神を照らす光
殺戮が行われていた。
それは戦いとは呼べない一方的な蹂躙。
彼女の通り道にいる者は、壁にすらなれず消え去るのみ。
恐怖が形となり歩いている。
人類の天敵が、そこに存在していた。
「テラは私が止める!」
隣の部屋から雪乃が声を張り上げた。
「なら急いで!前線は私と幸江が持ち堪えさせる!」
ヒルコが、拠点を奪い返されないように動き出していた。
「スサノオとツクヨミはアマテちゃんを守って!」
今度こそ姉を守れと指令を下す。
「任せておけ!」
「やらせはせんよ!」
兄弟が気合を入れて本陣へ向かう。
「マサトとアストレアは拠点を死守して!」
時間切れまで守り続ければ勝てる。
戦えない彼女らが下手に動くより、拠点を確保しておくことが大事だった。
「わかりました!」
「おっけぇ!テラと戦うなんてぇ、絶対いやよぉ」
それぞれの任務をこなすと口にした。
「ウテナは奪われそうな拠点を回って!」
全体を見るのが得意な彼女にフォローを任す。
「お任せいただきますえ」
蕚はチャット履歴をチェックしながら駆け出した。
「十番隊は……仕方ないわね」
最初に拠点を奪取して貰ってから動きの無い、コンシェルジュの高橋秀樹さん。
彼は部屋におらず、マンションのエントランス内で、最初の五分だけのプレイを条件に参加して頂いた。
仕事の合間を縫って手伝って貰うのだ、無理は言えない。
「アマテちゃん、正念場よ!」
ヒルコは総大将に告げる。
残り時間は十五分、それを耐え切ればこちらの勝ちだ。
「……」
だが、アマテラスからの返事がない。
「アマテちゃん?」
そばにいる妹の顔を見ると、そこには真っ青に染まって震えを見せるアマテラスがいた。
「………………無理」
「どうしたの!?これを凌げば勝てるのよ!」
先ほどまで、集中してゲームを楽しんでいたアマテラスは、そこになかった。
耳元で、知らない男が一方的に話しかけてくる。
動画のここがダメだった、もっとはっきりしゃべったほうがいい、肌の露出を上げてくれ。
文字で見る分には気にしていなかったことが、直接知らない人の声で突きつけられる。
そのせいで、みんなの声が頭に入って来ない。
頭の中は、他人に対する恐怖で占められていた。
ゲームなんてやめて、今すぐ布団の中に潜り込みたい。
何のためにやっていたのかすら、もはやわからなくなっていた。
画面を見ると、テラがこちらに向かってるのを示すように、チャットが阿鼻叫喚で埋め尽くされていく。
「すまん!止められない!」
リビングと耳元から雪乃の悔しがる声が上がった。
少しして、別の知らない男からの声が聞こえ出した。
「……聞こえる?あまてらすちゃん、僕、ずっとファンだったんだ」
「話せて嬉しいよ、これは運命だと思うんだ」
「抽選に当たった時点で絶対そうだと思った」
「とりあえず、会いたいから住所教えてよ」
粘っこい話し方で、話しかけてくる男。
耳にこびり付くような気持ちの悪い声。
雪乃がテラに倒されて、隊長が交代したのだろう。
独りよがりな想いを垂れ流す声は、アマテラスの精神をさらに削り続ける。
手が動かない。
ヘッドセットを外すことすら出来なくなっている。
「……無理……たすけて……」
瞳を揺らし、誰に向けるでもなく弱音を吐いた。
「大丈夫だ!姉君!俺がなんとかする!」
「まてスサノオ!ここで姉君を守れ!」
二人には、この男たちの声は聞こえていない。
テラを怖がっていると思ったのだろう。
スサノオがテラへ向かい駆け出す。
それをツクヨミが止めようとしていた。
それは、まるであの時の出来事をなぞっているようで、心が悲鳴を上げだした。
「…………やめて…………やめて!」
精神的に不安定になっているところに、最大のトラウマを再現されたことにより、心が壊れていくのを感じていた。
「無理……無理……無理ぃぃぃぃぃ!」
思わず叫び出した私に、雪乃が駆け寄ってきた。
「アマテラス!落ち着け!大丈夫だ!皆が守ってくれる!」
肩を掴み、画面を見ろと指を差す。
