血と魂と瞳が証
文翔は、目標を定めた。
内閣総理大臣という困難な道を、しっかりと見つめながら。
繋いだ手の先にいる、神を名乗る男の手を借りて。
「そういえば敏秀さんが、お母さんの異能を受け継げなくて残念だとおっしゃいましたが」
アキラが私の手を離し、その手のひらをテーブルに向けた。
「それって、この力ですよね?」
卓上のコップが宙に浮かぶ。
それはまさしく母と同じ力だった。
「なんで……一条が……?」
当たり前のように行われた奇跡に、声が掠れた。
「これは、体に流れる魔力や霊力と言われる力を使って行う術です」
アキラに、未知なる力の存在を示唆される。
「そして、先輩にもこの力は受け継がれています」
告げられたのは、母の願いが叶っていたという事実。
「……本当なのか……?なら……なんで出来ない?」
何度も試してみた。
母との確固たる繋がりが欲しくて。
だが、一度たりともそれが出来た事は無かった。
「先輩、頭を叩く癖があったでしょう?」
「元々、頭の魔術神経が混線していて、ストレスを感じると無意識にそれを治そうとしていたのです」
言われてみれば、その悪癖は昔からあった気がする。
酷くなったのは施設を出てからだが。
「魔眼の魔術神経と元からあった魔術神経が絡み合い、お母さんから受け継いだ方は機能していません」
告げられたのは、自分に母の力は受け継がれていた事実。
ならば、生きているうちにそれを教えてあげたかった。
今日、何度目かの涙が流れる。
「どうします?混線を治せば使えるようになりますが、先ほどよりも辛いですよ?」
覚悟が必要だと、アキラの目が伝えていた。
「お願いだ……母の想いをこの身に宿してくれ」
おそらく、想像を超えるような地獄が待っているだろう。
だが、迷いはない。
それを耐えることによって、不動の覚悟を手に入れる。
母と共に——罪を償う。
「良い覚悟です、素晴らしい魂の輝きですよ」
心底嬉しそうなアキラが、髪を掻き上げる。
すると、彼の影がふわりと広がり、文翔の全身を包み込んだ。
重力が反転したような、不思議な浮遊感。
身体は確かに拘束されているのに、痛みはない。
ただ、身動きひとつ取れないほどの何かに固められている感覚だけがあった。
「それでは、始めます」
アキラの指先が私のこめかみに突き刺さる。
世界が一瞬、白く弾けた。
脳の奥に直接響くような痛み。
視界が波紋のように揺れ、音が遠ざかる。
激痛と共に、体内の構造が書き換わる感覚。
自分の中の何かがゆっくりと解け、別の何かへと繋がっていく。
いつのまにか口に管を挿入されていた。
感じた事のない痛みの中、管を噛み、ただ叫んでいた。
何度も気絶と覚醒を繰り返しながら、もう少しだけ心の準備をさせて貰いたかったと思った。
身体中の液体が外に流れ出た気がする。
それでも、恥や外見など気にする余裕はない。
心に浮かべていたのは二つのこと。
自分が犯した罪の清算と、母の願いをなんとしても叶えるという想い。
ただそれだけを掴み、必死に耐えた。
全てが終わった時、窓の外には夜の帳が下りていた。
目の前には、支えなく空中へ浮かんだコップ。
それを成しているのは、紛れもなく自分の力だ。
アキラのおかげで、母から受け継いだ異能が開花していた。
「他にも色々と出来るようになってますが、それはゆっくり馴染ませてください」
アキラが爽やかな笑顔を向けて、手術の成功を告げた。
「ありがとう一条、途中で母さんに会えた気がするよ」
おそらく走馬灯のようなものだったのだろう。
「上手くいって良かったです、途中で七回死にましたから」
どうやら本当に走馬灯だったらしい。
「よく耐えたな、見ているこちらの方が倒れそうな光景だったぞ」
好き勝手に部屋を使われたのに、敏秀は感心するように言ってくれた。
私が汚した部屋は、すでにアキラが綺麗にしてた。
様々な奇跡を目の当たりにした今、彼が神のような存在だという事実に疑いは無い。
「本当に、ありがとうございます」
敏秀に向かい、深く頭を下げる。
「礼を言うのはまだ早い、それは総理になってから言ってくれ」
口角をわずかに上げて、その時に借りを返して貰うと含ませた。
「それで、どのような展望を描いているのだ?」
その目が鋭さを帯びる。
一度はこの国のトップに上り詰めた男だ。
手を貸すとは言ってくれたが、生半可な計画では動かないだろう。
「まずは、議員になる年齢制限を大幅に引き下げます」
「現在の成人年齢である、十八歳で立候補出来るようにする予定です」
先ほどアキラが立てた計画をそのまま伝える。
「そして、強力な後ろ盾を武器に立候補し、当選を果たします」
「その後は、私の能力を全力で振るい、総理の座を手に入れます」
そのために、人脈を広げて資金を集めていた。
本来なら、それが形になるのはまだ先の予定だったが、敏秀を待たすつもりはない。
「自分の為だけに法律を変えるか、大きく出たな」
敏秀の視線が強くなっていく。
議員時代、国民に見せていた柔らかな目付きとは真逆の、猛禽類のような獰猛な瞳。
それは彼の持つ野心を剥き出しにしたもの。
並みの人間なら震えあがってしまうだろう。
「国を動かすことは簡単じゃない……その覚悟があるのか?」
罪の償いの為だけに、国を変える我儘の重さを問われた。
「……あります、必ず貴方を議員に戻してみせます」
その為に命を懸ける覚悟があった。
自分の魂を込めて、真っ直ぐに視線を合わせる。
「良い目だ……確かに君は私の息子だよ」
敏秀はゆっくりと息を吐き、笑った。
「私も、そんな目をしながら上り詰めた」
懐かしむように天井を見上げる。
「文翔、お前に私の全てを預けよう」
再び視線を合わせた時、そこには父の優しさが浮かんでいた。
「必ず……期待に応えてみせます……」
敏秀の魂を視つめる視界が揺れる。
だが、目に映る彼の魂は揺れていなかった。
そこに、自分を本気で信じてくれている父がいた。
「親孝行を期待しているぞ」
母を失い、寄り所を失った私に父が出来た。
そして、母との絆をこの身に刻んでくれた。
その奇跡をくれたのはアキラ。
父と彼の望みを叶えよう。
それが私の生きる意味だ。
文翔は、目の前の二人に深い感謝を抱き、覚悟を確かめるように、強く拳を握りしめた——。
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