強襲は最も得意な戦法です
戦場は刻一刻と変化していく。
当初の予定通り、数の上では確かに圧倒していた。
ゲーム開始直後に、テラ陣営にいたアマテラスのファンが、アマテラスのそばに行きたいと一斉にこちらへ向かった。
想定通り、おそらくゲームシステムを理解していなかったのだろう。
向こうの隊長は、そういった自軍に害となる素人プレイヤーを次々と退場させ、向こうの戦力は開始から十分の時点で半数以下となった。
もちろんこちらも同じ状況で、自軍のプレイヤーたちもアマテラスの周りに集まっていた。
だが、本陣に味方がたくさんいるのは人壁として役に立つので放って置いた。
それに山岸心寧とヴェネリス・アストレアの参戦により、彼女達の周りにも人が集まり、その守りを強固にしてくれたのだ。
このままならば、ゲームは有利に進み続けるはずだった。
だが、やはりプロゲーマーのスキルは他よりも隔絶しており、隊長として部隊を立て直すと、少人数でも果敢に拠点を奪取していく。
そして、彼ら十人全員がネームにテラの信望者の証である『P』を掲げていた。
なにより誤算だったのが、公平を期すために運営側がプロゲーマー十名をこちらの陣営に入れたことだ。
その中にはもちろんPを付けたプレイヤーもいた。
つまり、こちらは獅子身中の虫を抱えることになったのだ。
自軍の妨害をすればすぐにでも退場させられるのだが、流石にプロだけあってそこは抜かりなく指令を達成してみせた。
このままでは最終局面にて、予想外の裏切りを喰らう恐れがあった。
そこでヒルコは、こちらのPプレイヤーと向こうのPプレイヤーをぶつける作戦を取った。
結果としてそれは功を奏し、お互いが潰し合ってくれた。
彼らはテラを信望しているのであり、プロゲーマー同士はただのライバルだ。
むしろランキングなどを競う敵同士とすらいえた。
戦場で激しく争い合うプロゲーマーを見届け、ヒルコは胸を撫でおろした。
「皆さん、現在、十五ヶ所を制圧しました……このまま慎重に進んで……下さい」
アマテラスの声が、自軍の兵士達へ伝えられる。
このゲームの通信は、総大将の声が常に味方全員に届き、隊長の声は総大将と自分の隊員百名のみに届く。
他の兵士は、自軍の全体チャットで書き込むことのみ許される。
つまり、総大将は戦場全体を俯瞰して、常に指示を出し続けなければならなかった。
それはアマテラスに膨大な仕事量を課していた。
基本的に、アマテラスはヒルコの声を聞き、皆に指令を出していた。
だが、彼女が戦闘に入ってしまうと自分で指令を考えなくてならない。
「F2の拠点が攻められてます……二番隊向かって」
「四番隊は敵本拠地に近すぎます……もっと下がって」
「八番隊、目的地からズレてます……マップよく見て」
それでも、その役割を想定以上にがんばっていた。
盤面を見て頭を使い、必死に声を出して。
皆が自分の為に全てを準備してくれた。
私はそれに応えたいと、本気で思っていたのだ。
なにより、ゲーマーの血が燃え滾っているのを感じていた。
四十年間、アクションゲームからシミュレーションゲームまで幅広く遊んできた。
最近のネットゲームだって、ランキング上位に入るくらいやり込んだ。
そして、『tera@doragon5000』の存在もよく知っていた。
彼女と直接戦ったこともあるし、ランキングを賭けて鎬を削ったこともあった。
しかし、一度も勝ったことは無かった。
まさかテラ本人だとは思っていなかったが、名前を見て苦手意識を持っていた。
姉にテラのプレイヤーネームを告げられた時は、ゲーム内とはいえ、一緒に遊んでいた事実に思わず背筋が凍った。
それでも今は違う。
テラへ勝つ為だけに此処にいる。
殺されかけて三千年、ゲームを初めて四十年、配信者として二ヶ月。