確かにチャットには、私を心配する声で溢れていた。
そして、救援に駆けつけようと、沢山のプレイヤーが本陣へ急行してくれている。
だが、今はそれすら私の心に何も響かない。
「無理なの!無理だったの!結局、私はなにひとつ変われてなかった!」
すでに涙が零れていた。
「今でも私の心は……あの暗い洞窟の中にあるの!出られないの!」
三千年積もった心の重りは、そんな簡単に落とせるものではなかった。
「どうすればいいのかなんてわからない!前なんて向き方も知らない!光なんてどこにもなかったの!」
ずっと呼吸すら忘れ、虫の這うカビ臭い洞窟の中、冷たい岩の上でただ横たわっていた。
「私には!こんな明るい場所は無理なの!天照なんて名前……絶対似合わないの!」
心にずっと抱えてた想いを泣きながら叫ぶ。
それを受けて、部屋の中は静まり返っていた。
姉は、急ぎ過ぎたことを悔いているように。
弟たちは、再び後悔を思い出し。
友人たちは、彼女の心に深く根付いた闇を想い。
誰もが口を開けなかった。
だが——。
「僕はね、君が生まれてくれたことで、そこに光を見たんだ」
私のすぐ後ろから声が聞こえた。
「こんな僕でも、特別な人を作れることに気付かせてくれた」
知らない声。
「僕にとって、君は光だったんだ」
それでもわかった。
「だから、神を照らすという名を付けたんだよ、アマテちゃん」
その人は、私にとっても光だった。
「……父君」
そうだ、光はあった。
父こそが、私を包んでくれる光そのものだったじゃないか。
その手がヘッドセットを外し、私の頭を撫でてくれた。
それは、昔と変わらない愛情の籠った温かな手。
「戦ってるのちゃんと見てたよ、よくがんばったね」
ずっと会いたかった人が、すぐそばにいた。
「でもどうせなら、テラ、狩っちゃおうよ」
その言葉に、思わず振り向く。
「家族みんなで力を合わせてさ」
そこには可愛らしい青年が、悪戯っぽく笑っていた。
「コンシェルジュの高橋さんにパソコン借りたから、僕も参加するね」
そう言って、影からノートパソコンを取り出すと、十番隊隊長の画面が映し出された。
慣れてないようにコントローラを握り、全てのボタンをひとつずつ押す。
「うん、わかった、いけそう」
そして十番隊隊長が疾走する。
おそらくこのゲームを初めてプレイするのだろう。
もしかするとゲーム自体をやったことが無いかもしれない。
だが、その動きはプロゲーマーすら凌駕していた。
すれ違いざまに敵プレイヤーを剣で薙ぐ。
そこに無駄は一切ない。
相手の動きを全て先読みしているように攻撃を置いていく。
すると相手は吸い込まれるように自分から剣へ飛び込んでいった。
テラとは種類の違う圧倒的な強さ。
それはまさに芸術と呼べる動きだった。
「いたいた、アレでしょ?頭の上にtera@doragonとか書いてあるし」
本拠地近くまで迫っていたテラを補足し、駆け寄っていく。
「一度やってみたかったんだよね、家族みんなでドラゴン退治」
ニッコリと笑うアキラを見て、一番隊隊長が駆け出す。
「パパとゲームなんて最高じゃない!」
その瞳は輝いていた。
「すぐに御側へ参ります!」
二番隊隊長はすでに本拠地へ向かっていた。
「アキラ君との共同作業はうちに任せておくれやす!」
三番隊隊長が最短ルートで爆走する。
「お久しゅうございます……父君!」
五番隊隊長が声を震わせテラへ向かう。
「今度は目の前で倒して見せるぞ!親父殿!」
六番隊隊長が鼻息を荒くした。
「来るのが遅いよ兄さん」
七番隊隊長が微笑みを浮かべた。
「ワタクシは拠点を守る仕事がありますのでぇ、こちらをがんばりますわぁ」
八番隊隊長が日和見をかます。
そして、総大将の私はヘッドセットを付けなおした。
「全軍……敵の総大将を……討ちます!」
その声は、確かな力を持って、自軍全てに響き渡った——。
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