってできるし、なにより年上のお姉ちゃんだ。
きっと役に立つ。
だって拓人ったら、料理も洗濯も出来ないし、服も綺麗に畳めない。
朝はけっこうボーっとしてるし、シャツを反対に着てリビングに来ることもある。
あと、トイレの鍵の閉め忘れ多い。
初めて開けて居た時は、大声で叫んでしまった。
それと、靴下!
どうやら眠る直前に無意識で脱ぐらしく、布団の中にいっぱい溜め込んでいた。
布団干そうとめくったら、でっかいダンゴムシみたいに十個の丸い塊が出てきて、やっぱり叫んでしまった。
よーく叱って気を付けさせてるけど、いまだに出てくる時がある。
飲み物を少しだけ残して、テーブルに置きっぱなしなのもよくやる。
あと少しっていうのがなんか気になっちゃう。
じーっとコップ見てると、慌てて残りを飲む姿がかわいいから許すけど。
見た目とは違い子供っぽいことろが結構あって、私がちゃんと見ていないと無理。
でも、しっかりしてるところもたくさんあって、なによりいつも私に気を使ってくれる。
それが押しつけがましくなく、さりげないのが嬉しい。
高いところのものを取ってくれたり、ご飯の後は必ず食器を洗ってくれる。
気付いたら掃除もしておいてくれるし、暇そうにしてるとゲームの相手もしてくれる。
気が向いた時に、お互いの話をする時間も好きだった。
拓人は特に父の話が好きだったので、昔の話を聞かせてあげると目を輝かせてきいてくれた。
ゲームでテラを倒した時の動画はお気に入りなようで、繰り返し何度も一緒に見た。
拓人は、私がテラを倒す場面で必ず涙ぐむ。
途中で取り乱してる声は恥ずかしかったけど。
私は、拓人が父と出会った話が好きだった。
初めて聞いた時、最後に彼が父に抱きつく場面で泣いてしまった。
彼が救われたこと、それが嬉しかった。
そのあと、足を折られた話も聞いた。
『アキラってそういうところあるよな』という言葉に、激しく頷いた。
初めて一緒に外へ出た時は、緊張している私を彼の背中が守ってくれた。
それを見ているだけで安心でき、恐怖がおさまっていった。
私へ気付いたファンに声を掛けられた時も、固まってる私を見て、何も言わずにスッと間に入ってくれた。
そのおかげでファンの人も、しつこくしないで離れた。
慌ててファンにお辞儀をしたら、向こうも手を振って帰っていった。
『……これでよかったか?』
余計なことをしたかもと、不安そうな顔が愛おしい。
『ありがと、助かった』
そうお礼を言ったら、恥ずかしそうに頭を掻いていた。
それからは、二人で外出することに不安を感じることはなくなった。
彼は頼もしい。
いつだって、その背中は私を全力で守ると言ってくれている。
でも、私も彼を守りたい。
みんなでテラと戦ったあの時みたいに、守られているだけは嫌だ。
一緒に成長して、対等の立場でいたい。
出来れば少し上でいたいけど。
私の方がお姉さんだから。
「一緒に行くって言った、大丈夫」
赤くなった鼻をこすり、覚悟を告げる。
「……なら、しっかり捕まってろよ、その方が寒くない」
バイクに乗る時だけは、彼にくっつける。
普段、彼は絶対くっついたりしない。
私に触るのが怖いみたいだ。
なにかの拍子にさわったりすると、あからさまに動揺する。
キョドキョドする姿がかわいくて、たまにイタズラしてしまう。
危ないからと叱られたが、私は不死身だから大丈夫だと教えてあげた。
でも、そういう問題じゃないと諭された。
大切にしてくれているのがわかる。
それ以上に傷つけることへの不安を持っていることも。
店を出て、バイクへ跨る彼にしっかりと抱き着く。
私の好きな背中。
安心できる場所。
寒さをしのぐように、彼の熱をもっと感じるように。
強く、抱きしめた。
「……着いたぞ」
そこは町からだいぶ離れた場所だった。
近代的な造りの巨大な建物が、冬の空気の中で無機質にそびえている。
塀は高く、まるで人を守るためではなく、人を閉じ込めるために作られたように見えた。
「ここで暮らしてたの?」
あまりにも冷たい印象。
まるで、私が暮らしていた洞窟みたいだ。
人の営みをまるで感じない場所。
「おう……十年以上な」
親に捨てられて、生まれてからずっとこの施設にいたらしい。
施設で暮らしていた時の話は、あまり口にしなかった。
きっと、いい思い出ではないのだろう。
かじかむ手を擦りながら、大きな入り口を見上げると、そこには紋章が描かれていた。
ドラゴンに棒が刺さったような絵だ。
下にはRodの文字が書かれていて、なんだかカッコイイ。
「……マジでマリアの奴、何考えてんだ?」
呆然とそのマークを眺めながら、拓人が呟く。
確かに、冗談にしては大掛かり過ぎる。
きっと本気で彼を祀り上げるつもりなんだろう。
「……とりあえず、入るか」
拓人が扉へ歩いていくのについていった。
すると、トラックでも通れそうな大きな扉が、音を立てて勝手に開く。
観音開きで開けられた扉の向こうには、異様な光景が広がっていた。
施設の入り口、その広く開かれた場所に人が大勢集まっている。
全員が白いローブを羽織っており、整然と並んでいた。
私たちを囲むように配置された、見渡す限りの白い人垣。
正面には、黒いローブを羽織る十二人の人間。
そして、その中央に位置していたのは、金の刺繍が豪華に入れられた純白のローブを纏う少女。
ピンクゴールドの髪を靡かせた、神々しいまでの美しさを魅せるマリアだった。
彼女が片手を上げる。
その瞬間、全員が胸の前で手のひらを縦にした。
片手で合掌するような姿勢。
「「「進化を!」」」
一糸乱れぬ声が、空気を震わせた。
体の芯まで響くような音。
まるで全員がひとつの生命体になったような錯覚が起きる。
「……久しいのう拓人」
マリアが慈愛の籠った笑みを浮かべている。
「半年以上掛かってしまったが、ようやく目途が立ったのでな」
見てみろと言わんばかりに両手を広げた。
「そなたの為の教団ぞ、好きに使ってテラを倒してみせよ!」
誇らしげに、エメラルドグリーンの瞳を細めるマリアを見て、私たちが同時に呟いた。
「「え……無理」」
どうやら一緒に暮らしていたせいか、彼に私の口癖が移ってしまったらしい——。
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