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天照

 弱者による数の暴力。

 それは時として最強すらをも倒し得る。


 集団の中に強者が混ざっているなら尚更だ。


 

「昔を思い出すな」


 人類神が、初めてテラに傷を付けた時を思い起こしていた。

 あの時も沢山の人と共に戦った。


 皆が潰されて蹴散らされていく中、必死にその体へと武器を叩きつけた記憶。


 あの傷からテラとの()()は始まったといえる。

 それを思い出し、アキラは懐かしさに目を細めていた。


 画面の中では、自分の操るキャラクターがテラを少しずつ追い詰めている。

 空は味方の矢で埋め尽くされていて、その全てが彼女を狙っていた。


 この場にはすでに味方しかいない。

 人は力だと、あらためて思った。


 自分の娘が、息子が、彼女が、弟がテラへ刃を向けていた。

 家族がテラを倒そうと全力で戦う姿を美しいと思った。


「そろそろ終わりだね、僕が隙を作るからアマテちゃんトドメお願い」


 残り時間は一分を切っている。

 どうせなら娘に華を持たせてやりたい。


 アキラは細かなコントローラー捌きでテラの動きを制限する。


「一対一なら負けてただろうな」


 ゲームという初めての遊戯に練度が足りていない。


「でも、人類の力で勝たせてもらうよ、テラ」


 彼女が他のプレイヤーを蹴散らしたところへ剣を突き入れる。

 それをギリギリで弾き飛ばした時に、ピンポイントで矢が飛んできた。


「これで終わりだね、楽しかったよ」


 残り時間十五秒、アマテラスの放った矢は総大将テラの胴体を貫き、決着がついた。



「勝者、ドラゴンバスターズ!」


 アナウンスが流れた時、コントローラを握っていた手が興奮で震えていた。

 部屋の中から歓声が聞こえ、チャットが祝福のコメントで溢れ出す。


「おめでとう、アマテちゃん」


 すぐ近くで拍手をしてくれる父に、私は思わず駆け寄り、抱き着いた。


父君(ててぎみ)ー!」


 安心と喜びで涙が溢れ出す。

 それを父は優しく受け止めてくれた。


「テラを倒すなんてすごいじゃないか、誇りに思うよ」


 褒められた言葉に、頭を振った。


「……ちがうの……みんなが助けてくれただけなの……」


 姉が、弟たちが、妹たちが、友人たちが今の状況を作ってくれた。

 そして、こんな自分のために集まってくれたファンのみんなも支えてくれた。


「そんなの僕も同じさ、いつだって人類に助けられてきたよ」


 生存するため、戦いに勝つため、人類神は人々の力を借りてきた。


「人に愛されるところは、僕にそっくりだね」


 揺れる視界には、嬉しそうに微笑む父の顔があった。

 その言葉と笑顔で、心の澱が流れるほどの涙が零れ、ひたすらに泣いてしまう。


 三千年分の涙は、止むことを知らないように、アキラの胸を濡らし続けていった。



「そういえば、アキラはなんでこの場に来られたのだ?」


 雪乃が疑問を口にする。

 あまりにもタイミングが良かった。

 それを不思議に思ったのだ。


「さっき試合を見ていたら、心寧ちゃんから電話が掛かってきてさ」


 どうやら、テラに瞬殺された心寧は、慌ててアキラに連絡したらしい。

 こちらの状況を説明して、コンシェルジュさんのキャラを操作して欲しいと、お願いされたみたいだ。


「今回は、僕の娘のためにみんなありがとう」


 部屋いる人々を見渡し、お礼を言う。


「スーくんとツッくんもお疲れ様」


 スサノオは最近、ツクヨミは千五百年ぶりとなる父との再会だった。


「後で刀の中を、住みやすく改造しておくからね」


 何もない空間が広がる場所に、息子を放って置くわけにはいかないとリフォームを約束する。


「……ふん、相変わらず我が子に甘いことだ」


「父君……ありがとうございます」


 そして、アマテラスを抱えながら、影に手を伸ばすと何かを取り出してヒルコへ渡す。


「ひるちゃん、これプレゼント」


 手渡したのは黒いリボン。


「パパ、これは?」


「常闇の太刀の代わりに作ったんだ、着けてみて」


 ヒルコがツインテールを解いて二本のリボンで留めなおす。

 すると、黒かった髪がピンクへ戻っていく。


「太刀より強力だから、これからは何日でもこっちにいられるよ」

 

 アマテラスのために姉として働いたことへの御褒美。

 それをアキラは用意していた。


「パパ……ありがと!大好きー!」

 

 胸はアマテラスが付いたままだったので、背中に飛び乗る。


「ひるちゃんは、みんなの長女としてがんばってくれたもんね」


「そんなの当然よ!だって私はおねーちゃんなんだから!」

 

