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内閣総理大臣への道

 文翔たちは、部屋の中で計画の展望を話し合う。

 あまりにも困難な道だ、具体的な道筋が無ければ絵空事で終わってしまう。


 敏秀が、私に詳細な計画を求めてくる。


 

「それで、どうやって法律を変える?」

「成人年齢は引き下げられたが、だからと言って議員の年齢制限はそう簡単に変えられんぞ?」

「なにより、直近で今の線引きが合法であると裁判で判断されたばかりだ」


 現実的な指摘だった。

 確かに普通の手段ではどうにもならない。


「私が元々描いていた、史上最年少で総理になるための計画を、細部を変えて前倒しで行ないます」


 北条敏秀を超えるために描いた未来を、彼を助けるために成す。


「まずは私が知名度を上げるためにメディアを使い顔を出し、公職選挙法の改正を訴えようと思います」

「著名人との対話を通し、議員となるに相応しい能力を示し、国民に年齢制限の是非を問い、世論を動かします」


 そのために、メディア関係に強い人脈を重点的に築いていた。

 

「私の生い立ちなども公表すれば、話題性は十分です」

「母が非難されるでしょうが、それは罰として受けてもらいます」


 共に罪を償いたい。

 それだけのことをしたのだから。

 きっと母も望んでくれるはずだ。


「私は罪の証であると同時に、研究所の有用性を示す証拠ともなり得ます」

「あくまで子供の才能を伸ばす施設だったと示せれば、問題ないでしょう」

 

 事実、施設の子供たちは、社会に出て才能を開花させている。

 彼らに恩は売ってある、土下座してでも協力を頼むつもりだった。

 

「世論にどれだけ強い流れを生み出せるかに掛かってますが、メディアの力は強い、勝算はあると思います」

「あとは、息のかかった議員に後押ししてもらえれば、法改正が成される可能性は十分あります」


 父は、腕を組み、目を閉じて聞いていた。

 計画の粗を探してくれているのだろう。


「……五年だな」


 しばらく沈黙した後、呟いたのは彼の想定する年数。


「それも総理ではなく、国会議員になれるまでの時間だ」

 

 見通しが甘いと口にした。


「大した計画だ、確かに世論の波に乗ることが出来れば、法改定すら可能だろう」

「だが、二十歳以下にはならん」

「それに議員にはなれても、総理となるには余程の後ろ盾と、時流という運も必要だ」

「おそらく、最短でもそこから十五年は掛かるだろう」

 

 実感の籠った言葉だった。


「とは言え、その計画ならば文翔が議員になれた時点で、私の汚名は濯がれる」

「ならば私も政界に戻り、総理になる手助けも出来るだろう」

「ともすれば、二度目の総理を狙えるかもしれないな」


 野心を取り戻したように、不敵な笑いを見せる。


「いいだろう、私の力を貸すに足る計画だ」


 最大限の賛辞だった。

 自分の血肉ともいえる政治家としての地盤を貸して貰えるのだ。

 父に認めて貰えた、それで十分なはずだった。


 だが——。

 

「いえ、三年で成します」


 口にした約束は果たす。

 そのために人生を懸けるのだから。


「馬鹿を言うな!無理だと言ってるだろう、政治の世界を甘く見るな!」


 本気で怒ってくれている。

 その感情は、私を身内として見てくれている証だった。


「そのために、私は彼へ人生を預けました」


 アキラの娘との結婚、その意味はまだ分からない。

 きっと、私が想像出来ないほどの苦難が待っているのだろう。

 

 だが、それに見合うだけの価値が必ずある。

 私はすでに彼を信じ切っていた。


「……一条君か、だか君はすでに一条家を継ぐ資格を剥奪されてたはずだ」


 父も、目の前で繰り広げられた奇跡の数々は観ていた。

 だが、それと政治は関係ない。

 一条財閥の力を借りられないのならば、その力に意味は無いと言った。


「確かに僕は一条家の力を借りられません」


 アキラがその通りだと答える。


「だから、僕個人の繋がりで何とかしようと思ってます」


 柔らかく微笑む視線の先には、西園寺という少女がいた。


「そうか!西園寺さんが手伝ってくれるのか!」


 敏秀が思わぬ援軍に色めき立つ。

 

「西園寺家と『A・Uカンパニー』の力が借りられるなら、少しは現実味も帯びてくるな……」


 『A・Uカンパニー』

 

 それはここ数年で急激に業績を伸ばし、誰もが知る日本有数の企業となった会社だ。

 そこのCEOは若干十六歳の天才少女だったはずだ。

 