その全ての想いを、この戦場に懸けていた。
「三番隊、E5の中央で敵を食い止めて」
戦況は有利に進んでいた。
やはり数の力は大きい。
プロゲーマーを排除してしまえば、残っているのは普通以下のプレイヤーばかりだ。
「兵士のみなさん……お願い……私を勝たせて」
時折、味方プレイヤーを鼓舞する。
すると味方の全体チャットに兵士たちのコメントが埋め尽くされた。
『生声イイ!』
『当選した甲斐あるなぁ』
『眩しっ!』
『やり方わかんないんだけど、突っ込めばいいですか?』
今この場にいるのは、アマテラス目的で集まったプレイヤーばかりだ。
反応は様々だが好意的なもので埋められる。
「出来るだけ隊長の指示を聞いて従って……ください」
チャットを読みながら、適度に指示を出す。
そこには、二ヵ月前に布団の中で震えていた彼女の姿はもうなかった。
「いいわよアマテちゃん!残り二十分、このままいけば勝てるわ!」
ヒルコから戦況の有利を伝えられ、心が湧きたつ。
今までチームプレイのゲームは一切避けてきた。
人と関わるなんて無理だと決めつけていたからだ。
だけど、今はそれを楽しいと思えている。
人と繋がる喜びを三千年ぶりに思い出していた。
生まれ育った村で、姉弟三人とも大切に神様のように愛された。
人々は皆優しく、笑顔の絶えない生活だった。
なにより、そこには大好きな父がいた。
それを壊したテラへ、必ず勝ってみせる。
「九番隊、戻ってこないで……その拠点を守って」
心寧の部隊が、指示と違う動きをしている。
操作に不安のある七、八、九の部隊には、制圧した拠点の守備を任せてあった。
なのに、そこを放棄して、本陣へ戻ってこようとしていた。
「九番隊?……どうしたの?」
心寧からの返答がない。
「うわー、俺、マジで『あまてらす』と話してる!」
返ってきたのは、全く知らない男の声。
「え……?だ、誰ですか?」
緊張で声が震えた。
「あ、俺、この九番隊っていうの?にいたんだけど、心寧ちゃんがやられちゃって隊長になったんだよね」
心寧は今、この部屋にいない。
急な参加をお願いして、自宅のパソコンでプレイして貰っていた。
だから、やられたことに気付けなかった。
「俺さー、結構あまちゃんの古参でさ、ずっと応援してたんだよねー」
隊長は、総大将と直接話が出来る。
そのことに、このプレイヤーは浮かれていた。
「あ、あの……持ち場に……戻って……」
知らない男に話しかけられて、急に心が不安になってしまう。
「いやー、せっかく本人と話せるんだし、もっとキャラも近くの方がいいかなーって」
恐れていたことが起きた。
「お、お願いします……指令を聞いて……く、ください」
隊長が一人でも欠けると、知らない人と話さなくてはいけなくなる。
「なんかもう勝つっしょ?大丈夫っしょ?それよりせっかくだから、もっと話ししたいなー」
心の準備もせず、知らない人間と意思疎通するなんて無理。
それを危惧して、知り合いのみで固めていたのだ。
「戻って……拠点を固めて……お願い……します」
振り絞るように願う。
「いやーでもさ、なんかあそこ、いきなり鬼強なキャラが現れたから危ないって」
告げられたのは、戦場に異変が起きたという事実。
それを聞き、脳裏にとある可能性が浮かんだ。
「なんか小さいのにゴツくてさー、あれ、絶対やばいヤツっしょ!」
それは心寧を撃破した相手が、隊長や一般兵ではないというもの。
事前に立てていた計画の中で、もっとも危険視されていた事態。
「そういや、名前の横に王冠ついてたよ」
その印は、アマテラスの名の横にも付けられている、総大将の証。
つまり、テラによる襲撃だった——。
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