 二人の娘にくっつかれながら、幸せそうに笑うアキラ。


「マサトもありがとね」


「家族のことだからね、役に立てたなら良かったよ」


 その為に骨を折るのは当たり前だと口にした。


「ヴェネは……まあ、大したことしてないだろ」


「そんなぁ!今回はテラ様と敵対してまでがんばったのよぉ!」


「いやお前、最初から最後までほとんど動かないで鼻歌を歌ってたろ」


「そ、それは皆様方のお邪魔にならないようにぃ、していただけでぇ……」


「まぁ、動画配信の方では助けてくれたみたいだから、貸しひとつにしてやるよ」


「ほんとぉ!やったぁ!なにしてもらおうかしらぁ!」


 ウキウキと嬉しそうに目を輝かせるアストレアを放り、三人の彼女に目を向ける。


「さっちゃん、うっちゃん、雪乃、ありがとう」


 アキラの心からの感謝を受けて、三人の乙女は瞳を揺らす。


「アキラさんの……お役に立てたのなら……」


 幸江は、言葉が続かないように声を震わせた。


「うちにとっては、当たり前のことをしたまでどすえ」


 蕚は、アキラを喜ばすことこそが生きる意味だと伝える。


「アマテラスは娘のようなものだ……元気になってくれたなら、私も嬉しい」


 雪乃は、ずっと気にしていた胸の(つか)えが下りたように笑う。


「それじゃ、三人にもお礼をしなくちゃね、どの指がいい?」


 そう言って、胸に抱き着くアマテラスの手を広げた。


 

 目の周りが、パンパンに腫れるほど泣き続けていたのが、一瞬で止まった。


『どの指がいい?』


 父がそう言って私の手を握ったからだ。


 安心し、心が温かく癒されていたところへ、ツララを差し込まれたような言葉。


「……て、父君(ててぎみ)?」


 思わず父の顔を見る。

 そこにはずっと変わらない優しい笑顔があった。


「パ、パパ……この雰囲気でそれはちょっと……」


 姉が父の背中から降りて止めに入る。


「なんで?三人は約束を果たしたんでしょ?ならばそれは守らないとダメだよ」


 確かにその通りだ。

 雪乃たちは、私に仕事を用意してくれて、テラを倒す助けをしてくれて、今まさに自分の足で父に抱きついてる。


 もともとお礼はするつもりだった。

 でも、心の準備ができてない。


 「ちょうど、切れ味のいい刃物もあるし」


 父が私から離れ、弟たちの宿る太刀を引き抜く。


「待て!親父殿!さすがに酷だ!」


「父君!我らでそれを成すのはおやめくだされ!」


 弟たちが必死にやめさせようとする。


「切れ味のいい方が痛くないよ?」


 不思議そうな顔をして刀を握る父。


「ア、アキラ……私たちはそんなに急いでない……ちょっと待ってやってくれないか」


「そ、そうどすなぁ……せめて心の準備をさせてあげはったらよろしゅうございますえ」


「お、御心のままに……」


 さすがの三人娘も少し引いていた。


「うーん、でも約束は果たさないとさ」


 思い出した。

 

 そういえば父は使命に生きてきたせいか、人と交わした約束にだけは昔から厳しかったのだ。

 だけど、せめてもうちょっとだけ心の準備が欲しい。

 必ず覚悟を決めるから……二十年くらいかけて。

 

「兄さん……アマテラスさんにそれをするなら、沙耶さんに言いつけるよ」


 マサトが鋭い目で父に告げた。


「え?なんで?」


 思いもよらない人物の名を聞いたように、父が驚いた顔をした。


「自分の娘の指を切るなんて聞いたら、沙耶さん絶対悲しむよ」


「そうなの!?痛くしないし、ちゃんと元に戻るのに?」


「怒られるのは間違いないよ」


「……ならやめておこうかな、沙耶さんが怒るなら、きっと良くないことなんだろうね」


 父があっさりと退いた。

 そのことで私はびっくりする。


 『人として、命を懸けてでも約束は守れ』と言っていた父の姿はそこにはなかった。

 

 沙耶という人は、いったい何者なんだろうか。


「じゃあ、三人には僕から別のプレゼントを用意しようかな」


 それを聞いて雪乃たちが瞳を輝かせた。

 

「それにテラ討伐を祝いたいし、ちょっとみんな上に上がってくれる?」


 父は刀を肩に預けて、皆を影で屋上へ送る。

 

 気付いたら夜風を受けていた。

 

 四十年ぶりの外出は、父の手によりあっけなく果たされてしまった。

 あまりにも突然過ぎて、怖がる暇すらなかった。

 

 高層ビルの屋上から見た夜景は、目を奪われるほど綺麗なネオンが広がっている。


「この刀、穢れが溜まり過ぎてて危ないから、ちょうどいいや」


 姉の穢れを吸い続けていた常闇の太刀。

 言われてみれば、確かにその刀身には瘴気が漏れ出していた。


「僕はこれから宇宙へ行くから、皆は空を見ていてね」


 父は、上に向かい指をさして、ニッコリと笑う。

 皆が呆気にとられていた次の瞬間、物凄い風と共に父の姿が消えた。


 

 夜空には綺麗な流れ星のような光が、尾を引きながら何百何千と走っていく。


 それはアキラが放った流星群。


 視界一面に流れる煌めく光は、産まれて初めて見る美しさだった。


 洞窟の中に籠っていたら、絶対に見られなかった景色。

 それを、大切な人たちと眺めている奇跡を想い、再び涙が零れた。


「きれい……」


 心から漏れ出た言葉に、みんなが頷いた。


 まだ外は怖い。

 でも、こんなに素晴らしいものが見られるなら、外も怖いことだけじゃないんだと思えた。


 今度、父の家へ遊びに行こう。

 友達や、妹にも会いに。


 ゆっくりと、自分の足で歩いて外に出よう。


 きっともう大丈夫、だって外にはこんなにも光が溢れているのだから。


 

 こうして、天を照らす光は、美しく夜空を彩り続けた——。

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