「君があの会社の最高経営責任者……なのか?」


 知名度の割に、表舞台には決して出て来ない用心深さ。

 それゆえに世間では謎の人物とされていた。


「はい、西園寺蕚と申します。どうぞよろしゅうお頼み申しますえ」


 雅な佇まいで緩やかにお辞儀をする所作は、育ちの良さが滲み出ていた。


「ウテナさんの力と、大和家の力をお借りしようと思っています」


 アキラが言う大和家の名に聞き覚えはなかった。

 だが、それを耳にした父が、驚愕の表情を表す。


「や、大和家だと……?まさか、()()大和の力添えを受けられるというのか?」


「はい、現当主が彼女なので、お願いすれば手伝ってくれると思いますよ」


「な……なんだと……!そういえば最近御当主が変わったとの噂は耳にしたが……」


 父の魂が興奮で激しく揺れていた。


「北条さん、大和家というのはそんなにも影響力があるのですか?」


 元総理が名前を聞いただけで動揺するほどの家格。

 一体、それほどの存在なのだろうと気になった。


「北条なんて他人行儀に呼ぶな!これからは父と呼べ!」


 その瞳は激しい野心を見せていた。


「大和家というのはな、長きにわたり日本を守護してきた家だ」

「その武力は日本最強と言っても良い」

「表舞台には出てこないが、日本の中枢に近いほど、その影響力は絶大だ」

「大和御当主の一言があれば、総理の首などいくらでも変わるだろう」


 日本を代表する表と裏から支援を確約されている。

 それはつまり、目的の成就を意味していた。


「成るぞ……文翔……この計画!」


 込み上げる笑いを抑えきれずに肩を揺らす父を眺め、現実感のなさについていけない自分がいた。


「あとは現物か……資金がなければ絵に描いた餅だ……出来るだけ綺麗な金を集めなければならないな……」


 ブツブツと算段を立て始めた父の魂が、黒く、そして美しく輝いていた。


「と、父さん……」


 その呼び名を口にするのにかなりの勇気が必要だった。

 

「なんだ!当てがあるのか!?」


 だが、父はそれを気にもせず、黒い光を揺らしていた。

 おそらく気持ちはすでに現役に戻っているのだろう。

 血走った目で、資金の算段を立てていた。


「一条が許すならですが……すでに三兆円を用意して貰っております」


 父の目が大きく見開かれ、固まった。


「もちろん使って下さい、先輩のために集めたのですから」


 私が最初に望んだアキラとの取り引き。

 裸一貫から伸し上がるのに必要だと思った金額。

 

 本来ならば、総理になる手伝いという契約には入れなくても良い報酬だった。

 それでも彼ならそう言ってくれると信じていた。


「三……兆……円……?」


 父が掠れた声で口にした、あまりにも現実味のない金額。

 だが、アキラが言うのだから、それは間違いなく有るのだろう。

 

 父もそれを理解していた。


「フフフ……これだけ条件が揃えば、どんな馬鹿でもなれるぞ……それが私の息子なら尚更だ……」

「フ……ハハハハ……フハハハハハ!」


 父が突然立ち上がり、狂気じみた笑い声を上げた。

 その魂は激しい感情の揺れを見せている。

 

「文翔!明日からウチに住め!」

「家内と娘には説明しておく、教えることも、会わせる人間も山ほどいるぞ!」

「その為には、時間がいくらあっても足りん!」


 一分一秒すら惜しいと声を上げる。


「よろしいのですか……?」


 それは、家族になれと言われたも同然だった。


「良いも悪いも無い!お前は私の息子だ!先ほどそう認めた!」


「でも、御家族に迷惑が……」


 すでに多大な迷惑を掛けていた。

 何の罪も無いのに、世間から後ろ指を刺されるような状況に追い込んだのは私たち親子だ。

 それを思うと申し訳なさに胸を締め付ける。


「言っただろう……私は家族が大事ではある、だが、野望の方が何十倍も大事なのだよ!」


 そこにいるのは権力に憑りつかれた男の姿。

 魂を視られることすら恐れず、欲望を真っ直ぐに晒している。


 清廉潔白な仮面を脱ぎ、限られた人間にしか見せないであろう顔は、私を息子と認めた証でもあった。


「先ほど少し顔を見せたがな、あらためて妻と娘を紹介する」


 アキラに手術を施されていた時、家族が帰ってきてこの場を見たらしい。

 だが、人に見せられる状況ではなかったので、すぐに退出させたみたいだ。

 

「忙しくなるぞ……寝る暇なんぞ無いと思え!」


 覚悟は行動で示せと告げる。


「……望むところです!」


 

 こうして、文翔は総理への道を走り始めた。

 これからの道程は険しく辛いものだろう。

 それでも、必ず成し遂げるだろう。


 それこそが、彼の生きる意味なのだから——。

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